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外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


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ゴルダンを守る者たち

それから、2年の歳月が流れた。


早かった、とは誰も言わなかった。

そんな軽い言葉で済む2年ではなかったからだ。


目まぐるしく、あらゆるものが変わっていった。

土地が広がり、道が敷かれ、壁が立ち、人が集まり、建物が増え、商いが生まれ、騒ぎが起き、それを抑える者が育ち、また新しい流れが生まれる。


アストラ・エクリプス王国は、もう“できかけ”ではなかった。

未完成な部分を抱えたまま、それでも確かに国として機能していた。


リオも変わった。


以前よりも大人びた。

顔つきが変わったとか、背が伸びたとか、そういう表面的な変化だけではない。

言葉を急がず、目の前の人間をきちんと見て、必要な時にだけ熱を出す。

王としての品格と、簡単には揺るがない凄みが、いまのリオにはあった。


その日、リオたちは久しぶりにゴルダンへ足を運んでいた。


かつてのグレイラン。

貧民街と呼ばれ、王都からも見捨てられかけていた土地。

今はもう、その名で呼ぶ者の方が少ない。


門をくぐった瞬間、タオーが素直に声を漏らした。


「……やっぱ、すげえな」


グラーも、今日はすぐには茶化さなかった。


「ええ」

「もう別の街ね」


石畳は広く整えられ、両脇には店が並んでいる。

食い物の匂い。

鍛冶の音。

布を売る声。

値段を競る声。

荷車の軋み。

笑い声。

怒鳴り声。

生きている都市の音が、朝から途切れない。


しかも目立つのは、人の数だけじゃない。


族種が混ざっている。


聖人族。

人族。

魔術族。

獣に近い者。

耳や目や肌の色が違う者。

それでも、もう誰もそれをいちいち珍しがってはいない。


ミアが静かに言った。


「前より、もっと混ざってる」

「うん」

と、ヴァイス。

「ゴルダンはもう“どの族種の街か”ではなく、“ゴルダンという街”になっています」


リオは、その景色をしばらく黙って見ていた。


2年。


たった2年。

だが、されど2年だ。


自分が食べ物を配っていたあの頃のグレイランを知っているからこそ、目の前の光景は少し信じがたい。


「……ここまで来たか」


小さく漏れたその言葉に、レインが隣で少しだけ笑う。


「来たよ」

「しかも、まだ伸びる」


ゴルダンの変化は、表だけではなかった。


大通りを少し進んだところで、ノアが目だけを動かした。


「気配が動いていますね」


次の瞬間、建物の屋根の上、通りの角、塔の影――

いくつもの視線が、一行を確認した。


だが敵意はない。

むしろ、訓練された統率だった。


グラーが小さく呟く。


「見張り、多い」


「多いわよ」

レインが答える。

「そりゃそうだ」

「今のゴルダンは、もう守る価値の塊みたいなもんだからな」


そこで、通りの先から一隊が現れた。


先頭に立つのは、人族の男。

年は三十代半ばほど。

身なりは派手ではないが、歩き方でわかる。

元はグレイラン側の人間だ。

ただし、ただの生き残りではない。

戦いと統率、どちらにも馴染んだ者の歩き方だった。


男は、リオの前で膝をつく。


「お帰りなさいませ、リオ様」

「ゴルダン守衛統括、ハーグです」


リオが静かに頷く。


「顔を上げてくれ、ハーグ」

「今の様子を見に来た」


「はっ」


ハーグが立ち上がると、その後ろの布陣もよく見えた。


人だけではない。


通りの奥。

建物の影。

そこに、リュメリアの魔術で出された重魔人が控えている。

巨体。

黒い重装。

無駄に動かない威圧。

まるで城壁の一部みたいに、街路へ溶け込んでいた。


さらに、そのさらに奥。

空の高みを、大きな影が横切る。


ドラゴンだ。


ザルクスが従える近隣の魔人部隊と、巡回するドラゴン部隊。

