依頼1-4
泥棒。
咄嗟に頭に浮かんだのはその二文字だった。
やはりこの家には城村が懸念したなにかがあるのだ。それならば留守番を引き受けた以上阻止するのがオレの役割だ。
オレは忍び足でキッチンへ進み、廊下の手前に身をひそめ聞き耳を立てた。
二階の方からドアを開ける音がした。続いて耳に飛び込んできた音は意外なものだった。
――泥棒じゃないのか?
階下まで響いたのはまぎれもなくスリッパの音だった。そんな行儀のいい泥棒はいるはずがない。
しかしその音は逆にオレを混乱させた。
――誰なんだ。
城村はなにも言わなかった。それに、オレが来てからも他に住人がいる素振りなどみせなかった。それなら……。
足音の主は階段を下りてきてどんどん近づいてくる。オレはリビングまで引き返し、ソファーの陰に隠れ様子を窺う。
キッチンに入ってきたのはオレと同年代くらいの女性だった。白の上下のスウェット姿で長い髪をひとつに束ねている。
やはり泥棒には見えない。
彼女はごくごく自然な振る舞いで冷蔵庫に手を伸ばし、コップになにかを注ぎテーブルにつき雑誌を開いた。
オレは出ていくべきか迷った。
常識で考えれば彼女は城村夫妻の娘だ。しかし、城村はオレにその存在を告げなかった。それ以上に彼女はまるでオレの存在に気づいていない。つまり彼女もオレという存在を事前に知らされていないということだ。今出ていけばオレこそが不審者だ。
城村はいったいどういうつもりで……。
雑誌のページをめくる音がやけに響く。
判断しなければならない。
このまま彼女が部屋へ戻るのを待ち、その後城村に連絡し事情を聞くのが賢明だろうか?
しかし彼女がリビングに移動してくることも考慮しなければならない。
そうなれば、騒ぎ立てられ事情を説明するのも困難かもしれないし、下手をすれば警察沙汰にまで発展しかねない。それだけは勘弁だ。
そうなる前に――。
オレは意を決してゆっくりと両手を挙げて立ち上がった。
銃を構えた警察に投降する犯罪者のように……。




