43.友人
「今日はすまなかったなリアン」
「いえ、父上が謝ることではありませんし、僕もすぐに対処できなかったので」
「まあ、結果的にはいい感じになったしよかったんじゃねーの?」
シリウスとジョンとリアンは王宮から帰る馬車の中で今日の話をしていた。
「それはそうとリアンは試験本当に終わったのか?今回の国吏試験は今までより相当難しいって聞いてたんだけどな」
「あ、やっぱりそうなんですね。結構ひっかけのような問いがあったのでそうかと思いました」
あっさりと言ってのけたリアンにジョンとシリウスは「へえ」「ほう」と感心したようだった。
「国吏試験は最短でも二日はかかっているが、それを一日で終わらせるとはな。よくやったリアン」
「ありがとうございます父上」
めったに褒めないシリウスに褒められたリアンは少し嬉しそうにしながら答えた。
それから御者の「着きました」という言葉で三人は馬車を降りて屋敷の中へと入っていった。
屋敷へ入ると辺りは静まりかえっていたが、しばらくするとレイラとソフィアの二人がダイニングルームのある方から出迎えてくれた。
「おかえりなさいあなた」
「ああレイラ、今帰った」
シリウスはレイラの頬に出迎えてくれたことに対する感謝のキスを落とした。
二人を見ていたリアンとソフィアは顔を赤らめたが、ジョンはそんな二人を見て「なんだよいつものことだろ?初だなぁ」と慣れた発言をした。
「兄さんは慣れすぎなんですよ」
リアンがジョンに軽く抗議したあと、五人はダイニングルームへと向かい、帰ってきた三人は食事を取ることにした。
この時ソフィアはウィルと密会した日のことを思い出して顔を赤くしていたのだが、この場にそのことを知る者は誰もいなかった。
レイラとソフィア以外の三人は料理長であるアーサーが用意した食事をとりながら家族で話をし始めた。
「リアンは早かったのね、終わるには三日ほどかかるとシリアスが言っていたのだけど」
「ああ母さん、リアンは早く終わらせたんだよ」
「あらそうだったのね」
リアンの優秀さを知らなかったソフィアはジョンのその言葉に驚いた。
リアンは普段自分がどれくらい勉強しているのかを話さないため、ソフィアはリアンがどれくらい出来るの知らなかった。普段の会話からなんとなく勉強ができそうだと思ってはいたが、難関と言われる国吏試験を一日で終わらせてしまうほどの優秀さにソフィアは驚かずにはいられなかった。
「ですがもう一人、同じ時に試験を終わらせた者もいます」
「へぇ!リアン以外にそんな奴がいるとはなぁ、どんな奴だった?」
「頭の回転は速いと思いますよ。面白い奴でした」
ジョンの疑問に、いつもはあまり見せない楽しそうな顔で笑いながら話すリアンを見てソフィアは意外に思った。
「その者の名はなんと言うんだ?」
「はい、エリック・オルコットという名前です。侯爵領の人間ですよ」
「ほう、それほど優秀な者がいたとはな」
シリウスはエリックの名前を聞いたことはなかったが、自らの領地にそのような優秀な人間がいたことに驚いた。
「んで?そいつとは仲良くでもなったのか?」
「仲良く?ああ、勝負なら受けましたよ」
「勝負ー?」
今まで友人のいなかったリアンは、ジョンの言う仲良くなるという意味が分からず、勝負を受けたことやエリックとの話を大まかに話した。
「それはもう友達だろ?」
「そうなんですか?」
リアンの反応に呆れた声を出してジョンは言った。言われたリアンはキョトンとした顔をしていたが、エリックと友達になるのは悪くないと思い「そうですね、友人です」と答えた。
「友人といえば、ソフィアも歩けるようになったことですし、そろそろお茶会やパーティーに出て社交をしましょうか」
「そうだな、ソフィアはどうだ?」
リアンの友人の話からレイラはソフィアの社交について参加してみてはどうかと言い、それに同意したシリウスはソフィアに話しかけたが、急に話しかけられたソフィアは反応が遅れてしまった。
「は、はい!その.......」
「ゆっくりでいいのよソフィア。パーティーはダンスも覚えなければならないから、参加するとしてもお茶会が先になるかしらね」
「何か他にしたいことがあるなら言いなさいソフィア」
ーーー私のやりたいこと......
