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42.誤解


難関と言われる国吏試験を前代未聞の一日目で終わらせたリアンとエリックの二人は、試験会場から出たあと王宮の中を歩きながら話しをしていた。



「いやぁ、かーなり難しかったなぁ。ちょっとてこずったけど出来てよかったー。リアンはどうだった?」

「.......今回の試験、おそらくかなりの不合格者が出ると思う」

「うーん、まあ国吏試験は毎年難関だって聞くけど、今年は多分過去最大で難しかっただろうからなー」



そのかなり難しい試験を少してこずったと言って済ませられるエリックと、自分の結果より他人の結果を心配をしているリアンはもはや自分たちが試験に合格することを疑っていなかった。




「そういえば、試験前に言っていたハンカチーフのことだけど、青であることとアイリスの花には何か意味があるのか?」

「おいおいリアン、お前はまさか妹ちゃんからの激励を受け取ってなかったのか?」

「いや、特に何も.......頑張ってくださいとしか」




首を傾げるとエリックは呆れたといった様子で人差し指を立て、リアンに説明をし始めた。




「あのなぁリアン、いくら頭が良くても世の中のことをもっと知らないとダメだぞ。昔から青は幸せの色とされていて、青いものを身につけると幸福が訪れるとかいうのがこの国にはあるんだ。ほら、街の祭りの時に青色の看板が結構並んでるだろ?」

「ああ、そういえば....」

「それは自分の店が繁盛しますようにといったような意味から青色で塗られているんだ。で、アイリスには良い便りとか希望とかいい感じの花言葉があるんだよ。つまり妹ちゃんはお前の合格を心から願って応援してくれてるってことだろ?」




単に試験の日だからと贈り物をしてくれただけだと思っていたリアンは、手渡されたハンカチーフにはそんな意味が込められていたのかと理解すると同時に、プレッシャーにならないようなさりげない励まし方にソフィアの優しさを感じ、思わず笑みがこぼれた。




「まあ、何はともあれ一日で試験が終わってよかったな!夜も遅いし俺はこれから街の宿をとって寝るけどリアンは?」

「俺は屋敷に帰るよ。国吏試験の試験結果は二週間後正門前で行われる予定だし。わかってると思うけど遅刻しないようにねエリック」

「わーってるよ!リアンもなーー!んじゃ」




軽く手をあげながら城下の方へと歩いていったエリックの背中を見て見送ったレオンは踵を返し、自分が帰るための馬車を手配しようと王宮から出るために出口へと歩き始めた。



ちょうどその時だった。




「おい!そこの者止まれ!」



急に後ろからこちらの動きを遮る声が聞こえたため、一度止まってから後ろを振り向いたリアンは、巡回中の兵士が棍をこちらに向けているのを見て、自分が不審者だと勘違いされたことをすぐに理解した。



「何者だ!名を名乗れ!」



名乗れと言われたリアンは下手に弁解をするより大人しくしていた方がいいだろうと判断し、正直に名前を言った。



「私の名前はリアン・フォン・ローエンです」

「ローエンだと?嘘をつくな!王宮にジョン様以外の団長のご子息がいるはずがない!ローエンの名を出せば騙せると思うなよ!」



兵士は新人なのか頭の回転が悪いのか、今日王宮で国吏試験やその他の試験が行われていることを忘れているらしく、リアンが名前を言っても信じず、いまだ厳しい目でリアンのことを見ていた。



(これじゃあ何を言っても無駄だな)



