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外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


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おかえり

目を開けた時、最初に見えたのは見慣れた天井だった。


夢記録世界の、あの部屋。

城の中の空気。

現実より少しだけ柔らかく、少しだけ密度の高い、もう一つの世界の匂い。


意識がはっきりしてくるにつれて、時間のズレもゆっくり胸へ落ちてきた。


夢世界では、4日が経過していた。

だが――


現実世界では、僅か2時間程度。


リオは、寝台の上でしばらく瞬きを繰り返した。


「……ほんとに、繋がってるんだな」


現実でラルラゴと話した時間。

アヴニールと再会した時間。

あの重い会話も、現実側ではわずか2時間ほどのことだった。


なのに、夢世界ではもう4日。


あまりにもおかしい。

けれど、それが今の自分にとっては、もう“ありえない話”ではなくなっていた。


そして。


目の前に、女の顔があった。


「……アヴニール?」


リオの声は完全に寝起きだった。


アヴニールは、夢世界の姿のまま、寝台のすぐそばに腰かけていた。

現実世界で見た時より少しだけ近い。

少しだけやわらかい。

でも、やっぱり静かな圧を持っている。


彼女は、目を細めて言った。


「おかえり」


そのまま、何のためらいもなく。


ちゅっ。


リオの頬へ、軽く口づけた。


一瞬、時間が止まる。


「……え?」


リオの思考が完全に固まる。


「え!?」

「は!?」

「え、ちょ、何!?」


飛び起きる。

寝台の上で半分転がる。

頬を押さえる。

目が完全に覚める。


アヴニールは、そんなリオを見て、ほんの少しだけ楽しそうだった。


「何って」

「おかえりの挨拶よ」


「挨拶にしては濃くない!?」

「そう?」

「そうだよ!!」


その時だった。


部屋の入口の方で、びき、と空気が鳴る。


リオが恐る恐る振り向く。


そこにはノアが立っていた。

笑っている。

笑ってはいる。

だが、目だけが笑っていない。


その隣で、リュメリアが腕を組んだまま、ものすごく冷たい顔をしている。


「……何してるの?」

と、リュメリア。


アヴニールは平然としていた。


「見ての通りよ」

「おかえりの挨拶」


リュメリアの眉がぴくりと動く。


「おばさん、離れなさいよ」


リオが思わず目を剥く。


「いや言い方!」


「うるさい」

リュメリアはリオを見ずに言った。

「今それどころじゃないの」


ノアが、ふわりと一歩前へ出る。


声はやわらかい。

やわらかいのに怖い。


「塵にしますね」


「待って待って待って」

リオが慌てて手を振る。

「なんでそうなるの!?」


ノアはにっこりしている。


「理由が必要ですか?」

「必要だよ!?」


アヴニールが、すっと立ち上がる。


「嫉妬は見苦しいわよ、二人とも」


その一言で、今度はリュメリアのこめかみがひくりと揺れた。


「誰が嫉妬してるって?」

「してるでしょ」

「してません」

「してますね」

と、ノア。


「ノア、あんたは黙ってなさい」


「嫌です」


リオは寝台の上で頭を抱えた。


「なんで帰ってきて一発目がこれなんだよ……」


その時、部屋の外から、くくっと笑いを噛み殺す声が聞こえた。


ザルクスだ。


「ははっ……!」

「やっぱりこうなったか……!」


「お前いたのか!」

と、リオ。


「いたぞ」

ザルクスは扉にもたれながら、ものすごく楽しそうに笑っていた。

「面白そうだから黙って見てた」


「最悪だな!」


その後ろでは、ヴァルまで酒を片手に肩を揺らしている。


「おかえり、リオ」

「初手から景気がいいな」


「よくないよ!!」


部屋の中は、一気に騒がしくなった。


現実世界の重さ。

夢世界の継続。

託された歴史。

変えていくべき未来。


そういう大事なものは山ほどある。


でも、それでも。


こうして帰ってきた瞬間に、呆れるほど賑やかな声が飛んでくるのが、今のリオの世界だった。


アヴニールは静かにリオを見ている。

リュメリアは冷たい顔のままだ。

ノアは塵にする気満々だ。

ザルクスとヴァルは笑っている。


その全部を見て、リオは最後に大きく息を吐いた。


「……ただいま」


その一言に、部屋の空気がほんの少しだけ落ち着いた。


でも、リュメリアとノアの目はまだまったく落ち着いていなかった。

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