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外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


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地の下の核

第一区の会議室兼、ギルドメンバーの寝泊まりする大広間には、すでに夜の灯りが落ちていた。


外では宴の準備が始まっている。

火の魔術で温められた鍋の匂い。

遠くで混じる、人の笑い声と魔人の低い声。

噴水の水音。


だが、今夜この部屋に流れている空気は、それとは少し違っていた。


卓の上には、大きく広げられた地図がある。

成埜の地。

第一区、第二区。

これから整備される第三区以降の想定区画。

そして、そのさらに奥――中心部へ向かうまだ曖昧な線。


リオは席に着き、まずレインの方を見た。


「落ち着いた?」


レインは、さっきよりはずっと顔色が戻っていた。

それでも、まだ胸の奥に妙なざわつきが残っているのは、自分でも分かっているらしい。


「うん」

「さっきよりは」


「無理はするな」

と、ラルラゴ。


「……はい」

レインが珍しく素直に頷く。


その返事を聞いて、ヴァルが少しだけ笑った。


「よし、死にかけてはいないな」

「軽いんだよ、言い方が」

と、レイン。


「軽く言ってやらんと、お前は余計に気にするだろう?」

「それは……」

「図星ね」

と、リュメリアが刺した。


小さな笑いが起きる。

だが、それが済むとすぐに会議の空気へ戻った。


ラルラゴが地図の中心部を指で軽く叩く。


「まず、レインの件だ」


全員の視線が集まる。


「今日、中心に近づいた時点で《接続》が反応した」

「それは偶然ではない」

「成埜の地の中心部、あるいはそのさらに下に、お前のスキルが繋がりうる何かがある」


レインが黙る。


自分でも、もう否定しきれない。

あの感覚は幻ではなかった。


ザルクスが椅子に深く腰掛けたまま言う。


「かなり相性がいい」

「良すぎる、と言ってもいい」

「だからこそ今日は引いたんだ」

「今のレインだと、繋ぐんじゃなくて繋がれかねない」


「それが、ミアの言ってた“引きずられる”ってこと?」

と、リオ。


ミアは小さく頷いた。


「うん」

「今日のあれは、レインが地の下を触るっていうより……」

「向こうが、レインの中を覗き返してくる感じだった」


会議室が、しんと静まる。


ノアの光が、卓の上でやわらかく揺れた。


「危険ですね」


「危険だが、価値もある」

リュメリアが静かに言う。

「接続の先が成埜の地の核に近いなら、レインは今後この土地を読む鍵になる」

「だから壊すわけにはいかないし、急がせるわけにもいかない」


「つまり」

ヴァルが指を二本立てる。

「大事に育てる、だな」


「雑に言えばそう」

リュメリアが返す。


レインは、少しだけ唇を結んだ。


「……俺、足引っ張ってない?」


その言葉に、リオがすぐ首を振る。


「逆だよ」

「たぶん、みんながまだ触れられてないところに、一番先に手がかかり始めてる」


「そうだ」

ラルラゴも短く言う。

「足を引っ張っているのではない」

「先に触れた」


その一言で、レインは少しだけ息を吐いた。


ザルクスが、卓の上の別の印を指先でなぞる。


「で、そこから次の話に繋がる」


地図上には、いくつか赤い印が打たれていた。


第三区予定地の外れ。

第四区のさらに向こう。

中心部を囲むように、点在するいくつもの位置。


リオが目を細める。


「これ……」


「確認されたダンジョンだ」

ラルラゴが言う。


「複数あるの?」

と、レイン。


「ある」

リュメリアが頷く。

「しかもひとつやふたつじゃない」

「浅いもの、深いもの、まだ入口だけしか見えていないものも含めれば、すでに複数」


ヴァルが楽しそうに笑う。


「いいじゃないか」

「国になる前から地下資源付きだ」


「言い方」

と、リオが苦笑する。


だが、笑って済む話でもなかった。


ダンジョンがある。

それだけなら、この世界では珍しくない。

問題は、その場所と数と質だ。


ノアが地図を見る。


「この近郊にこれだけ密集するのは、普通ではありませんね」


「普通じゃない」

ザルクスがあっさり言う。

「しかも、あれは全部が全部“独立したダンジョン”とも限らない」


「どういう意味?」

リオが聞く。


ザルクスは少しだけ指先で円を描いた。


「地の下の流れが強すぎるんだよ」

「だから一見別々に見えても、深いところで繋がってる可能性がある」

「入口は複数、核はひとつ、みたいな構造もありうる」


ミアが、そこでぽつりと言った。


「音、似てた」


全員がそちらを見る。


ミアは少し考えながら続ける。


「全部同じじゃない」

「でも、遠くの音の底の方が、何個か同じだった」

「浅いのと深いのがある感じ」

「上は別々でも、下で混ざってる……みたいな」


「やはりな」

リュメリアが目を細める。


