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外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


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幹部の椅子

第一地区の仮拠点には、まだ新しい木と石の匂いが残っていた。


壁は完成しきっていない。

床もところどころ仮のままだ。

机も椅子も揃いきってはいない。


それでも、ここに集まった者たちは皆わかっていた。


ここが始まりだ。


第一地区と第三地区。

その二つに拠点を築き、最後には第五地区へ城を置く。

その未来へ向けて、今ようやく最初の“席”が決まろうとしていた。


長机を囲むのは、SSSオルビス・ノヴァの面々。

ラルラゴ。

ヴァル。

リュメリア。

ザルクス。

ノア。

アヴニール。


そこに、ヴァイス、レイン。

そしてミア、タオー、グラー。

さらに、見届ける騎士団の面々もいる。


静かな空気の中、ノアが口を開いた。


「幹部について、確認いたします」


その声だけで、ざわめきは消えた。


「この国の幹部となるのは、まず――」

「SSSオルビス・ノヴァのメンバー全員です」


短い宣言。

だが、その一言で場の格が定まる。


ノアはそのまま続ける。


「次に選ばれるのは、ヴァイス様」


ヴァイスは静かに一礼した。


「そして、レイン様」


レインが少しだけ眉を動かす。


ノアはそこで、はっきりと言う。


「時期尚早かもしれません」

「ですが、もうこちら側まで来ています」

「幹部候補ではなく、幹部側へ足をかけた存在として扱います」


ザルクスが、にやりと笑う。


「言うねえ」

「もう半分座ってるってことだろ?」


「雑に言えば、そうです」

と、リュメリア。

「でも、ノアの言い方の方が正確ね」


レインは苦笑した。


「やっぱ重いな、その言い方」


「重くて当然です」

ノアは穏やかな顔のまま言う。

「あなたはすでに、戦力としてだけでなく、判断を担う側に入り始めているのですから」


その言葉を、レインは黙って受け取った。


ノアの視線が次に向く。


「ミア」

「タオー」

「グラー」


三人が、それぞれ姿勢を正す。


「あなた方の名は、まだ決まっていません」

「ですが今この時をもって、第一部隊とします」


タオーの目がぱっと丸くなる。


「だ、第一部隊!?」

「うるさい」

と、グラー。


ノアはそのまま告げた。


「まだ未熟なところがあります」

「だからこそ、今後に期待します」

「いずれ幹部となる、その時まで精進なさい」


ミアが静かに頷く。


「……はい」


グラーも短く返す。


「了解」


タオーは一拍遅れて、でも珍しく真面目な顔で答えた。


「……おう!」


リオは、その三人を見ながら少しだけ目を細めた。


未熟だ。

けれど、もう戦場で“いるだけの者たち”ではない。

それをこの場の全員が理解していた。


そこで、ザルクスが机に肘をつきながら言う。


「で、開拓の方な」


リオも頷く。


「今後は第三地区の開拓を迅速に進める」

「その先で、第四地区、第五地区へ」

「第五地区には最終的に城を築く」


ラルラゴが低く言う。


「急ぐべきだ」

「土地の濃度も、寄ってくるものの格も上がっている」


ヴァルが笑う。


「骨組みだけでも先に立てたいな」

「人も物も、あとで絶対足りなくなる」


リオはそこで、ふと机上の地図へ視線を落とした。


「今、開拓に携わってるのは」

「ドラゴン」

「グレイランの面々」

「それと……魔人や魔神、だよな」


「そうそう」

ザルクスが、そこで楽しそうに笑った。

「そこなんだよ」


リュメリアが目を細める。


「また何か思いついた顔してるわね」


「思いついたっていうか、前から思ってた」

ザルクスは肩をすくめた。

「そもそも、魔神って知能高いだろ?」

「なのに、ただの労働者でいいのかって話だ」


場が、少しだけ静まる。


言われてみれば、その通りだった。


ただの労働力として使うには、あまりにも惜しい。

知性があり、合理性があり、術式も、統率も、判断もできる。


ノアが短く問う。


「では、どうするのですか」


ザルクスが、にやりとした。


「俺が信頼を置いてるやつがいる」

「ちょうどいい、呼んでたんだ」