それがこの都市の空と外縁を押さえている。


タオーが首を伸ばす。


「うお……」

「ほんとに飛んでる」

「飛ぶでしょ、ドラゴンなんだから」

と、グラー。


レインが、少し誇らしそうに言う。


「今のゴルダンは、もう王都の端っこにある街じゃない」

「リオの国直属の騎士団」

「それに、王が認めた直属の王騎士団でもある連中が守ってる」


ハーグが続ける。


「元グレイラン時代からいた者の中で、戦える者、頭の回る者、地理を知る者を選びました」

「そこへ重魔人の常駐守備」

「外縁には魔人部隊」

「上空警戒にドラゴン部隊」

「現在のところ、外からの大きな侵入は許しておりません」


ノアが静かに頷く。


「守りとして、かなり完成しています」

「ええ」

ハーグが答える。

「まだ粗いところはありますが、“街を守る形”だけなら、もう出来ています」


ヴァイスが、街を見ながら言う。


「居心地が良いだけではない」

「安心して眠れる街になりましたね」


その言葉に、ハーグの表情がほんの少しだけやわらいだ。


「それは……嬉しいお言葉です」


リオは大通りの先を見た。


新しい市場。

整った鍛冶区画。

荷を捌く倉庫。

食堂。

酒場。

泊まり場。

警邏の詰所。


生活のための場所と、防衛のための場所が、ちゃんと同じ街の中で噛み合っている。


「ゴルダンは、守るだけの都市じゃないな」

と、リオ。


「はい」

ハーグははっきり言う。

「守りながら、増やしていく都市です」

「だから、止めません」


その返答に、レインが小さく笑う。


「いい顔するようになったな」

「レイン様ほどではありません」

「よせよ」


その軽いやり取りを聞きながら、リオは少しだけ目を細めた。


街が回っている。

人が育っている。

自分がいない時間にも、ちゃんと前へ進んでいる。


それが何より大きかった。


そこへ、塔の上から一羽の小型竜が降りてきて、ハーグの腕へ止まる。

伝令用だ。


ハーグは短くやり取りしてから、リオへ向き直る。


「本日の巡回も異常なし」

「西区の鍛冶場、北区市場、東の外門、いずれも問題ありません」


「西区?」

と、レイン。


「ええ」

ハーグは少しだけ口元を上げる。

「商人区と鍛冶区は、もうそう呼ばれています」


タオーが目を丸くする。


「え、区域名もついてんの!?」

「ついてるわよ」

と、ミア。

「前に来た時より、ずっと整理されてる」


ハーグは続ける。


「いまはそれぞれの区に、まとめ役も置いています」

「まだ正式な官ではありませんが、いずれそうなるでしょう」


ノアとリュメリアが、そこで一度だけ視線を交わす。


見えてきていた。

次の話が。


街の防衛はできている。

区の整理も始まっている。

人材もいる。

なら、その次は何か。


レインが、街の先――まだ開発の余地が残る広い土地を見た。


「……余ってるな」


リオがそちらを見る。


「何が」


「土地だよ」

レインは静かに言う。

「第四地区ほどじゃないけど、ここもまだ使い切ってない」

「いや、ゴルダンだけじゃない」


そこで、一度だけ言葉を切る。


そして、はっきり続けた。


「第四地区、もうほぼ形になってるだろ」

「だったら、余ってる土地に作りたいものがある」


タオーが「お?」と顔を上げる。

グラーも腕を組み直す。

ミアは静かにレインを見る。


リオも、すぐにその目の意味を読んだ。


「……何を作る気だ?」


レインは、少しだけ息を吸った。


ゴルダンを守る者たち。

完成しつつある各地区。

2年でここまで来たからこそ、次に必要なものが見えている。


「闘技場だ」

「それと――」


その先の言葉を、レインはまだここでは全部言わなかった。


だが、その目はすでに次を見ていた。

守る国から、鍛える国へ。

アストラ・エクリプス王国は、また一段、次の形へ進もうとしていた。

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