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38.小さな約束

久しぶりの更新です!

読んでくださっていた皆様申し訳ありませんでした。



「ソフィー」

「はい」

「今日はいい話し合いができた。ありがとう」

「い、いいえ!とんでもありません殿下。私の方こそ無礼をいたしました。申し訳ありません」



ジョンとレオンが部屋を出て行ったあと、ソフィアは馬車来るまでウィルと共にそのまま話をしていた。



「何が無礼なんだ?国に対する率直な意見と改善策を述べただけだ。それも促したのは俺だ、何も無礼なことではない」

「ありがとうございます殿下」

「まあ、ソフィーがあれほど饒舌に語るのを見るのは初めてだったがな、驚いた」

「あ、あれは.....忘れてください」



普段表情の変わらないソフィアの真っ白な顔がほんのり赤くなったのを見て、ウィルはわずかに目を見開いた。すぐにソフィアはいつもの無表情に戻ったがウィルはその一瞬の表情を見逃さなかった。



----初めてだ



ウィルはソフィアと話すときはいつも表情を見ながら話をしていた。それは他人の顔色を窺い媚びを売るという意味ではなく、いつも無表情で何を考えているのか顔を見ただけでは分からないソフィアの色んな表情が見たいと思っていたからだ。


ウィルは幼い頃から外交などで話すとき以外も常に相手の顔色を見ながら考えを読み、見極めてきたため人より遙かに相手の考えることが分かるようになっていた。


しかし、ソフィアは眉の動きや口の動きが変わらないだけでなく表情も変わらないため、正直初めはウィルにもソフィアの考えていることが分からなかった。だがウィルは少しずつ話しをしていくうちに、普通であれば気づかない程度にソフィアの表情が変わっていることに気づいた。


それはウィルとジョンとレオンの三人でいつものように執務室で軽口をたたきあっていたとき、ジョンと一緒に部屋へと来ていたソフィアがそんな三人の様子を見てわずかに目元に優しい笑みを浮かべたのだ。端から見ればいつもと何ら変わりのない無表情なソフィアだったが、ウィルにだけははっきりとソフィアの感情を読み取ることが出来た。それからしばらくはソフィアが熱を出したとき以外に感情らしい感情を表情から読み取ることは出来なかったが、今日の話し合いでウィルはソフィアの様々な面を知ることができ、そして今、ウィルはソフィアが恥ずかしがるという新たな表情を見ることが出来たのだ。



「ソフィーは難しいな」

「私が難しい、ですか?」



なぜ急にウィルからそんな言葉が出たのか分からないソフィアは結局言ったことを繰り返すことしかできなかった。



「いや悪い、気にしないでくれ」

「はい」



ソフィアは特に気にすることもなく「殿下はお疲れなのだろう」と思うことで言葉の意味を考えることをやめた。そしてウィルにどのように言葉をかけようか迷っていたそのとき、執事であるギールが部屋へと入ってきた。



「殿下、先ほどのソフィア様からの贈り物は執務室へと飾りましたがよろしかったですか?」

「ああ、ありがとうギール」

「いいえ、それでは私はこれで」

「ああ丁度良い、ソフィー今から執務室へ行こう。ギール、ジョンへは少し遅れると伝えてくれ」

「かしこまりました」



執務室に行って何をするのか分からないソフィアではあったが王太子殿下からの言葉を拒否できるはずもなく、ウィルと一緒に執務室へと行くためソファを立った。



「ソフィー、足は大丈夫か」

「はい、問題ありません」

「そうか、早く回復して歩けるようになると良いな」

「はい、ありがとうございます」



執務室までソフィアの歩く速さに合わせて歩いていたウィルはソフィアを横目に見ながら考え事をしていた。



ーーーー次の議会ではとにかく貴族たちを説得させることが先決だな。まあこの案にはまず誰も文句を言えないだろう。問題はどこを修正しろと言ってくるかだが.....



