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『三弾一組(フルハウス)! ~鉄壁の説教盾、強火の魔導士、命懸けの神速斥候~』  作者: ヤンヤン
第1章:【異世界調理】――現代文明による理不尽な蹂躙
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第9話:料理対決?――いや、これは『虐殺』だ

 交易都市バザールの広場。

 そこには急ごしらえの調理台が二つ並び、周囲を何重もの観衆が取り囲んでいた。


 一方は、西の隣国から招かれたという宮廷料理人・デュカス。彼は金色の刺繍が入った贅沢な絹のエプロンを纏い、十人近い助手たちにテキパキと指示を飛ばしている。


 対するもう一方、ナツキたちの調理台には、マルモが一人で腕組みをして立っているだけだった。


「おい、カズヤ。あのデュカスっておっさん、さっきから『真実の味』だの『歴史の重み』だの、抽象的な単語を並べて悦に浸ってるけどさ。

 料理に歴史が必要なら、俺たちは教科書でも食ってればいいのか?

 観客の期待を煽る前に、まずはその不潔な助手の数、どうにかした方がいいんじゃないか?」


 ナツキが広場の隅で、キャンピングカーのステップに腰掛けながら冷たく言い放った。


 カズヤは手元のタブレットで、デュカス側の火力をサーモグラフィで監視し、リアルタイムで食材の表面温度をログに記録している。


「ナツキ、論理的な批判は勝負の後にしてよ。

 ……あ、デュカスの火加減、今ちょうどメイラード反応のピークを過ぎたね。

 タンパク質の熱変性を無視して、視覚的な『焼き色』だけを優先した。

 あのアプローチじゃ、肉汁が流出してパサパサになるのは目に見えてる。

 計算するまでもない、ロジックの敗北だよ」


「よかばい、二人とも! 庄田国の王子の流儀、そろそろ見せつける時が来たばい。

 おいの『変火』は、ただ焼くためだけにあるんじゃなか。食材の細胞ひとつひとつに、最高の目覚めを与えるための福音たい!」


 マルモが調理台の前に立つ。彼は助手を一人も使わず、代わりにインベントリから「異形の魔導具」を取り出した。


 それは、カズヤが現代の設計思想を魔法回路に落とし込んだ、特製の『真空低温加熱槽マジカル・スーヴィド』だ。


「な、なんだあの不気味な箱は!? 料理は火と鉄のぶつかり合いだろうが! 貴様、そんな小細工で我が『王道』に勝てると思っているのか!」


 デュカスが咆哮し、巨大な魔獣の心臓を豪快にフランベして炎を上げた。


 観衆からは歓声が上がるが、マルモはそれを見向きもせず、ビニール袋に密封された肉を、一定の温度に保たれたお湯の中へ静かに沈めた。


「『王道』ね。おじさん、その言葉は便利だけど、思考停止の言い訳にしかなってないばい。

 火が強ければ美味い? 煙が立てば情熱的?

……そんなの、ただの蛮族の焚き火と変わらんばい。

 本当の『高貴なる食事』っていうのは、食材のポテンシャルを1パーセントの無駄もなく引き出す、究極の慈愛たい」


 マルモの指先が微かに動き、槽の中の魔力濃度を微調整する。


 肉の内部温度を、タンパク質が凝固する直前の63度で完全に固定。


 外側は後でカズヤの『神速』による超高速摩擦熱で一瞬だけ焼き固める。


 それは、この世界の料理人が一生かけても辿り着けない、科学的な「正解」への最短距離だった。


 一時間後。審査員たちの前に、二つの皿が並べられた。


 デュカスの皿は、豪華な装飾と立ち上る香辛料の香りで圧倒していた。


 一方、マルモの皿は、驚くほどシンプルに切り分けられた肉が、ただ一枚置かれているだけだった。


「勝負あったな。……見たまえ、この美しき焼き色を! これこそが、我が国が誇る最高峰の料理だ!」


 自信満々に叫ぶデュカス。


しかし、審査員の一人がマルモの肉を口にした瞬間、その表情は劇的に凍りついた。


 噛む必要すらない。肉は口内で解け、溢れ出す旨味の洪水が脳の快楽中枢を直接殴打する。


 それは「美味い」という感情を超え、生命としての根源的な充足感に近かった。


「パキンッ」


 ナツキが、呆然とするデュカスの背後から、逃げ場のない正論を突きつける。


「おじさん。あんたの負けだよ。

 あんたは『自分を見せる』ために料理を作った。

 でもマルモは『肉を美味しくする』ために、自分というエゴを極限まで削ぎ落として、技術という透明なフィルターを通したんだ。

 プライドっていう重しを捨てられないあんたに、この境地は一生理解できないだろ」


 デュカスは力なく膝をつき、自慢のコック帽が石畳を転がった。


 マルモは、勝利の余韻に浸ることなく、エプロンを丁寧に畳むと、観衆に向かって深々と、しかしどこか傲慢なほどに優雅な礼をした。


「……王子として、当然の結果たい。おいの火に、嘘はなかばい。

 さて、ナツキ。次の街では、もっとマシな挑戦者ば探そうや。おいの『変火』が退屈して泣いとるバイ」


 マルモのその一言は、もはやエセ王子のハッタリではなく、本物の強者としての重みを帯びていた。


 広場を支配していた熱狂は、一転して、未知の技術に対する「畏怖」という名の静寂へと変わっていく。


「パキンッ」


 カズヤのスマホに、またしても無機質なログが刻まれる。

『……オカワリ・キボウ』

 カズヤはそれを鼻で笑い、三人を促してキャンピングカーへと戻った。


 彼らの「料理」という名の虐殺は、異世界の文化という土壌を、容赦なく現代の科学で焼き尽くし、再構築し始めていた。

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