33.誕生パーティー
「あ、兄上やっぱり僕には無理です、この格好が誰かにばれたらもう.....」
「大丈夫ですよサミュエル様。どう見ても可愛らしい女の子にしか見えません」
「.....嬉しくないんだけど」
パーティーの会場に入る直前、プリンセスラインのドレスを着て可愛らしい女の子の格好をした第二王子であるサミュエルは会場に入ることをやめようとした。しかしその願いはレオンによってあっさりと遮られ、柔らかく有無を言わせない口調で却下された。
そしてレオンのフォローは失敗に終わり、ウィルのように格好良くなりたいと思っていたサミュエルは「可愛い」と言われたことでひどく落ち込んでしまった。
「サミュエル、嫌ならやめてもいい。元々は俺のわがままだ、無理はしなくて良い」
「い、いいえ!やります!一度決めたことは何が何でもやり遂げます!」
「そうか、ありがとなサミュエル。一度ダンスを踊れば終わりだ、すぐに戻って着替えてくれ」
「はい!頑張ります!」
サミュエルは気遣ったウィルの言葉に再びやる気を取り戻し、意気込んだ。
「では殿下、私たちはこれで失礼致します。後ほど婚約者と共に挨拶に伺います」
「ああ、ジョンは相変わらずこういうときだけ口調が変わるな」
「本当に一種の才能ですね」
ジョンの普段からでは到底考えられない丁寧すぎる言動にサミュエルは口を開いたまま驚き、ウィルとレオンは驚きを通り越して呆れていた。
ジョンに続きレオンも自身の婚約者をエスコートするためウィルに挨拶をしその場を離れ、残されたウィルとサミュエルはゆっくりと貴族たちが集まる会場へと入って行った。
「わあ、これが社交界なんですねウィリアム様」
「ああ、アンジーは初めてだろうから今回はまあ雰囲気に慣れればいい」
「はい!」
サミュエルの女装がばれないよう、サミュエルはウィルのことを「ウィリアム様」と呼び、ウィルはサミュエルのことを「アンジー」と呼ぶことに決めた。
サミュエルは隣国フラーデンス国のカミュエラ公爵家三女のアンジェリク・ド・カミュエラとして女装しており、設定もウィルやジョンたちと四人で考えたものである。
カミュエル公爵家は実在するものの、当主であるカミュエラ公爵は滅多に社交会に顔を出さないことで有名であるため、謎多き人物と言われている。公爵の子どもは実際には娘が二人と息子が二人であるが隣国の公爵であるため、セレスト国でそのことを知る者は少ない。そのことを利用しウィルやジョン、レオンの三人は設定を考えたのである。
国王であるダニエルは皆に向かって挨拶をした後、近くにいたウィルを見て目を見開いた。
「ウィ!ばっ」
「陛下、いかがなさいましたか?」
「い、いや何でもない」
隣に座っていた王妃に声をかけられダニエルはすぐに心を落ち着けようと大きく深呼吸をし、もう一度ウィルがいる方へと目を向ける。
(な、何をやっているんだあいつらは)
ダニエルの目には自分の息子であるサミュエルが女装をし、ウィルの腕に手を絡めながら話をしている絵が映し出されていた。
呆れたダニエルは自らの行いを反省し、二度と無理な催しはしないと心の奥で深く誓った。
ダニエルが深く反省をしているとき、ウィルとサミュエルは丁度婚約者を連れたジョンに挨拶をされ、話をしていた。
「殿下、先ほどぶりにございます」
「ああ、ジョンか、そちらがお前が言っていたリリー嬢か?」
「はい、私の婚約者であるリリー・フォン・ビネガーです。リリー挨拶を」
「はい、お初にお目にかかりますウィリアム王太子殿下。ビネガー侯爵家長女のリリー・フォン・ビネガーと申します」
「ジョンから色々と聞いている、リリー嬢も苦労をしていそうだな」
「いいえ、ジョン様はとても素敵なお方ですので」
ジョンは自分の婚約者をウィルへと紹介したあとリリーの言葉に後ろを向いて肩をふるわせて笑った。
リリーは笑顔のままそっとジョンの足に自らの足を近づけ、次の瞬間、足にきた鋭い痛みにジョンは小さく謝罪をしたが、一部始終を見ていたウィルとサミュエルはそっと視線をそらした。
「殿下、そちらの方をご紹介していただきたいのですが」
「ああ、こちらは隣国フラーデンス国のカミュエラ公爵家の三女でアンジェリク嬢だ」
「アンジェリク・ド・カミュエラです、よろしくお願い致しますリリー様」
「カミュエラ公爵家の三女?...」
「リリー」
事情を知らないリリーは一瞬目が点になったが、聡いリリーはジョンに名前を呼ばれてすぐに状況を察した。
「アンジェリク様はとてもお可愛らしいですね。遠い地からの長旅でお疲れでしょうし今夜は殿下とだけダンスを踊られてはいかがですか?」
「は、はい!そうさせていただきます。ウィリアム様もよろしいですか?」
「ああ、私もアンジーと一緒にダンスを踊ったら下がるとしよう」
リリーの気の利いた一言で、四人の側で聞き耳を立てていた令嬢たちががっくりと肩を落とした。
その後レオンも同じようにウェルポール侯爵家のクロエ・フォン・ウェルポールを婚約者として紹介した。見た目からかなりおっとりとした女性かと思ったウィルだったが、話をしてみると意外と芯の強い女性であることが分かると同時にレオンが選びそうな女性だと思った。
ダンスが始まり周囲から注目されながらも踊ったウィルとサミュエルは曲が終わると声をかけられる前に会場を後にした。さすがに王太子であるウィルはすぐに戻って来たが、サミュエルはしばらく経ってから王子の姿をして会場へと戻ってきた。
多くの女性たちから誘ってくれと言わんばかりの視線をパーティーが終わるまで向けられ続けたウィルだったが、既に一度ダンスをしたウィルが誘うことはなかった。
「サミュエル、そろそろ帰ろう。もう眠いだろう?」
「....はい、そう、させていただきます....」
「もうすぐパーティーも終わる。ジョンやレオンも既に帰ったからな」
そう言ってウィルとサミュエルはダニエルに挨拶をし会場である王宮の広間を出て自室へと戻っていった。
(明日はソフィアに会うことができる.........)
自室の寝室から見える城下の明かりを眺めながら、ウィルは明日のことを考えていた。




