表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/267

第四地区の願い

第四地区は、もう“予定地”とは呼べなかった。


石畳は敷かれ、主要な通りは整えられ、区画ごとの骨組みもほぼ出来上がっている。

第一地区ほどの政治性はなく、第二地区ほどの荒々しさもなく、第三地区ほどの物資の匂いに満ちてもいない。


だが、そのぶん――これから何にでもなれる余白が、まだ残っていた。


高台から第四地区を見下ろしながら、リオは静かに息を吐いた。


「……ほんとに、ここまで来たな」


眼下では、職人たちが足場を組み替え、荷運びの魔人たちが資材を運び、少し離れた上空ではドラゴンがゆるく旋回している。

遠くには、第三地区を通る人と荷の流れが見えた。

さらにその先には、第五地区の断崖絶壁――ザルクスが作り上げた、あまりにも真っ直ぐで人工的な壁が、空を断つようにそびえている。


だが今日、レインの視線はそこにはなかった。


第四地区の、まだ手のついていない一帯。

広く、平らで、けれど空っぽな土地。

そこをずっと見ている。


リオが横目で問う。


「あるんだろ」

「言いたいこと」


レインは少しだけ黙った。

それから、昔のように勢いだけで喋るのではなく、一度息を整えてから口を開いた。


「……第四地区に、作りたいものがあります」


その声で、周囲の空気が自然と集まる。


ノア。

リュメリア。

ヴァル。

ザルクス。

ミア、タオー、グラー。

ヴァイスとグローダも、少し後ろで静かに話を聞いていた。


レインは、まっすぐ前を見たまま言う。


「闘技場を作りたい」

「それと」

「魔術・剣術・異能・スキルを学べる、大型の練習施設が必要です」


タオーが「おお……!」と声を漏らし、すぐにグラーに睨まれて口を押さえた。

だが、その反応はこの場のほぼ全員の内心に近かった。


レインは続ける。


「今の第一、第二、第三はもう回ってる」

「街としても、拠点としても、かなり形になった」

「でも、だからこそ足りない場所が見えてきた」


「足りない場所?」

と、リオ。


「鍛えるための場所だ」

レインは即答した。

「俺たちは今まで、実戦の中で育ってきた」

「それは間違ってない」

「でも、実戦だけじゃ限界がある」


リュメリアが腕を組んだまま、小さく頷く。


「たしかに」

「戦場でしか磨けないものもあるけど、戦場に出る前に整理しないと伸びないものもあるわね」


レインの目が、少しだけ鋭くなる。


「第一部隊《黎牙》の連携をもっと強くしたい」

「若手の底上げも必要だ」

「冒険者たちも増えた」

「各地区のギルド同士で技や知識をぶつけ合う場所も要る」


一拍。


「ここを、ただの空き地で終わらせたくない」

「国全体の戦力水準を引き上げる“鍛える地区”にしたいんです」


静かだった。


誰もすぐには口を挟まない。

その構想が、思いつきではなく、すでにレインの中で整理されていると分かったからだ。


リオは、しばらく黙って第四地区を見た。


闘技場。

練習場。

魔術。剣術。異能。スキル。

若手。

冒険者。

ギルド。

全部がちゃんと繋がっている。


「いい」

リオは頷いた。

「第四地区は、それで行こう」


タオーが思わず飛び上がる。


「うおっ、マジで!?」

「マジだよ」

と、リオ。

「ただし作る以上、半端なもんにはしない」


レインの肩から、少しだけ力が抜けた。

だが、そこで終わりではなかった。


「……それで」

と、レイン。


その声音が少しだけ改まる。


レインは、今度はザルクスの方へ向き直った。


「ザルクス殿」

「お願いがあります」


その言い方に、タオーが小さく目を剥く。


「うわ」

「ちゃんとしてる」


グラーも、思わず小さく息を吐いた。


「……ほんとに成長したわね」


ザルクスはにやりと笑う。


「言ってみろよ」

「珍しく礼儀があるじゃねえか」


レインは動じなかった。


「第四地区の開発を急ぎたい」

「そのために、魔人とドラゴンをもう少し増やせませんか」

「無理を言っているのはわかっています」

「でも、今ここで進める価値があると判断しました」


ザルクスは少しだけ目を細めた。


2年前なら、レインはもっと雑に頼んでいただろう。

今は違う。

理由があって、順序があって、立場もわかった上で頼んでいる。


「……いいだろ」

ザルクスは肩をすくめた。

「手は増やす」

「ただし、使い方を間違えんなよ」


「はい」

レインは短く頭を下げた。


その返しを見ていたヴァルが、小さく笑う。


「言い方まで育ったな」

「昔なら『寄越せ』で終わってただろ」

