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31.秘策



「こっちはもう終わりました」

「じゃあこのテーブル持っていくの手伝ってちょうだい」

「手配しておいた花は?」

「今日の招待リストもってきて!」




今日は朝から王宮の中でメイドや使用人があたふたと動き回っている。


それもそのはず、今日はセレスト王国第一王子そして王太子でもあるウィリアム・ルーギニア・デ・ライト・セレストの誕生パーティーが行われるのだ。





「おい、ジョン」

「なんだウィル」

「本当にソフィーは今日来ないんだな?」

「........はぁ、お前その質問何回目だよ、招待状届いたの見たんだろ?手紙でも書いたってソフィー言ってたぞ」

「いや、見たがそれが夢じゃないのかと思ってな」

「来ない、来れない、杖なしで歩けるようになれなかったんだから、それこそ踊るのとか夢のまた夢だろ?」





三日前、ソフィアから手紙が届きそれを読んだウィルは、態度にはあまり出なかったものの仕事の進みが遅くなるくらいには落ち込んだ。


予想していたことといえばそれまでだが、期待が大きかっただけに落ち込みも大きくなってしまったのだ。


そしてソフィアが来られない今、ウィルは今日のパーティーで誰と踊るのかを決めていないため誰と踊るかを決めなければならない。





「誰と踊ればいいんだ........」

「いや、まあ、最初に目があった女と踊ればいいんじゃないか?」

「ジョン、それはいけません。殿下がもしかしたら嫌すぎて殴ってしまうか転ばせてしまうかもしれません。殿下と誰かわからないご令嬢のためにもそれだけは避けなくては」





ここでようやく口を挟んできたレオンはジョンの適当さに注意を促した。



セレスト王国ではダンスを踊る時、必ず男性から女性を誘うことや、必ず一回は誰かと踊らなくてはならないと決められている。そして王子とはじめに踊る令嬢は伯爵家以上の家柄のものであるか、王子に認められているもの、気に入られているものなど暗黙のルールが存在している。


