表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

168/267

貧民街だったグレイランの発展〜ゴルダン

幹部の椅子がある程度埋まり、部屋の空気がようやく少しだけ落ち着いた頃だった。


第一地区の仮拠点。

未完成の壁。

まだ足りない机と椅子。

それでも、そこにいる者たちの顔だけは、もう仮ではない。


幹部。

第一部隊。

第一部隊長。

第三地区と第五地区を見据えた拠点構想。


話し合うべき大きな柱は、ひとまず片づいた。


しばし、静かな間が落ちる。


その沈黙のあとで、リオがふと口を開いた。


「……そういえば」


自然と全員の視線が向く。


「グレイランの者たちは、今後も増えそうなのか」

「昔の貧民街……グレイランは、今どうなってる?」


その問いに、ほんの一瞬だけ空気が変わった。


ミアの目がわずかに揺れる。

タオーとグラーも顔を見合わせた。

ヴァイスは静かに目を伏せる。


そして、レインが椅子から立ち上がった。


「俺が報告します、リオ様」


部屋が、ぴたりと止まる。


「……は?」

と、タオー。


「リ、リオ様だと……?」

グラーまで目を剥く。


リオ本人も少しだけ眉を上げる。


「レイン」

「急にどうした」


レインは、ほんの少しだけ口元を上げた。


「幹部候補としての振る舞いを、少しは覚えようかと思ってな」

「それに」

「今の話は、俺が一番知ってる」


ザルクスが肩を揺らして笑う。


「いいじゃねえか」

「似合ってるぞ、“リオ様”」


「お前が言うと腹立つな」

と、レイン。


それでもそのまま、レインは机の前へ進み出た。


「報告します」

「以前から住んでいたグレイランの者どもは、ほぼ全てこちら側へ移住しております」


王直属の騎士たちがざわめく。


「ほぼ全て、だと」

と、サイラス。


レインは頷く。


「はい」

「そして今のグレイランは、もう昔のグレイランではありません」


その声は静かだった。

だが、よく通る。


「今やあの街は、全く別の都市に変わっております」

「貴族が住まい」

「商人がごった返し」

「国の三本の指に入るほどの発展を遂げております」


タオーがぽかんと口を開ける。


「え……」

「え、あのグレイランが?」


レインは一拍置いて、はっきりと言った。


「今のあの街は――ゴルダン」

「そう呼ばれております」


その名が落ちた瞬間、部屋の空気に小さな波が立つ。


ゴルダン。


昔の貧民街の名を知る者にとっては、信じがたい変貌だ。

だが、いまの発展を聞けば、確かに昔の名のままでは収まらない気もした。


レインは続ける。


「ゴルダンのおかげで、国は賑わい、発展しております」

「貴族の移住もあり」

「大型商人が幅を利かせるほどになっている」


「……何?」

と、リオ。


それは驚きというより、追いつけない者の声だった。


あのグレイラン。

貧困と諦めの底みたいな場所。

自分が食べ物を配り、人が少しずつ笑い始めた場所。

そこが今や、国の上位都市の一つになっている。


レインはそこで、少しだけ視線を落とした。


「最初は、皆まだ半信半疑だった」

「でも、移り始めた連中が土地を得て」

「飯を得て」

「仕事を得て」

「商いを始めて」

「少しずつ噂が広がった」


「そこへ貴族が来て」

と、リュメリアが静かに言う。


「ええ」

レインは頷く。

「先見の目のある貴族から動き始めた」

「今は逆に、それを見た商人たちが雪崩れ込んでる」


そこで、魔創となった彼が静かに一歩前へ出た。


長身。

黒と灰のあわいに立つような存在感。

以前は“高位の魔神”としてそこにいた。

今は違う。

知性も、統率も、役割も、一段変質した者の静けさがある。


彼は、ゆっくりと頭を下げた。


「改めて申し上げます」

「わたくしの名は――グローダ」

「魔神から魔創へ至った者」

「現在は第一部隊長として、この地の外縁と開拓の補助を担っております」


騎士団たちが、また少しざわつく。


名前を与えられることで、存在がよりはっきりする。

“あの時の魔神”ではなく、ここから役目を持って立つ個としての名だ。


グローダは、そのまままっすぐ前を見た。


「彼らは、まだ私たちのこの土地のことをほんの少ししか知りません」


その声に、場がまた静まる。


「この国が今後どうなるか」