「うるさい」

と、レイン。

「俺だって学ぶんだよ」


「いいことだ」

ヴァルは素直に頷いた。


だが、レインの“願い”はそこで終わらなかった。


「ヴァル殿」

「ノア殿」


二人が目を向ける。


レインは、今度は真正面から言った。


「稽古をつけてください」


場が、少しだけ静まる。


ヴァルは楽しそうに笑った。


「ほう」

「剣と魔術、両方か」


ノアも、穏やかな目のまま問う。


「理由を聞いても?」


「あります」

レインは即答した。

「でも、今の俺じゃまだ上手く言葉にできません」

「ただ、いまの俺に必要なのは、たぶんこの二人です」


ヴァルが喉で笑う。


「いいねえ」

「そういう勘は嫌いじゃない」


ノアも頷いた。


「承知しました」

「逃げないことが条件です」


「逃げません」

レインの返しは早かった。


その流れを見ていたタオーが、待ってましたとばかりに手を上げる。


「じゃあ俺も!」

「リュメリア様!」

「俺にもお願いします!」


「は?」

リュメリアが眉を上げる。


「声と超音波、まだ全然まとまりきってなくて!」

「たぶん俺が一番“制御”を学ばなきゃいけないと思うんです!」

「だから――」


リュメリアは、しばらく黙っていた。


その沈黙に、タオーの背筋が少しずつ固まる。


やがて、リュメリアがふっと鼻で笑った。


「いい度胸ね」

「でも、悪くないわ」


タオーの顔がぱっと明るくなる。


「ほんと!?」

「ただし」

リュメリアの目が細くなる。

「泣いてもやめさせないけど」


「……はい!!」


グラーも、一歩前へ出た。


「ザルクス様…」

「私にも稽古を」


「俺?」

ザルクスが少し意外そうに笑う。


「はい」

グラーはまっすぐだった。

「遠距離も近接も、どちらも中途半端にしたくない」

「潰す力を、もっと強くしたい。一度に大量の魔害の核を一捻りで潰したいのです。」

「なら、あなたが最適だと思いました」


「なるほどな」

ザルクスが低く笑う。

「いいだろ」


ミアは少し遅れて前へ出た。


「……ラルラゴ様」


ラルラゴが目を向ける。


ミアは緊張していた。

けれど、逃げなかった。


「私にも、教えてください」

「聞こえるだけじゃ足りない気がするんです」

「もっと奥を……」

「戦いの芯みたいなものを、知りたい」


ラルラゴは、しばらく沈黙した。


その間に、タオーが勝手に息を詰め、グラーが横で腕を組む。

やがてラルラゴは、短く言った。


「いい」


ミアの目が、ほんの少しだけ開く。


「ただし」

「半端な覚悟では来るな」


「はい」

ミアは、はっきり頷いた。


そして最後に、意外な二人が前へ出た。


ヴァイス。

そしてグローダ。


「……アヴニール様」

と、ヴァイス。


「教えを乞いたい」

と、グローダ。


さすがに、その場の空気が少しだけ揺れた。


魔想へと覚醒し、幹部であるヴァイス。

第一部隊長であり、魔創のグローダ。

その二人が、自ら頭を下げたのだ。


アヴニールは、窓辺からゆっくり振り返る。


「私に?」


ヴァイスが静かに言う。


「はい」

「今の私に一番必要なのは、あなたの視点だと判断しました」


グローダも続けた。


「魔神や魔創としての誇りはあります」

「ですが、今必要なのは誇りより成長です」

「ゆえに、教えを乞います」


ノアが目を伏せ、リュメリアがほんの少しだけ口元を動かす。

それは好意的な沈黙だった。


アヴニールの唇に、ゆっくり笑みが浮かぶ。


「……いい子たちね」


甘い声だった。

けれど、その目はしっかり見定めている。


「いいわ」

「教えてあげる」


その返答に、ヴァイスもグローダも静かに頭を下げた。


高台の風が吹き抜ける。


第四地区。

ほぼ形になった土地。

その余白に、闘技場と大型練習施設の未来が重なる。


そして、そこに集う者たちもまた、ただ若いだけでは終わらない。

自分に足りないものを知り、誰に教えを乞うべきかを見極め、次の段階へ進もうとしている。


リオは、その全員を見て、小さく息を吐いた。


「……いいな」


「何が?」

と、レイン。


「国になってきたってことだよ」

リオは笑う。

「建物だけじゃなくて」

「人の方も」


誰も、その言葉を否定しなかった。


第四地区は、鍛える国の始まりになる。

その願いを、最初に口にしたのはレインだった。

でも、もうそれはレイン一人の願いじゃない。


アストラ・エクリプス王国そのものが、次の強さを欲し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