「殿下」

「ん?ああなんだソフィー」

「いえ、部屋に着きましたが、考え事の邪魔をしてしまいましたか?」

「ああそうか。いや、そんなことはない」



執務室の中へと入ったソフィアは窓際に向かって歩いていくウィルの後を追った。



「これを一緒に見たかったんだ」

「私が贈ったものですね」

「ああ、きれいだったから飾らせた。俺も何か用意すれば良かったな」

「いいえ、これは私がしたくてしたことです。殿下がお気になさる必要は....」



自分がしたことがウィルの負担になってはいけないと思ったソフィアはすぐにウィルの言葉を否定しようとした。だがウィルは、否定しようとするソフィアの頭をそっと撫でながら言葉を発した。



「次はなにか俺にも贈り物をさせてくれ」

「い、いえ、でもそれは...」

「でないと平等でならないからな」

「びょ、平等ですか」



初めて手紙を書いたとき、ソフィアはウィルが手紙の返事を書いてくるとは思っていなかった。その後も、殿下からの手紙に返事をしないのはいけないと思ったソフィアは返事の手紙を書き続けた。

もちろん自分がウィルに書きたいという気持ちもあったが、それ以上に返したら返ってくるというのが無限のループが続いたのが文通の始まった理由だ。


つまりはそういうことで、ウィルは一方的に与えられるのではなく、どんな形であれ返すことで対等でありたいと思っていた。ウィルの言いたいことが何となく分かったソフィアは一言「はい」と答え、それ以上は何も言わずにただ自分が贈ったポピーの花を静かに眺めていた。



しばらくそうして花を見ていたソフィアだったが、すぐにあることを思い出し、隣で一緒に花を見ていたウィルの方に向き直った。



「あの殿下、先日の誕生パーティーには出席できず申し訳ありませんでした」

「あ、あああれか。いや、それはいい。ソフィーが謝る必要は何もない」

「いえ、王国貴族の成人女性全員が参加だったとお母様から伺いました、本当に申し訳ありませんでした」



頭を下げて謝るソフィアを見てウィルは困ったように苦笑した。



「それは仕方のないことだ、顔を上げてくれ。ソフィーは謝ってばかりだな」

「あ、申し.....はい」



直したと思っていた自分の謝り癖が完全には直せていなかったことに気づき、少し気が緩むとすぐに前に戻ってしまう自分にソフィアは嫌気がさした。だがそんなことをゆっくり考える間もなく、ソフィアの考えに気づいたウィルが意図的に話題を変えた。



「まあ心配はしなくていい。それにあのパーティーには俺もほとんど参加しなかったから」

「そうなのですか?」



ウィルの言葉を聞いたソフィアはそのことを少し意外に感じた。ウィルはお祭りやパーティーといった皆で楽しいことをするのが実は好きなのではないかと思っていたからだ。気になったソフィアはそのことをウィルへと伝えると、返ってきたのは意外な答えだった。



「礼儀や身分も関係なくいろいろな人と食べたり話したりするのは確かに好きだ。だが格式張った、しかも貴族しかいない今回のようなパーティーはあまり楽しいとは思えないんだ。食事をするのにも少し人と話すのにも気を遣って正直疲れる」



落ちた花びらを指で掴み、少し寂しそうな顔をしながらウィルは話した。

そんなウィルの顔を横から見ていたソフィアは、自分も同じだと、言葉にはしなかったが代わりに小さく頷いた。

窓の外に向けていた顔をソフィアへと戻したウィルは真剣な目をしながら話しかけた。



「ソフィー、次に会う時はきっとバートリアン侯爵家での舞踏会だろう」

「バートリアン侯爵....秋の舞踏会でしょうか」

「ああそうだ、それぞれの季節に王国の侯爵家が主催で行う舞踏会だが、今年の秋はバートリアン侯爵家が主催だ。毎年のことだが、王国の建国が秋であることからも、この秋の舞踏会は毎年王国貴族全員が参加をする、もちろん王族である俺もだ」

