24.議会
三人で飲んだ次の日、昼から始まる議会の準備をし終えたウィルとレオンは議会が行われる王宮の一階にある部屋へ向かおうと歩いていた。
「レオン準備は良いか」
「はい、問題ありません殿下」
今日の議会では貴族と平民の大きすぎる格差や年をとり働けなくなった民やそれを介護するものたちへの支援をどのようにするかについて話し合われる予定である。
「これはこれは殿下、お久しぶりにございます」
「ああ久しいな、モンズリー伯」
「本日の議会でもまた殿下のいつものような素晴らしいお考えが発揮されることを期待しております」
「ああ、期待に応えられるよう努力しよう」
ウィルに対して不敬ともとれるような態度で皮肉を言い放ち、部屋へと入っていったモンズリー伯爵は大きく揺れるお腹を邪魔そうにしながら席へと座った。
席は基本的に自由であるが、自分が懇意にする貴族であったり、下級の貴族同士であったリが集まって座っている。そのため自然と毎回、貴族派とそうでないものに分かれて席へつくことになる。
皮肉を言われたウィルは、隣で眉を潜めていたレオンを横目で見てから部屋へと入り議会の挨拶をした。
「それではこれから議会を始めていく。本日は国王陛下が出席されないため私が議会を進めていく、いいな?」
「「「「「「「「はい、殿下」」」」」」」」」
ウィルの言葉に貴族全員が賛成の意を示す。
「今日の議題は貴族と平民の大きすぎる格差と民の生活の支援についてだ」
ウィルはセレスト王国の税が重すぎて民への負担となっていること、年老いた者たちへの支援が行き届かずそれを介護する者が苦労している現状などを端的に説明した。
「議論の前に、分かっているとは思うが国民全体のことを考えるのは王国貴族の義務であり、皆の領地の民にも関わることだ。貴族や領民だけを気にかけておけば良いという考えや発言は慎むように」
「しかし殿下、我々貴族は国民のことよりもまず領民のことを考えることが先決だと考えますが」
自分たちのことしか考えない貴族派に先に釘を刺したウィルだったが、その言葉にすぐに反応したバートリアン侯爵が話し始めた。
「バートリアン侯爵のおっしゃるとおりです!私の領地は領民が働かないせいで年々作物が減少しています!まずはこの問題について考えることが先かと」
「それなら私の領地も人手が減ったせいか昨年よりも肉の生産が大幅に減り、隣国フラーデンス国に輸出できる量も減ってきているのです。殿下のお考えは分かります。ですが国全体の問題を見るよりもまず各領地の問題に目を向けられることが先ではないですかな」
モンズリー伯爵やボブリン子爵をはじめとした貴族派の者たちはウィルの牽制に一瞬苦しい顔をしたが、すぐにバートリアン侯爵の言葉に続いてウィルの考えを小馬鹿にして諭し始めた。
「各領地の問題は私も把握している。そしてその問題を根本から解決するためには今回の議題が重要になるんだ」
「その話詳しく伺ってもよろしいですか?」
ここで初めて貴族派には属していない三大公爵家の一つであるウィントン公爵が発言した。
現在、セレスト王国の中でも伯爵以上の上流貴族は、上から公爵家が三つ、侯爵家が五つだけである。その数少ない上流貴族達を王国の貴族の間では三大公爵家、五大侯爵家と呼んでいる。
その高貴とされる家柄の者が発言をすれば、他の貴族は皆黙るか、賛成の意を示し自らの家を認めて擁護してもらおうと考えるかのどちらかである。
それが分かっているため、議会では公爵家や侯爵家の者はよほどのことがない限り積極的に意見を言わないのである。そして他の下級貴族達は発言した機会を逃すまいと目を光らせて議会へ出席しているのだ。
しかし、いつもはほとんど言葉を発しないウィントン公爵が今回は途中で発言をしたため他の者達は驚き、その機会を逃し黙ってしまった。
「ああ、もちろんだ。モンズリー伯爵は領民が働かないせいと言ったが、それは貴公から見た領民であって領民の立場に立った発言ではない。そしてボブリン子爵が言った人手が減っているのも同じことだ」
「しかし我々は貴族ですから平民と同じ目線に立つなど、どだい無理な話ですなぁ」
