依頼1-3
午前七時半――。
それが依頼人・城村英輔との待ち合わせ時刻だった。
城村は朝早くからすみません、と恐縮していた。
待ち合わせは城村の家の近所の公園だった。オレが迷わないようにと案じたためだ。
城村は、家まで案内します、と言って歩き出す。
オレは眠い目をこすりながら後に続く。
昨夜はどうせ退屈な時間を過ごすのだから、と夜更かしした。
その仕事に対する心構えの悪さにバチがあたったのか散歩中の犬に激しく吠えられた。
「すみません、普段はおとなしいンですよ、ねェ」
飼い主は謝罪よりもペットへの愛情にウエイトを置いた。
城村は災難でしたね、というような顔でオレを見た。
オレはそういう連中からも仕事を与えてもらっているため文句は控えた。
公園から五分ほど歩いた所に城村の家は建っていた。
一見するとオレが想像していた留守を心配するような立派な造りではなかった。それでも留守番を依頼するくらいだからなにか大切なものがあるに違いない。
城村がドアノブに手をかけて振り返った。
すみませんが、と言って人差し指を口に持っていった。
オレにはなぜそうしなければならないのか理解し難かったが、依頼人に従い無言で家に入った。
玄関を上がるとキッチンを抜けリビングに通された。
留守番を引き受けたはずなのに自然と空き巣のような忍び足になっていた。
城村の妻が三人掛けのソファーから立ち上がりオレを出迎えた。
よろしくお願いします、と声を落として頭を下げる姿に弔問に訪れたような気分になる。
ソファーに腰を下ろす。
コーヒーか紅茶でも、と勧められると思ったが、二人は出掛ける準備をしていた。
ぐるりと部屋を見渡す。
高級そうな絵画や置物は見当たらない。
もっとも目が利くわけではないからあてにはならない。
オレに留守番を依頼した理由は今もってわからないままだ。
「そろそろ出掛けますのでよろしくお願いします」
城村夫妻が恭しく頭を下げた。
五時には妻が戻ります、と言って出てゆく。
オレは腕時計に目をやる。
八時を少し回ったところ。
長い一日になりそうだ、とソファーに倒れた。そして予定通りに目を閉じた。
十分――。二十分――。
すぐには眠りにつけなかった。
やはりオレに留守番を依頼した理由が気になる。このまま午後五時を迎えられるとは到底思えない。
なにか訳があるはずだ。
ピッ!
と、腕時計のアラームが鳴ったそのとき、天井の方から物音がした。物音は一定のリズムで移動してゆく。
足音!
オレはソファーから跳ね起き息をひそめた。
――誰かいるのか?




