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外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


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拠点を築く者たち

第二地区の西門が閉じた時、ようやく一行は“内側”へ戻ってきたのだと実感した。


重い扉が鈍く噛み合い、外の濁った風が遮断される。

それだけで空気の質が変わる。


第二地区の内側にも、もちろん魔気はある。

成埜の地そのものが、今やただの土地ではない。

だが、それでも壁の内と外では違う。


外には、増幅しすぎた魔気が生む害があった。

森を蝕み、魔虫や魔獣を歪め、逃げる知性すら持つ中核があった。


そしてそれを、今回は確かに仕留めた。


門の内側へ入った瞬間、タオーがその場にへたりこむ。


「はあああああ……」

「し、死ぬかと思った……」

「実際、何回か危なかったわよ」

と、グラー。


「えっ、そんなに!?」

「そんなに」

「俺、けっこう頑張ってたよな!?」

「そこは認める」

グラーは腕を組みながら短く言う。

「でも調子に乗ると死ぬ」

「最後に落とすなあ……」


ミアは、壁の内側へ一歩入ったところで、ようやく深く息を吐いた。


「……外の声、やっと薄くなった」

その言い方に、ヴァイスが静かに頷く。

「ええ」

「第二地区の内側まで染み込む前に中核を潰せたのは大きいです」


少し遅れて入ってきた騎士団たちも、皆それぞれ顔つきが違っていた。


戦いを“見届けた”だけの顔ではない。

理解した顔だ。


第二地区の外で何が起きているのか。

その脅威がどれほど現実的で、どれほどこの土地そのものへ食い込んでいたか。

それを、自分の目で見た顔だった。


ゼルクがゆっくりと言う。


「……想像以上だったな」


サイラスも短く続ける。


「見届けではなく」

「記録すべき戦いだった」


その言葉に、レインは壁へ手をついたまま、小さく苦笑した。


「記録されるほど綺麗じゃなかったけどな」


「いや」

と、ゼルク。

「十分すぎる」

「怪神族の適応、接続の反映、魔害への干渉」

「どれも騎士団の常識の外だ」


レインは、そこでようやく少しだけ顔を上げた。


術鬼の文様はまだ腕の奥に残っている。

完全に消えたわけではない。

だが、さっきまでみたいな荒れ方はもうしていなかった。


戦いながら馴染んだのだ。


リオはその様子を見ながら、少しだけ肩の力を抜いた。


「レイン」


「ん?」


「ちゃんと、レインの術だった」


レインはしばらく黙っていた。

それから、ほんの少しだけ笑う。


「……お前にそれ言われると、なんか安心する」


「借り物じゃなかった」

と、リオ。

「ちゃんと、自分で掴んでた」


レインは壁から背を離し、ゆっくり立ち直る。


「借り物じゃ、あそこまで気持ち悪い変わり方しねえよ」

「それはそう」

リオも笑った。


そのやり取りを聞いて、ヴァイスが目を伏せる。


「良い相棒ですね」


「でしょ?」

と、タオーが何故か胸を張る。


「お前は何もしてないだろ」

と、グラー。


「したよ!?」

「叫んだし!」

「超音波も出したし!」

「……まあ、そこは認める」

「やったー!」


ミアはその横で、小さく、でもはっきりと笑った。

あの森の外縁で先を拾い続けた彼女の目は、まだ少し疲れている。

だが、その奥に新しい手応えがあるのを、リオは見逃さなかった。


ノアが、そこで静かに前へ出る。


いつも通り穏やかだ。

だが、その声には少しだけ硬い芯が通っていた。


「今回の勝利で、第二地区外縁の害は一時的に薄まりました」


全員の視線がノアへ向く。


「ですが、終わりではありません」

「むしろ始まりです」


静かな一言だった。

けれど、場の空気を締めるには十分だった。


ノアは続ける。


「成埜の地は、今後さらに広がります」

「土地は深くなり、魔気は濃くなり、こちら寄りの魔物や魔獣も増えるでしょう」

「それ自体は悪いことではありません」


一拍。


「ですが同時に」

「それを試すように、害もまた増えます」

「魔害はその先触れに過ぎません」


リュメリアが腕を組んだまま、低く補足する。


「第二地区の外だけを抑えても意味はないわ」

「これから先、第一、第三、そのさらに先まで広がる土地全部に対して」

「“どう見るか”“どう守るか”“どこを中枢にするか”を決めないといけない」


サイラスが静かに問う。


「つまり」

「戦場を抑えるだけでは足りぬ、と」


「足りません」

と、ノア。

「拠点が要ります」


その言葉で、リオの中に何かが噛み合う。


そうだ。

ずっと、土地を広げる話はしてきた。

第一地区。第二地区。第三地区。

そして、いつか第五地区まで。