「くだらないことを申すなモンズリー伯爵」
「なっ!」
ウィルの言葉を鼻で笑い飛ばし嘲りながら揚げ足をとったモンズリー伯爵の言葉は、ローエン侯爵であるシリウスによって一蹴された。
モンズリー伯爵は怒りを露わにした顔でシリウスを睨んでいたが、シリウスは顔すら向けていなかった。
「どこの領地でも人手不足が問題になっているため、全ての領地の民の状況を調査した。その結果、年老いた者が仕事に従事し続けられないことや、その介護のために仕事ができないものが多くいることがわかった。つまりこの問題を解決することが人手不足を解決することに繋がるんだ。理解したか?」
「全ての領地を調査........」
「なるほど、殿下のお考えは分かりました。他の者達もいいな?」
モンズリー伯爵はウィルの考えと行動に呆気にとられ、他の貴族達はウィントン公爵の問いかけに頷き返した。
「では、一時的に領民から税を取るのをやめ、その分を介護費用などに回して貰っては?」
考えを口にしたのは貴族派に属さず、海の近くの領地を経営しているハワード伯爵だった。しかしこの考えは多くの貴族派から反感をかった。
「それではその間我々はどのように生活するのだ!」
「金がないのは民の働きが悪いせいであって、それで我々まで被害が及ぶのは」
「そうだ!元はと言えば計画的に金を使っていない民が悪い。むしろもっと税を徴収すれば働く気になるのではないか!」
国民に責任を押し付けるような文句や意見が貴族派から漏れる中、ウィルは貴族派の鳴り止まない声を片手で制し、冷たく言葉を発した。
「ハワード伯爵の考えは私も一度頭に浮かんだ。しかし問題が解決するのがいつになるかわからなければ、その一時的な期間を問題が起こるたびにもうけては面倒だ」
「....ならばどうすると?」
「その前に、これから対策を考えていく上でまずは知って欲しいことがある。現在、各領地の領民が働いたき稼いだ金銭の三割は領主に、四割は国に納められている。つまり今民は三割の稼ぎで生活をしているということだ。しかし上がってきた報告によれば民の生活が国の定めた最低基準にも満たされていない領地があるとのことだった。食事は三食食べられるはずが一食にも満たない日があったり、馬屋に住んでいるものもいれば外で寝ていたりする者もいたらしい。三割の稼ぎがあればこの国では生活していくことが十分にできるはず、こんな生活にはならないはずだ。これは民の金銭の使い方だけが問題か?」
「そんな領地があったとは」
「信じられませんな」
ウィルがした報告に驚きの声を上げる貴族たちを横目に、ウィルは貴族派の座る席の方を見やる。
視線を向けられたモンズリー伯爵やボブリン子爵は心当たりがあるのかウィルからそっと視線をそらした。
「民の貧困は個人の責任ではなく国の責任だ。そしてその責任は国を支える王族や貴族が自覚していなければならない。民の責任などと口にすることはもってのほかだ、まずはそれを認識してくれ」
「しかし殿下、いくら綺麗事を並べ立てたとしても行動に移さなければ何の意味もありません」
「その通りだウェルポール侯爵。これから私の考えた政策を皆に話そう。まず、民から徴収する税を六割に下げ、うち二割を領主に、四割を国に納める。国に納めた四割の中から民への支援をしていく。税を徴収するのは十五歳から六十歳までの平民、そして六十歳以上の平民は働きたい者は働けば良いし、働きたくない者は働かなくて良いこととする。現在この国の平均寿命は女性が七十歳、男性が七十五歳であるから、仕事を辞めた六十歳以上の平民には一番稼いだときの稼ぎの十二年分を渡しそれで生活して貰う。その給料は先ほど言った納めて貰った四割の分から使うつもりだ。他にも色々と案はあるがひとまずここまでにしよう」
ウィルの考えを聞き終えた貴族たちは言葉をなくし、シリウスを含めた全員が驚きの表情をしていた。そしてようやく理解して口を開き始めれば「それならこういうのはどうだ」「この政策が成功すれば」「嫌でもこれでは」と活発な討論や意見交換がはじまり出した。