そこでリアンは本来であれば言わなくてもいいと思っていたことをいうことにした。



「私は今日の国吏試験を受けにここへ来ました。試験がようやく終わったのでこれから帰るところだったんです」

「そう言って国吏試験の受験者だといえば紛れ込めると思ったんだろう、今日はそんなやつが六人はいた!そんな手に我々第一近衛騎士団がひっかかると思うなよ」

「.......分かりました。では話すこともあるので騎士団に連れて行ってください」

「ようやく諦めたか、初めから大人しく捕まっておけばいいものを。まあお前は他の者のように抵抗しなかったからな、軽い刑で済むだろう」



試験の疲れもあって弁解することがめんどくさくなったリアンは大人しく兵士についていくことにし、兵士はそんなリアンを見て諦めたと思ったのか、盛大な勘違いをしたままリアンの両手を後ろにして、縄で縛り騎士団へと連行していった。



(全く、父上と兄さんはどんな指導をしているんでしょうね)



呆れたようにため息をついたリアンを見ていた兵士は



「大丈夫さ、団長は厳しいが慈悲深い方でもある。きっと自ら罪を認めたお前を悪いようにはしないだろうよ」



と、全く検討違いの慰めをリアンは「それはどうも」と軽く流し、心の中でため息をつきながら騎士団への暗い道のりを兵士と黙々と歩いた。





___________________________________________________





「親父、俺そろそろ帰ってもいい?もう試験の結果も大体つけ終わっただろ?」




団長室で今日行われた武官試験の採点を団長であるシリウスとまとめていたジョンは、椅子から立ち上がると大きく体を伸ばしてシリウスに帰る了承を貰った。




「ああ、私もそろそろ帰るとしよう。リアンは試験中だろうから今日は四人での夕食になるな」

「ああ、リアンは三日間だもんな〜可哀想に」



そう言ってジョンとシリウスは家へ帰ろうと団長室から出ようとしたとき、一人の兵士が部屋の扉を叩いて入ってきた。



「失礼いたします団長!」

「何事だ」



兵士は不審な人物を捕らえたと言って報告に来た。帰ろうとしていたシリウスとジョンはそれを明日に回そうとしたが、次の兵士の言葉ですぐにそれをやめることになる。



「自分はリアン・フォン・ローエンだと名乗っていますが....」



驚いたジョンは兵士が言い終わる前に部屋を出て行き、リアンのいる牢屋へと駆けた。



「ふ、副団長?」

「......それで報告は?」



シリウスはジョンが走っていったことを気に留めず、兵士に報告するよう促す。



「は、はい!その男は団長のローエン家の名を出せばばれないと思ったのかはじめは嘘をついていましたが、諦めて自分から投降したため連行しました」

「.......報告ご苦労。それから、私の息子は二人いてな、ジョンとリアンという名前で、リアンは今日国吏試験を受けているのだが」

「.........は........も、申し訳ありません!!!!!!」



シリウスの言葉にようやく自分が大きな勘違いをしていたことに気がついた兵士はその場にひれ伏すようにしてシリウスへ謝罪した。




「ほ、本当に誠に申し訳ありませんでした!ま、まさか本当に団長のご子息であられるとは思わず、あろうことか後ろで手を縛るなど!首を切って謝罪いたします!」

「はやまるな、間違いは誰にでもある。今日のように国吏試験に紛れ込んだものがいれば間違えるのも仕方ない。しかし今後は先入観と主観でなく、よく事実を確認して客観的に物事を見るように気をつけろ」

「は、はい!本当に申し訳ありませんでした!し、失礼します」



慌てて団長室から出て行く兵士をシリウスは横目で見て、ため息をつきながら心の中でリアンに謝った。






「ぶっ!あっはっはっははははは!」

「兄さん笑ってないで、何のために僕がここまで来たと思ってるんですか」

「い、いやくくくくっま、まさかお前がろ、牢屋にいるとは思わなくて、はー心配したぞ」

「だったらもっと心配そうな顔で言ってください。笑って言われても信じるわけありません」



自分で来ることを選んだとはいえ、まさか牢屋で待たされるとは思わなかったリアンは少しムッとしながらもジョンに縄を外してもらった。



「全く、兄さんはいったい何を兵士に教えてるんですか」

「いや、本当に悪かったよ。お前はこんな夜中に何をしてたんだ?というか試験は?」



牢屋から出たリアンは外の空気を堪能しながら「試験はとっくに終わりました、僕は帰りの馬車を頼みに行こうと......」と途中まで説明してこちらに走ってきた兵士を見やった。