逆に言えば王子と踊った女性はが王子に気に入られていると令嬢の中では思われやすく、踊った令嬢は他の令嬢からの嫌がらせの対象となることが多いのだ。



そういったこともあり、ウィルは踊る相手にずっと困っている。




「まぁ、ソフィーにはこの苦痛極まりないパーティーが終われば会えるんだ。早く誰と踊るのか決めよう」

「苦痛って、今日は俺の可愛い婚約者も紹介するんだからちゃんと見ていってくれよ」

「ああ、楽しみにしているさ」

「.........殿下、お客様ですよ」




レオンの声で気持ちを切り替え王太子の顔になったウィルだったが、入ってきたのが第二王子であるサミュエルだったため、すぐに兄の顔になった。





「兄上、父上が部屋へ来いとおっしゃっていました」

「サミュエル、なんでお前は父上のパシリになっているんだ.......」

「い、いえ!僕は兄上に会いたかったのでいいんです」



言っているうちに恥ずかしくなったのか、だんだんと声が小さくなっていくサミュエルをウィルは優しい眼差しで見つめ、頭をわしゃわしゃとかき回すように撫でた。




「あ、兄上!ぐしゃぐしゃになります!」

「はははっ!悪いな、じゃあ行くかサミュエル」

「え?ぼ、僕もですか?」

「行かないのか?ジョンやレオンと話したいならいいが」

「いえ!一緒に行きます!」




ウィルはジョンとレオンを振り向き二人が頷いたのを見てサミュエルと共に部屋を出て行き、国王であるダニエルの元へと向かった。



執務室に残された二人は今日のパーティーについて話し始める。




「しっかしウィルが誰と踊るのかは意外と重要なんだよな」

「ええ、今回はパーティー自体が急ですから、隣国であるフラーデンス国からも人が来ないため隣国の王女と踊るという逃げ技も使えませんからね」

「逃げ技って.......まぁ、俺たちは婚約者もいるからなぁ。今回はウィルに協力してやろうぜ」

「ええ、いつも完璧で冷静な殿下が本気で悩んでいますし、変な令嬢と踊られるくらいなら男と踊った方がマシです」

「お前さっきからすごいこと言うな......ってそうか!」




考えが浮かんだジョンはレオンへ話し、一度頭を思い切り殴られたが、ジョンの案に結局レオンは協力することにした。




_____________________________________________



「父上、兄上をお連れしました」

「おお、ありがとなサミュエル」



国王であるダニエルの執務室へサミュエルとウィルは入り、ダニエルに促されソファへと腰掛けた。



今は部屋の中には三人しかおらず、お茶を運んできたメイドはすぐに部屋を出ていった。



ちなみに先日ダニエルと結託してウィルをはめた宰相でありレオンの父親でもあるバーミラン公爵はパーティー当日で忙しいためこの場にはいない。


そのため、三人は普段よりも堅苦しさをなくして話し始めた。




「さてウィル、サミュエルがいても構わないのか?」

「ええ、問題ありません。サミュエルにはほとんど全て話してありますから」

「そうか、では今日踊る相手は決まっているな?言ってみろ」

「まだ決めていません」

「そうか、やはりローエンのとこ...............んん?今なんと言った?」




すでに決まっていると思っていたダニエルはウィルの言葉に耳を疑いもう一度聞く。




「ですから、決まっていませんと申しました」

「........はぁ、ウィルお前私が前に言ったことを覚えているな?」

「ええ、ですが陛下は婚約者は作らなくていいとおっしゃいました。気になる女性というのはパーティーが始まってからでなければ分かりませんから」

「それはそうだが、私はてっきりローエンのところに養女になった子だと思っていたがな」

「彼女は今は足が悪ため今回は残念ですが来られません」

「..........そうか、私も焦りすぎたな」




ダニエルはウィルの気になっていると思われる少女を把握しきれていなかったことを少し悔やんだ。

今回はその少女を見たいという思いもあったため、ダニエルも肩を落とした。




「そうか、分かった。今日はお前のためのパーティーだ。まああまり考えず楽しみなさい」

「はい、ありがとうございます」

「今日はサミュエルやルークも少しだけ顔を出させる。その時は面倒を見てやってくれ」

「ええ、分かりました」




暗に、それを理由にパーティーを抜けてもいいと言われたような気がしたウィルはすぐに頷き了承した。


話が早く終わったため出て行こうとウィルは腰を持ち上げたがダニエルからの話はまだ終わってはいなかった。




「ウィル、ヴァイオレットのことだが、もう昔のことだ許してやってくれ」

「許す許さないの問題ではないでしょう。私は別に怒っていなければ直接関係もないことですから」

「ではなぜずっとヴァイオレットと顔を合わせない?」

「.............仕事が忙しいので。では私はこれで失礼致します」

「あ、兄上僕も.......」




部屋から出て行くウィルにサミュエルが様子は伺いながらついて行った。




「やれやれ、素直じゃないな」




そう言ったダニエルはテーブルのお茶を一杯飲み一息ついた。




_____________________________________________




(兄上、さっきから顔をしかめている。母上と何があったんだろう)




サミュエルは何も言わずに部屋から出たウィルの後ろをついて歩きながら考えていた。


すると急にウィルが立ち止まりそれに反応できなかったサミュエルはウィルの背中に顔をぶつけた。




「ぶっ!あ、兄上?どうかしましたか?」

「いや、ここは俺の部屋だよな?」

「え?あ、そうです兄上の部屋で、す..........ね」



前をあまり見ていなかったサミュエルはウィルの言葉でもう自分がウィルの執務室まで戻っていたことを知った。


サミュエルは部屋の扉を開けて立ち止まったウィルを不思議に思い、後ろから覗き込むように部屋の中の光景を見て固まった。




「お!ウィル帰ってきたな!」

「あ、殿下.....お戻りになられましたかすみません」




ウィルが帰ってきたのを見たジョンは笑って答え、レオンはすぐに謝る。




「こ、れはなんだ?」

「あ、あの兄上、これは......」

「ウィル!お前のダンスの相手はこれで大丈夫だ」




自信ありげに手を広げるジョンの先には大量のウィッグとドレスが置かれていた。




「........レオン、説明を頼む」

「はい、殿下」




レオンの説明を聞いたウィルはため息をつき、サミュエルは全力で首を振っていた。





「いや、だがそれなら........」

「兄上ダメです!絶対ダメです!無理です!」

「サミュエル、頼む許してくれ」

「う、だ、ダメです」



ウィルははじめはジョンの案に呆れていたが、しばらく考えてからその案になることにした。


サミュエルが真っ青な顔をして否定するのをウィルは力強く頼み込んだがなかなか頷いてもらえない。




「まあまあサミュエル様、一度試してみましょう!これだけ用意しましたし、全て合わなければこの案は却下しますよ」

「......まあ、そういうことだったら、ぜっっっったいに誰にも言わないでくださいよ!!!」

「それは勿論です。ここにいる三人だけの極秘事項です」

「サミュエルすまない.......」





そしてサミュエルは執務室の隣の仮眠室へと入り指示された通りに行動した。




しばらくして仮眠室から出てきたのは金髪の長い髪を軽く巻いてピンクのAラインのドレスを着た翡翠の瞳を持った美少女だった。




「あにうえ〜できましたぁ」

「ああ、サミュ.......に、似合ってるぞ」

「く、くくくっ!さ、サミュエル様、お似合いですよ」




サミュエルの姿を見て固まったウィルは力強く頷き、ジョンは大声で笑うのを耐えながらその容姿を褒めた。



そう、ジョンの案とはサミュエルを女装させてウィルと踊らせることだったのだ。





「ウィル、やっぱり俺の目は間違えじゃなかっただろ」

「ああ、サミュエル悪いが今日はそれで俺と踊ってくれないか?ダンスだけでいい。身分はそうだな、隣国のカミュエラ公爵の三女ということにしよう。彼は滅多に屋敷から出ない方だからバレることもないだろうし」

「................こ、今回だけですよ」

「ああ。...........サミュエル、お前可愛いな」

「嬉しくありません!」





サミュエルはもともとウィルほどではないが黒に近い髪色をしており翡翠の瞳を持つ美少年だ。そのため女装をしても普通の令嬢よりは美しいだろう。


もう一度サミュエルの姿を眺めたウィルはその容姿を褒めたが、格好よくなりたいサミュエルにとっては全く嬉しくなかった。



パーティーを乗りきるための準備が出来たウィルは、夜になるまでいつものように残った仕事を完璧に終わらせジョンとレオンそして女装したサミュエルを連れ、パーティーが行われる王宮の広間にむかって歩いた。








ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。

今までは1日一回投稿してきましたが、これからは2日に一回投稿できたらと思っています。

よろしくお願いします。

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