そう言って、扉の方へ顎をしゃくる。


「入れよ」


扉が開く。


部屋へ入ってきたその姿を見て、リオの目が少しだけ細くなる。


「……やっぱりそうか」


長身。

落ち着いた足取り。

魔の気配を隠していないのに、不必要に圧を撒かない。

この地へ初めて来た時、真正面からぶつかったあの存在だ。


その魔神は、部屋の中央まで進むと、まっすぐリオの前で膝をついた。


「その節は、お世話になりました」

「リオ様」


騎士団たちがざわめく。


隣国の騎士も、王直属の騎士も、相手が誰へ頭を下げたのかを見てしまったからだ。


リオは静かに言う。


「……あの時の魔神か」


「はい」

魔神は顔を上げる。

「そして、この度ご報告がございます」


「報告?」

と、リオ。


魔神は、本当に何でもないことみたいに言った。


「ちなみに、わたくし――」

と、自らの名を告げる。

「この度、魔神から“魔創”となりました」


沈黙。


一拍遅れて、空気が揺れる。


「……は?」

と、タオー。


「魔創?」

と、グラー。


サイラスも、珍しくはっきりと眉を動かした。


「それは……何だ」


魔神――いや、今や魔創となったその存在は、淡々と説明した。


「魔物は、知性、合理性、スキル・異能・術式・魔術、統率性……」

「そうした全てが飛躍し、“魔を創り、編み、率いる位階に値する”と認められた者だけが、魔創へ至ります」


一拍。


「つまり、進化であり」

「覚醒であり」

「役割の変質でもあります」


ヴァルが、そこで小さく口笛を吹く。


「へえ」

「そりゃまた、景気のいい昇格だな」


リュメリアも頷く。


「“王”より、そっちの方がしっくりくるわね」

「単純な上下じゃなくて、位階の変質」

「悪くない」


リオは、まだ少し驚いたまま問う。


「……その決定打は?」


魔創は迷いなく答えた。


「リオ様との決戦でした」


また空気が止まる。


魔創は、静かに頭を下げる。


「なので……感謝しております」

「この命は、リオ様に捧げます」


そして、少しだけ横へ視線を向ける。


「ザルクス様、申し訳ありません」


「おい!」

ザルクスが机を叩いた。

「創造って言葉まで持っていくな!!」

「俺だぞ!? 創ったのは俺だぞ!!!」


ヴァルが腹を抱えて笑う。


「はははっ!」

「そこ引っかかるんだな」


「当たり前だろ!」

ザルクスは本気で悔しそうだった。

「創造主っぽい名前まで持ってかれるとか聞いてねえぞ!」


「ですが」

魔創は真顔だった。

「覚醒の決定打は、リオ様でしたので」


「くっそ……!」

「理屈が通ってるのが余計腹立つ!」


リオは思わず苦笑する。


だがそのやり取りの中で、話の芯は明白だった。


この存在は、ただの高位労働力では終わらない。

知性がある。

統率できる。

現場を見て、判断し、動かせる。


ならば前に立たせるべきだ。


ノアが静かに告げる。


「この者を、第一部隊の長とします」

「名もなき第一部隊を束ねる長」

「そして、幹部の指示のもと、開拓と外縁制圧を担う現場統括とします」


ミア、タオー、グラーが、少しだけ息を呑む。


ただの“上役”ではない。

自分たちの隊を束ねる長が、ここで決まったのだ。


魔創は、もう一度深く頭を下げた。


「お任せください」

「第一部隊長として」

「この地の外を抑え、開拓の道を開きます」


リオは、それをまっすぐ見ていた。


国の骨格が、また一つ埋まる。


幹部が決まる。

部隊が決まる。

部隊長が決まる。

拠点が動き出す。


これでやっと、ただの強者の集まりではなく、国としての輪郭が見え始めた。


そして、その空気が満ちたところで、ノアがゆっくりと視線を上げる。


王直属の騎士。

隣国の騎士。

今まで、ただ見届けてきた者たちへ。


「では、次です」


その声に、場の全員が自然と息を止めた。


「あなた方が、この国の外に立つのか」

「それとも、この国の中へ入るのか」


ゼルクも、サイラスも、まだ答えない。

だがその目だけが深くなる。


ノアは、最後に静かに落とした。


「次は、そこを決めましょう」


拠点は、ただの建物ではない。

そこへ誰が座るのかで、国になる。


その問いが、ようやく次の場へ引き継がれた。

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