「はい」

「それで、その、男はパーティーや舞踏会といった場所では必ず一人の女性と踊らなければならないという決まりがあるんだ」

「そうなのですね」




聡明なソフィアでも、一体ウィルが何を言いたいのかいまいち分からず頷くことしか出来ない。

言い淀みながら話すウィルもそんなソフィアの反応を見て、ようやく自分が動揺していることに気づき、息を吐いて呼吸を整えてからもう一度冷静に話をした。



「悪い、言いたいことに纏まりがなかった」

「いいえ、それでその秋の舞踏会では殿下はダンス以外にもなにか行うのですか?」

「いや、俺は特にすることはないんだが、その.....一緒にダンスを踊ってくれないか」



いつも堂々としているウィルからは想像もつかないほど歯切れの悪い様子と言われた言葉にソフィアは驚きを隠せない。



しかし一生懸命伝えてくれたであろうその言葉に、ソフィアもなんとか口を開けて精一杯答えようとする。



「は、い....私でよければ、喜んでお引き受けします。秋の舞踏会までにはきっと足も治ると思いますので」

「ありがとうソフィー」

「ですが、殿下であれば踊る相手はいくらでもいると思いますが」



ソフィアはウィルから『男性は全員女性一人とは踊らなくてはならない』という決まりの話を聞いたときに殿下なら何も問題ないだろうと思っていた。それなのになぜわざわざ自分を事前に誘ってくるのか不思議に感じたため、本人に聞いてみたのだった。



「俺は、あまり女性が得意ではない。だから知らない令嬢と踊るのには抵抗がある」

「そうだったのですか.....」


なぜ女性が苦手なのか聞こうとしたソフィアだったが、話をしたときウィルの顔にかすかに暗い陰が落ちたことに気づきそれ以上は聞かなかった。



ーーー知られたくないことは誰にだってあるのだし....



「ソフィー」

「はい」

「その...ソフィーは別だ。ソフィーと話していると楽しいし、考えも同じような気がする」

「は、はい。わ、たくしも、おこがましいかも知れませんが、殿下といると、その、温かい気持ちになります」


ソフィアの拙くも精一杯答える様子に、ウィルは思わず笑みが零れた。


「次に会う時が楽しみだ」

「わ、私も殿下にまたお会いできたらと思います」

「ソフィー、次に王宮で会うときは二人で庭を見ないか?王宮には色んな花が咲いている、それをソフィーと二人で見たいと思うんだが」

「私が行ってもよろしいのでしょうか?」



王宮の庭というと王族しか入れない薔薇園もあるのではないかと思ったが、花に興味があるソフィアは内心ではとても行きたがっていた。


「ああ大丈夫だ、次は庭を一緒に見よう。約束だ」

「はい、ありがとうございます殿下。約束です」


ウィルは自分から差し出した小指にソフィアの白く細い小指が絡まるのを見ると、その絡まった部分に静かに唇を当てた。


指に口づけられたソフィアは急な出来事に完全に固まってしまったが、それを行った張本人であるウィルもまた恥ずかしそうに顔を赤らめていた。



お互いに指を絡め頬を赤らめていたとき、ドアが急にバン!と勢いよく開け放たれ、驚いた二人はとっさに絡めていた指を離してあわてて距離をとった。



「ソフィー探したぞ!やっぱりここだったか!」

「お、お兄様申し訳ありませんお探しでしたか?」

「ああ、馬車の準備が出来たから部屋に呼びに行ったんだがいなくて、ギールに聞いたら『花を見に行かれました』とか言うからてっきり庭園かと思ったんだ。あのくそ執事わざとだな!」



こんなに汗だくで、しかも誰かに対して怒っているジョンを初めて見たソフィアはいつもよりもジョンを身近に感じた。



「時間がかかっているとは思ったが、そんな方まで行っていたのか」

「そうだよ、ったくウィルももう少し場所の分かる伝言残して行けよー」

「いや俺は.....確かに執務室に行くとは言ってないな」

「ほらみろ。ウィル、お前はいつも完璧なのにどうしてこういうときだけは完璧じゅないんだ!」

「悪かったなジョン、まあ良い運動にはなっただろ。早く帰ってゆっくり休んだ方が良いぞ」



ウィルはジョンの愚痴を軽く流しながら気をつけて帰るように言った。



「遅くなって悪かった、送れないのは残念だが気をつけて帰ってくれ。また会える日を楽しみにしてる」

「はい、殿下も体に気をつけてお過ごしください」

「じゃあなーウィル!」



一人だけフランク過ぎるほどフランクに別れの挨拶をしたが、ウィルもソフィアもジョンのそんなところをとても好ましく思っているため苦笑いで終わった。









結局ウィルとソフィアの久しぶりの再会はジョンの軽い声で幕を閉じた。


そしてこの日から、ソフィアの心にはまだ言葉にできない感情が小さく咲き始めていた。



ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。


これからもしばらくは不定期の更新になりますが最後まで書き上げたいと思っていますのでどうぞよろしくお願いします。

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