それは先程リアンの話をろくに聞かずに連行してきた兵士であった。




「り、リアン様!まさか貴方が本当にだん、いえローエン侯爵様のご子息だとは知らずに数々の無礼を!謝って済まされることではございませんがどうかお許しください!」



今にも地面に額をつけ土下座しそうなほど低く頭を下げて謝罪してくる兵士をリアンは見て「顔を上げてください」と静かに声をかけた。



そばにある松明で辺りは明るかったが、それとは対照的に死人のように青ざめた顔の兵士を見ながらリアンは話しかけた。



「謝罪を受け入れます。夜遅くにうろうろしていた私にも非がありますから。今回のことはお互い笑い話にしましょう」

「いえ!とんでもございません!で、ですがリアン様がおっしゃるならばそうさせていただきます。本当にありがとうございます」



酷い扱いを受けたにもかかわらず自分にも非があったというリアンの寛大さに感動した兵士は感嘆の声を漏らした。




「リアン様、よろしければ帰りの馬車を用意いたしますが」

「ああ、それはありがたいのですが、今日はこのまま兄と共に帰りますので」

「そ、そうですか、分かりました。で、では私はこれで失礼します」




しかし、そそくさと帰ろうとする兵士をすぐにリアンは呼び止めて声をかけた。




「あの、少しいいですか?」

「へっ、は、はいぃ!」



リアンから呼び止められたことで実はこれから愚痴を言われるのかと考えた兵士は動揺して声が裏返ってしまった。




「いえ、貴方は私の身なりを見て貴族だと思いましたか?」

「え?ええまあ、貴族のお坊ちゃんが物珍しさで忍び込んだのかと、すぐに投降しましたし........す、すみません」

「謝らないでください。それはいいことだと思います」




何が言いたいのか分からないリアンの言葉に、兵士は怯えよりも疑問の色を強めた。


そんな兵士の顔を見てリアンは笑いながら言った。




「貴方は貴族や平民など関係なく誰にでも公正に関われる人です。現に今回は私が貴族だと思っていたにも関わらず、きちんと正面から罪を認めさせようとしました。貴方のような存在は貴重です。人の話を聞かないところは改めるべきですが、自分の間違いをきちんと認めて謝罪することが出来る。貴方は信頼できるいい武官だと思います。私のような年下が言うのも生意気かもしれませんが頑張ってください」




そう言われた兵士は驚いた顔をしてから少し顔を赤らめ「はい!」と勢いよく返事をした。



「それと、最後に貴方の名前をお聞きしてもいいですか?」

「は、はい!私は第一近衛騎士団のヨルドと言います!」

「ヨルドさんですね、何かあった時は貴方を頼ります、よろしくお願いします」

「こ、光栄です!ありがとうございます!」




それからヨルドはもう一度深くリアンに頭を下げて笑顔でその場から去っていった。




「ヨルドさんはいい人ですね兄さん」

「ああ、あいつは親が貴族に殺されそうになったことがあって、第二騎士団の隊員に助けを求めたらしいがそいつが賄賂をもらっていてな。全く取り持ってもらえなかったらしい。結局違う奴が助けにはきてくれたんだがその貴族の罪はうやむやにされた。そういう過去がある奴だから貴族に対する見方は少し厳しいが、差別もしないんだろうな」

「なるほど」




ヨルドの過去を聞いたリアンは頷きながらヨルドの去った方向を見ていた。




「よし!じゃあ俺も親父も終わったし帰るか!」

「そうですね、ソフィアも待っているでしょうし」

「もう寝てるだろ」



そう言ってジョンとリアンは二人で馬車のある方へと歩いていった。








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