「この地がどれほど深く、大きく、価値ある場所になるか」

「先見の目を持った者だけが、この国に根付き、富を築く」

「残りは、遅れて気づくことでしょう」


「はっ」

と、ザルクスが笑う。

「嫌いじゃねえ言い方だな」


「事実ですので」

グローダは淡々としていた。


ヴァイスが、そこでゆっくりと言う。


「わたしは、あの土地が……ゴルダンが居心地良く」

「しばらく滞在しておりました」

「ミア様と共に」


ミアが少しだけ目を伏せる。


「あの街の人たちは、能力が高い」

ヴァイスの声は静かだった。

「知性にあふれ、向上心も高い」

「こちらの国の発展に役立つことは、前からわかっておりました」


その言葉に、ゼルクが目を細める。


「貧民街だったのだろう」

「それがそこまで変わるものか」


ヴァイスは、少しだけ首を傾けた。


「変わります」

「食と住まいと、希望があれば」


ミアが、そこで小さく続ける。


「……それに」

「私のお話だと、この王国はずっと聖人族が多かった」

「でも今のここは違う」


全員の視線が自然と集まる。


ミアは静かに言った。


「リオ様が創ろうとしてるここには」

「いろんな族種がいる」


その言葉に、ノアもラルラゴも何も言わない。

否定する必要がなかったからだ。


実際にそうなっている。


魔術族。

魔王族。

魔神族。

穣天使。

怪神族。

人ではないもの。

そして、人。


ミアは続ける。


「その影響か、今のゴルダンにも」

「いろんな族種がごった返してる」


「一際目立つのが……」

そこで少しだけ言葉を区切る。


タオーが首を傾げる。


「何?」


ミアが、ゆっくり答えた。


「今まで、ほとんど見ることのなかった――人族」


今度こそ部屋の空気が変わった。


「人族?」

と、サイラス。


「そう」

ミアは頷く。

「知能の塊みたいな人たち」

「もし、その人族が本気でこちらへ根を張ったら」

「かなり強いと思う」


リュメリアが腕を組んだまま、小さく言う。


「合理性、学習力、集積速度」

「厄介だけど、うまく噛めば発展の爆発力になるわね」


レインが地図の一点を指で叩く。


「グレイランがどう発展し、ゴルダンになったか」

「その歴史を知る者は少ないです」


「でも」

と、リオ。


「それを知ってる俺たちがいる」


レインは頷いた。


「はい」

「だからこそ、次を間違えない」


グローダが、その場で静かに一歩前へ出る。


「わたくしが、魔創としての能力を発揮し」

「リオ様のお国の発展にお役に立てるようにいたします」


その言葉は、ただの忠誠宣言ではなかった。

いまこの地の外と中を繋ぐ役としての、自覚が入っている。


「近々、魔創となるわたくしが――」

そこまで言って、グローダは一度だけ自分の両手を見た。


その視線には、まだ言葉になりきらないものがある。

進化。

覚醒。

役割の変質。

そこから先に、自分が何を創り、何を率いるのか。


リオは、その意味を少しだけ感じ取った。


「……何をするつもりなんだ?」


グローダは、そこで初めてほんの少しだけ口元を動かした。


「まずは」

「第一部隊の形を、ただの“若い戦力”で終わらせないことです」


ミア。

タオー。

グラー。

そして、その場にはいないが、今後増えていく者たち。


ただ戦うだけではない。

未来の幹部候補として育つ、最初の塊。


ノアが、そこでゆっくり頷いた。


「よい視点です」

「第一部隊は、いずれ幹部へ繋がる“根”になります」


ラルラゴが低く言う。


「拠点」

「幹部」

「部隊」

「都市、か」


その一言で、全部が繋がる。


第一地区。

第三地区。

第四地区。

第五地区。

ゴルダン。

幹部の椅子。

第一部隊。

そして、まだ見ぬ次の都市。


リオは、そこで小さく息を吐いた。


「……国になってきたな」


誰の独り言とも取れる声だった。

だが、その場にいた全員が、それを同じ重さで受け取った。


もう後戻りはしない。

ただ土地を広げるだけの段階でもない。

人も、族種も、都市も、部隊も、役職も、すべてが繋がり始めている。


第一地区の仮拠点。

その未完成の部屋で。


国の輪郭は、また一段、はっきりし始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