「中心部の核と、周囲のダンジョン群が、同じ地脈網にぶら下がっている可能性は高い」


ラルラゴが卓を指で叩いた。


「となれば話は単純ではない」

「ここで決めるべきは二つだ」


「ダンジョンを自国や隣国に解放するか」

と、リオ。


「それとも、まずは我々で攻略するか」

と、ヴァル。


ラルラゴが頷いた。


「そうだ」



会議室に、少しだけ重い沈黙が落ちた。


先に口を開いたのはヴァルだった。


「私の意見を先に言うなら、全部閉じるのはもったいない」


リュメリアが横目で見る。


ヴァルは肩をすくめた。


「資源、訓練、流通、将来の収入」

「ダンジョンは開けば国が育つ」

「特に浅層のものは、いずれ外へ開いた方がいい」


「いずれ、ね」

リュメリア。


「そう、いずれだ」

ヴァルは笑う。

「今すぐではない」

「今の段階で他国や一般冒険者に好きに触らせるのは、さすがに愚かだ」


「珍しくまとも」

と、リュメリア。


「私はいつだってまともだが?」

「その冗談、今じゃないわ」


今度はリュメリアが自分の意見を置く。


「私は、現時点では封鎖寄り」

「少なくとも、中心部と深層に繋がる可能性があるものは、絶対に外へ開かない」

「浅いものですら、まずは内部で構造を読むべき」

「ダンジョンは資源である前に、“穴”よ」

「どこへ通じ、何を漏らし、何を呼ぶか分からない」


ノアも静かに続けた。


「民を守る立場から見ても、まずは我々で安全を確認する方がよろしいかと」

「第一区、第二区に暮らしが根づき始めている今、未知のダンジョンを不用意に解放するのは危険です」


リオは頷きながら聞いていた。


たしかにその通りだ。

今の成埜の地は勢いがある。

でも、その勢いのまま穴を開けていいほど単純な土地ではない。


レインが、少し考えてから言った。


「俺も、まだ早いと思う」


全員が見る。


レインは少しだけ言葉を選ぶように続けた。


「今日、中心で感じたのと似てる」

「ダンジョンも、ただの入口じゃない気がする」

「繋がってるなら、どこか一つ開けたら、別の何かまで動くかもしれない」


ザルクスが、そこで初めて少し真面目に頷いた。


「その感覚はたぶん正しい」


「じゃあ、やっぱり……」

と、リオ。


「まずは我々だな」

ラルラゴが言い切った。


その一言で、方向はほぼ定まった。


だが、ザルクスはそこでひとつだけ指を立てた。


「ただし、全部を一括りにするな」

「浅いの、深いの、資源型、封印型、通路型」

「性質は分けろ」

「浅層の一部は、将来的には自国向け訓練場にできる」

「もっと安全が確認できれば、隣国への限定解放もありだ」

「でも、深いのは別だ」


「深いのは?」

と、リオ。


ザルクスは少しだけ笑った。


「俺でも、まだ雑に触りたくない」


その一言の重さに、会議室がまた静まる。


ヴァルが、肩を揺らした。


「それはだいぶ嫌な情報だな」


「嫌だろ」

ザルクスはあっさり言う。

「だから面白い」


「面白がるな」

今度はリオとレインが同時に言って、少しだけ空気が緩んだ。



ラルラゴが、最後に結論を置いた。


「方針を決める」


全員が視線を向ける。


「成埜の地近郊で確認されたダンジョン群は、当面すべてオルビス・ノヴァ管理下とする」

「まずは内部調査、内部攻略、性質分類」

「浅層で安全が確認できたもののみ、将来的な段階的解放を検討」

「自国・隣国への開放は、それ以後だ」


「妥当ですね」

ノア。


「ええ」

リュメリアも頷く。

「順番としては正しいわ」


「じゃあ、俺たちの次の仕事は」

リオが地図を見た。


「中心部の再調査と、ダンジョンの分類」

「それと」

レインが少しだけ息を吐く。

「俺の接続の扱い方を、ちゃんと覚えること」


「そうだね」

と、リオは笑った。

「忙しくなる」


ヴァルが杯を持ち上げる。


「いいじゃないか」

「国を作る前に、地下まで面倒を見る」

「実に我々らしい」


「普通の国はそんな順番じゃないんだよ」

と、レイン。


「普通じゃないからな」

ザルクスが笑う。


ミアは、そのやりとりを聞きながら、静かに地図の赤い印を見ていた。


ひとつひとつが、違う音を持っている。

でも、どれもまったく無関係ではない。


中心部。

核。

ダンジョン。

レインの接続。

そして、この土地全体の鼓動。


その全部が、少しずつ同じ方向へ寄り始めている。


「……まだ」

ミアが小さく言った。


「うん?」

と、リオ。


「もっとあると思う」

「下に」


誰も軽くは受け取らなかった。


リオは、ゆっくり頷く。


「だろうね」


卓の上の灯りが揺れる。


外では宴の声がまだ続いている。

だがこの部屋の中では、またひとつ、この国の未来に関わる決定が静かに下された。


成埜の地は、上へ広がるだけではない。

下へも続いている。


その事実を、今夜オルビス・ノヴァは、ようやく本気で受け止め始めていた。

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