だが今日、第二地区の外を見たことで、はっきりした。


ただ広げるだけでは、守れない。


ただ住めるだけでも、足りない。


必要なのは、戦える拠点であり、統治の拠点だ。


リオは一歩前へ出た。


「まずは」

その声に、みんなが静かに向く。


「第一地区と第三地区に、拠点を作ろう」


誰もすぐには口を挟まない。

リオの言葉が、今この場ではただの思いつきじゃないと分かるからだ。


リオは続ける。


「城はその先だ」

「第五地区に築く」

「でも、そこへ行く前に骨組みがいる」


「第一地区は中枢」

「第三地区は運用と開拓」

「その二つを早急に形にする」


ゼルクが低く言う。


「……なるほど」


サイラスも頷く。


「前線と中核を分けるのではなく」

「段階的に“国の骨格”を立てるのか」


「そう」

リオは頷いた。

「ただ建物を増やすんじゃない」

「ここが、これから人が集まってくる場所になる」

「騎士も」

「継ぐ者も」

「守る者も」

「考える者も」


そこでリオは少しだけ言葉を区切った。


自分でも、その先の言葉の重さを感じていた。


「そして」

「その拠点こそが」

「今後の国の幹部たちが集まる場所になる」


空気が変わった。


“幹部”。


その言葉には、戦場で勝つ以上の重みがある。

誰が集まるのか。

誰がそこへ座るのか。

誰がこの土地の未来を決める側へ入るのか。


タオーが、ちょっとだけ目をきらきらさせてミアへ小声で言う。


「幹部って、なんかかっこよくね?」

「静かにして」

と、グラーが即座に潰した。


だが、その言葉に心がざわついたのは、タオーだけではない。


ミアも。

ヴァイスも。

騎士団たちも。

そしてレインもまた、少しだけ目を細めていた。


ヴァイスが静かに尋ねる。


「第一地区と第三地区」

「具体的には、どのような役割に?」


それを受けたのはノアだった。


「第一地区は、ギルド本拠」

「会議、決定、迎え入れ、記録の集積」

「つまり“頭”です」


「第三地区は」

リュメリアが引き取る。

「開拓と運用の中継点」

「人、物資、建材、戦力、その全部を回す場所」

「つまり“手足”ね」


「第五地区は?」

と、タオーが思わず口を挟む。


今度はリオが答えた。


「最後に、そこへ城を築く」

「まだ先だけど」

「でも、そこが“国としての顔”になる」


「うわ……」

タオーが素直に声を漏らす。

「なんか急に、ほんとに国っぽくなってきた」


「最初からそのつもりだったろ」

と、ザルクスなら笑っていたところだが、ここにはいない。


代わりに、ヴァルもいないこの場では、妙にその言葉が静かに響く。


レインが、小さく笑った。


「お前さ」

「戦ってる時もそうだけど、こういう時の方がやばいな」


「何が」

と、リオ。


「作る側の目してる」

レインは正直に言った。

「壊すより、そっちの方が似合うのかもな」


リオは、少しだけ困ったように眉を動かした。

だが、否定はしなかった。


第二地区の外で見たもの。

増えた害。

壊れかけた生態系。

それを抑えるだけじゃ駄目だと思ったのは本当だからだ。


ノアがそこで、改めて皆を見回す。


「拠点は、ただの建物ではありません」

「そこへ誰が集まり」

「誰が座り」

「誰が責任を持つのかで、その意味はまるで変わります」


その声は静かだった。

でも、その場の誰もが、次の言葉を待ってしまう声でもあった。


ノアは、ゆっくりと騎士団たちへ視線を向ける。


王直属の騎士。

隣国の騎士。

今までただ見届けてきた者たち。


「ですから」

と、ノア。


「次に確認すべきは、あなた方です」


空気が、ぴたりと止まる。


ゼルクもサイラスも、表情は変えない。

だが、その目だけが少しだけ深くなる。


ノアの声は、さらに静かになる。


「あなた方が、この国の外に立つのか」

「それとも、この国の中へ入るのか」


誰も、すぐには答えなかった。


答えられないのではない。

その問いが、軽く返していいものではないと分かったからだ。


リオは、そのやり取りを見ながら、小さく息を吐く。


来た、と思った。


第二地区外の戦いが終わった今。

土地が拠点へ変わろうとしている今。

ようやく、本当に問うべきことが来たのだ。


誰が残るのか。

誰が座るのか。

誰が、この国の幹部になるのか。


ノアが最後に一言だけ落とす。


「次は、そこを決めましょう」


その声は、宣言ではなく確認だった。

だが、だからこそ重い。


第二地区の勝利の余韻は、ここで次の段階へ変わった。


ただ強い者たちが集う場所ではない。

これから築くのは、国の骨格だ。


そしてその骨格へ、誰が加わるのか――

答えは、次の場で示される。

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