「あ、の......お茶会やパーティーは参加致します」
「そう?!よかったわ!ちょうど明後日行商人の方が来るからソフィアに合う服やドレスなんかを一緒に選びましょ!」
「はい、お母様」
レイラはソフィアの返事にニコニコとしながら喜び、シリウスも頷いていた。
ーーーこれでいいの。私は望む答えを言えばいい。
「ソフィーは今なんかしたいことないのか?」
ーーーこういう質問は困る。
ソフィアはありから出てからは常に人の望む答えを言うようにしてきた。それ故に、今までしたいと思ったことは全てウィルが関係していることであり、それ以外でしたいことは考えないようにしていた。
困った顔の作り方を練習していなかったソフィアはその場で黙り込んでしまったが、一つだけ思いついたことがあったため、それを言ってみることにした。
「あの、一人でその、町を歩きたいのですが.........」
弱々しく窺うような声で言った言葉に、ジョンは「いいんじゃね?」と軽く賛成したが、シリウスは少し眉間にしわを寄せて「なぜだ?」とソフィアに理由を尋ねた。
聞かれたソフィアはシリウスの顔を見て「申し訳ありません、忘れてください」と言いたくなったが、圧が強かったため言い出すことができず、大人しく理由を言うことにした。
「歩けるようになったので、一人で町を歩いてみたかっただけなのですが.......申し訳ありません」
「ソフィアが謝る必要はないのよ?ただ一人だと危険も多いから、シリウスは心配しているだけなのよ。ふふわかりづらいわよね」
「こらレイラ、余計なことを言うんじゃない」
レイラの指摘に少し顔を赤らめ、それを誤魔化すようにコホンっと咳を一つついたシリウスはソフィアに向かって話し始めた。
「ここは侯爵領で比較的安全ではあるが、危険が全くないわけではない。帰ってくる時間を伝えて行くのであれば許可しよう。それと、人が多い道を通るようにしなさい」
「あ、ありがとうございます」
てっきり反対されると思っていたソフィアは、シリウスから許可を貰えたことで行くことができると分かり嬉しくなった。
「良かったなソフィー、楽しんで来いよ」
「ソフィア気をつけて行って来るんだよ」
兄二人からも言葉をもらい、ソフィアは「はい」と答え明日早速行くことを伝えたあと、一人部屋へと戻っていった。
「ソフィー嬉しそうだったなぁ。親父もよく許したよな」
「閉じ込めるようなことはしたくなかったからな」
「なるほど」
ソフィアのいなくなったあと、シリウスは許可した理由をジョンに問われ、ドブリスのようなことはしたくなかったからだとと暗に伝え、ジョンもそれを正確に受け取った。
「ソフィアはまだ遠慮が抜けないわね、もう二ヶ月は経つのだけど」
「母上、二ヶ月では遠慮は抜けませんよ。年を重ねていかなければ」
「ソフィーのしたいことは叶えてやりたいけど、そのやりたいことがなさそうだもんなぁ、遠慮してるのかもしれないけど」
ソフィアが未だに遠慮していることに四人は気づいていたが、それをソフィアに言うことはなかった。そんなことをすれば優しいソフィアはすぐに気を遣ってしまうと分かっていたからだ。
「でも、最近では笑顔も見せてくれるようになっているのだし、もう少しで気兼ねなく接してくれるようになるわよね」
「そうですね、前よりは表情も豊かになった気がしますよ」
「ああ、ソフィアもきっと少しずつ打ち解けて行ってくれているんだろう。社交をするようになればきっと友人も増えるだろうから、もっと話してくれるようになるかもしれないな」
四人はソフィアを十分理解してくれていたが、唯一ソフィアが見せる表情が作られたものであることには気づかなかった。
それでもジョンだけは、ソフィアの完璧な表情の演技になんとなく気づいていたが、それを三人の前でいうことはなかった。
「........まぁ明日はとにかくソフィアが無事に戻って来ることを祈るしかないな。じゃ、俺は戻るわ」
「僕もそろそろ寝ますね」
「おやすみなさいジョン、リアン」
話が終わったところで四人はそれぞれ部屋へと帰り、明日のソフィアの無事を祈りながら眠りについた。