本来議会とはこういったものであり、先ほどまでの貴族派の発していた一方的な疑問や文句は議会の意味をなしていないものだった。
そして貴族派もそれに属さない者も関係なく意見が行き交うのを見たウィルは、これは今日では治まらないと考え議会を終了しようとした。
「皆言いたいことや考えたいことが多くあるだろう。しかしこの問題はもっとよく吟味してから話し合うべきであると判断した。よって一ヶ月後に同じ内容で議会を行うこととする。皆そのつもりで政策について考えて来てくれ、今日はこれで終わりとする。いいな?」
「「「「「「「「「はい、殿下」」」」」」」」」」」
そうして三時間におよぶ議会がようやく終了した。
議会が終わり、部屋から出てきたシリウスはレオンの父親でありこの国の宰相でもあるアレクシス・フォン・バーミランから声をかけられた。
「シリウス、お前は今回の殿下の政策についてどう考える?」
「素晴らしい案だとは思ったが、領主に納める税が二割というのがいささか問題になってくるだろうな」
ジョンとレオンと同じように幼なじみである二人は公爵と侯爵の壁を感じないほど親しげに話しはじめた。
「そうだな、私もそこが問題だと思っている。しかしさすがは殿下だな、様々な視点で物事を見ていらっしゃる」
「ああ、私も今回は貴族派の連中に腹が立ってつい口を出してしまったが、殿下はどちらにも偏ることなく冷静にご自分の意見をおっしゃられた。そこは陛下に報告するんだろうアレク?」
アレクと愛称で呼ばれたバーミラン侯爵は「さあ?」と曖昧に返しながらシリウスと共に王宮を歩き始めた。
「そういえばお前養女を迎えたそうじゃないか、今度会わせろ。」
「悪いがソフィアを会わせることは出来ない、人見知りでな」
「そんなでは社交もまともに出来ないぞ大丈夫か?元は平民か?」
「殿下から聞いてないのか?....ああそうか、いや貴族だ」
「どこの家の者だ、詳しく話せ」
「詳しくは話せないがドブリスの娘だ」
「ドブリスだと?!あいつに娘がいたのか?」
「詳しくは話せないと言った、後は自分の息子からでも聞いてくれ。それでは私はもう行く」
騎士団の仕事へと戻っていくシリウスを見送った後、バーミラン侯爵はすぐに息子であるレオンのところへと行き話を聞いた後、急いで国王の執務室へと歩き始めた。
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「失礼します陛下」
「入れ」
バーミラン公爵の慌てた様子に国王であるダニエル・ルーギニア・デ・ライト・セレストは特に驚くこともなく、落ち着いた声で話しかけた。
「アレク、そんなに慌ててどうした?また息子が急に婚約者でも連れてきたか?」
「ち、違いますよ。確かにあのときは驚きましたが、いえそうではなく....陛下、大切なお話がございますので人払いをお願いできますか?」
いつもより深刻そうなバーミラン公爵の様子にダニエルはすぐに分かったと言って部屋にいた執事やメイドを全て下がらせた。
「して、重要な話とは?」
「ウィリアム殿下のことにございます」
「ウィリアムがどうかしたのか?」
「陛下は先日まで王宮の客室にいた少女についてご存じですか?」
「ああ、詳しくは知らないがマイヤー伯に虐げられていた少女だとか」
「ええ、その少女です」
その後バーミラン公爵はダニエルに細かい説明は省き、ソフィアが王宮にいた時ウィルと頻繁に会っていたという話を重点的にした。そしてそのときのウィルの様子を聞いたダニエルは顔をぱっと明るくさせ、弾んだ声でバーミラン公爵と話し始めた
「これで結婚しないと言っていた殿下の気持ちも変わられるのでは?」
「しかしその少女はもう王宮にはいないのだから、どこにいるのか調べなければならないな。もうこの際平民でも貴族でもいいから探せ」
「陛下、その少女は今はローエン侯爵であるシリウスの養女となっています」
「なに?!よくやったぞ、アレク!」
「ええ、陛下!」
バーミラン公爵は特に何もしていないのだが、二人は今にも踊り出しそうなほど手を挙げて喜んでいた。




