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外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


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引き返す勇気

成埜の地の中心へ続く道の先で、風が止まっていた。


いや、止まっているように感じるだけかもしれない。

実際には草も揺れているし、遠くでは地の深いところを流れるような鈍い振動が続いている。


けれど、一行の感覚は確かに変わっていた。


レインの言葉が、その場の空気を変えたのだ。


繋がってる。


それは、軽い違和感ではない。

ただの勘でもない。

この土地の下にある何かへ、レインの《接続》が、確かに触れかけたということだった。


リオはレインの肩を支えたまま、前を見ていた。


「レイン、大丈夫?」


レインは呼吸を整えようとしていたが、うまくいっていない。

額には薄く汗が滲み、目の奥には焦点の合いきらない揺れがあった。


「……大丈夫、じゃない」

「けど、まだ行ける」


その言葉に、ミアがすぐ反応した。


「だめ」


声は小さい。

でも、はっきりしていた。


レインがそちらを見る。


ミアは、顔色こそいつも通りだったが、目だけは強く張っていた。


「これ以上はだめ」

「音が壊れる」


その一言に、リュメリアの視線が鋭くなる。


「壊れる?」

と、リオ。


ミアは頷いた。


「レインの音も、この土地の音も」

「今はまだ、ちゃんと噛み合ってない」

「ここで無理に進んだら、繋がるんじゃなくて、引きずられる」


レインが歯を食いしばる。


「でも、今なら分かりそうなんだ」

「下に何かある」

「何本も流れてる」

「あと少し行けば――」


「だから危ないの」

ミアが遮った。


前みたいなたどたどしさはない。

今の彼女は、恐がっているだけではなく、ちゃんと止めるために言葉を使っていた。


「“あと少し”の音じゃない」

「今のは“ここから先はお前が持っていかれる”音」


沈黙。


ノアの光が、静かに揺れた。


ザルクスも、珍しく軽口を挟まなかった。

代わりに、少しだけ真面目な顔でレインの様子を見ている。


そして、最後に判断を下したのはラルラゴだった。


「戻るぞ」


短い一言。


レインが顔を上げる。


「……でも」


「戻る」

ラルラゴは繰り返す。


反論を挟ませない声だった。


「ここで進む意味はない」

「今のお前が繋がり始めたこと、それだけで十分だ」


レインは唇を噛む。


悔しさはある。

もっと知りたい。

このまま先へ行けば、自分の中で何かが開く予感がある。


でも、その予感が甘くないことも分かっていた。


リオが、肩に置いた手を少しだけ強める。


「今日はここまでにしよう」

「ちゃんと戻って、ちゃんと考えてからの方がいい」


レインはしばらく何も言わなかった。


やがて、小さく息を吐く。


「……分かった」


その返事に、ザルクスがようやく笑った。


「うん、偉い」

「引き際が分かるのは強さだぞ」


「お前が言うと軽いんだよ」

と、レインが即座に返す。


「軽く言ってるからな」

ザルクスは悪びれもしない。


ヴァルがそこで、ようやくいつもの調子で口を挟んだ。


「いやあ、しかし」

「ここで引けるのはいいことだ」

「若い頃の私は、絶対にもう三歩は踏み込んでひどい目を見ていた」


「今も似たようなものでしょうに」

と、リュメリア。


「ひどいな」

「事実よ」


そのやりとりに、少しだけ空気が緩む。


だが、緩んだからこそ余計に分かる。


今の中心部は、まだ笑って踏み込める場所ではない。


一行は、来た道をゆっくりと引き返し始めた。



戻る道は、行きより長く感じた。


足元の圧はまだ重い。

魔気も濃い。

だが、中心から少しずつ離れるにつれて、息のしやすさが戻ってくる。


レインも最初の数分は無言だったが、やがて呼吸が整い、顔色も少しずつ戻っていった。


ミアは、そのすぐ近くを歩いていた。


何度かレインの横顔を見て、

何か言いかけて、

でも今は言わない方がいいと判断したらしく、結局黙って前を向く。


その様子に気づいて、リオが少しだけ笑う。


「ミア」


「うん?」


「さっき、ありがとう」

「ちゃんと止めてくれて」


ミアは一瞬だけ目を丸くした。


それから、少しだけ首を振る。


「ううん」

「止めたかっただけ」


「それが大事なんだよ」

リオはやわらかく言った。


レインは、前を向いたままぼそっと呟く。


「……止められて、ちょっと悔しかったけど」

「助かったのも分かってる」


ミアが、ほんの少しだけ口元を緩める。


「うん」


その短いやり取りが、今の二人にはちょうどよかった。


第二区の建造途中の施設群が見え始めた頃には、皆の表情も少し戻っていた。


だがラルラゴだけは変わらない。


無言のまま歩き、頭の中で何かを組み立てている顔をしている。

リュメリアも同じだった。

ザルクスは飄々としているように見えて、目の奥だけは妙に静かだ。


ヴァルが空を見上げながら言う。


「さて」

「これは面白くなってきたな」


「面白がる段階は過ぎてるわ」

と、リュメリア。


「いやいや、こういう時こそ面白がらないと心がもたん」

「あなたの心はだいぶ丈夫でしょう」

「丈夫だから言ってるんだ」


ノアの光が、くすりと揺れた。



第一区に戻る頃には、陽はだいぶ傾いていた。


高い防壁の内側に入ると、それだけで身体が少し軽くなる。

ノアの結界が、外の濃い流れを薄く遮っているのが分かった。


第一区の中央広場では、今日も人と魔人と職人たちがごちゃ混ぜになって動いている。

噴水のそばでは子どもたちが走り回り、

広間の近くでは夜の宴の準備が始まっていた。


その日常の気配を感じて、レインがようやく肩の力を抜く。


「……帰ってきた、って感じするな」


「するね」

と、リオ。


ラルラゴが足を止めた。


振り返る。


「このまま会議だ」


全員の視線がそちらへ集まる。


「第一区の会議室兼、住まいの広間を使う」

「今日見たもの、感じたものを全部出せ」

「レインの反応も含めて整理する」


ザルクスが口元を上げる。


「お、真面目回だな」


「お前が言うな」

と、ヴァル。


レインはまだ少し疲れていたが、顔つきは変わっていた。


中心に近づいたことで、怖さも知った。

足りなさも知った。

でも、それ以上に。


自分の《接続》が、本当に何かへ届き始めていることを知ってしまった。


もう後戻りはできない。


ミアもまた、静かに広間の方を見た。


音がまだ残っている。

地の下で鳴るもの。

レインの中で動き始めたもの。

そして、その二つがこれからもっと深く絡むであろう予感。


「行こう」

と、リオが言う。


その声に、全員が自然に動いた。


第一区の中央にある、会議室兼ギルドメンバーの寝泊まりする大きな棟。

笑いも、酒も、議論も、眠れない夜も、全部そこに積み重なってきた場所。


今夜は、その場所で話し合う。


成埜の地の中心へ続く道。

第5区のさらに奥。

そして、レインの《接続》が触れかけた“何か”について。


一行は、灯りのともり始めた広間へと入っていった。

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