22.家庭教師マリア
今日からソフィアは家庭教師に貴族の教養やマナー、そして身につけるべき学問を教わる。
シリウスから家庭教師にはソフィアの過去のは話していないと言われ安心したソフィアは、今日からくる家庭教師に自分を認めてもらえるように頑張ろうと来るのを待っていた。
「ソフィア、そんなに緊張しなくてもいいのよ。大丈夫、家庭教師は女性だし、きっとうまくやっていけるわ」
「はい、ありがとうございますお母様」
女性と言われても慰めにはならないのだが、レイラがそう言って緊張をほぐしてくれたことにソフィアは微笑み感謝した。
しばらくしてやってきた家庭教師は厳しそうな顔をしていて年老いているが、立っている姿勢が綺麗な女性だった。
女性はマリア・ローゼと名乗りマリア先生と呼ぶようソフィアに言った。
マリアとともに二階の自室へ行こうとソフィアが杖をついて歩き始めると、それを見たマリアは少し顔を顰めてソフィアに質問した。
「ソフィア様は足がお悪いのですか?」
「ええ、今は。怪我ではありませんが、病気を患ったせいで筋力が落ちてしまいまして、今は少しずつ歩く訓練をしております」
「........どれくらいで元通り歩けるようになる予定ですか?」
「お医者さまからはあと1週間ほどで歩けるようになるだろうと言われております」
マーガンからあともう少しで歩けるようになると言われていたソフィアは自分が歩けるようになってきているを自覚していたため、詳しい日数は知らないが憶測でマリアからの質問に答える。
言われたマリアは少し考えながら案内されたソフィアの部屋へと入り、今後の授業計画を話した。
「ソフィア様にはこれから言葉遣いやテーブルマナー、社交の際のマナーを毎日学んでいただくと同時に、文字を読めるとは聞いているので書くことを覚えていただきます。歩けるようになった後はダンスレッスン、ドレスの組み合わせ方や紅茶の種類と入れ方なども覚えて実践していただきます。今日の服の組み合わせ方はとても素敵ですね。見立てたのはお母様ですか?」
「いえ、私です」
「そうですか、分かりました。では今後の授業からはドレスの組み合わせは外しましょう。代わりに座学を増やします。座学ではそれぞれの領地や国について学んでいきます。それとこの国の貴族の顔と名前は全て覚えていただきます。よろしいですね?」
「はい、よろしくお願いします」
今後の授業の進め方をてきぱきと話し終えたマリアは早速授業に取り掛かろうとし、お辞儀をしてみてほしいとソフィアに言った。
「ソフィア様はお辞儀が綺麗ですね。しかし、一つ申し上げさせていただくのであれば、もう少し背筋を伸ばして顎を引いて下さい。そしてそんなに深く頭を下げてはいけません」
マリアはソフィアに礼の仕方からどんな人にどのようにするのかまで教えた。
「ソフィア様がご自分から話をかけるのは公爵家や王族の方々、そして隣国から来賓された方々のみです。今は三つの公爵家のどこにも令嬢はいらっしゃいません。ですから侯爵家の中でも筆頭であるローエン侯爵家のソフィア様がご令嬢に礼をする機会は多くありません。しかし殿方には挨拶をする機会がございますからその時は今のような姿勢で挨拶してください」
「はい」
「本番で失敗しないためにはそれが習慣となるようにしなければなりません。今日から毎日礼をする際は常にその姿勢を保って下さい」
「はい」
マリアはハキハキとものを言うが見た目ほど厳しくはなく、ソフィアが出来ることもあり授業をかなり早く進めていく。
その後も言葉遣いとテーブルマナー、そしてローエン侯爵領をはじめとした各貴族の領地の説明を教わり、今日の授業は終わった。
「それでは本日はここまでと致しましょう」
「はい、ご指導ありがとうございました」
「何かご質問はありませんか?」
「あの、文字を書けるようになりたいのですが......」
ソフィアはウィルに手紙を書くことを約束したため、早く書けるようになりたいと思っている。
しかし当然ながらそれを知らないマリアは書く練習はゆっくりと他の学習と並行しながら行おうとしていた。
「分かりました。では明日までにこの表に目を通して、出来ればこの通りに書く練習も行ってください。それができるようになれば文法を教えますので」
「はい。あの、なるべく早く書けるようになりたいのです」
「ソフィア様はとても意欲がおありになります。しかし我が国の言葉をスラスラと読み書きできるようになったとしても、他の国の言語も覚えなければなりません。五カ国は必須です。時間はありますのでゆっくりとしっかり学んでいくことが大切です。分かりましたか?」
「......はい」
授業が終わり、今日習ったばかりの綺麗な礼をして屋敷の入り口まで見送ろうとしたソフィアだったが、足を気遣ったマリアはそれを断った。
そして屋敷の入り口ではマリアとレイラが話している。
「うふふ先生、どうでしたか私の娘は」
「初めはとても綺麗な方で驚きました」
「そうでしょう!ソフィアはとっても素敵な子なんです。授業の方はどうですか、あの子はついていけそうかしら」
「ええ...........私は正直ソフィア様がこれほど優秀な方だとは思っていませんでした。失礼ですが、幼い頃のレイラ様よりも優秀です」
マリアは昔、レイラの家庭教師をしていた。当時レイラはマリアの教え子の中で最も優秀な生徒であり、そしてとても活発な生徒でもあった。
当時のことを思い出しながら話すマリアにレイラは笑いながら答えた。
「昔の私は先生の授業をよく抜け出して遊んでいたわね」
「ええ、口癖は『次の試験で満点とるからいいのよ』でしたね。本当にあの頃は苦労いたしました」
「もう〜やめて!恥ずかしいわ!ふふふ」
「ですがソフィア様は根が大人しく真面目な方です。レイラ様のようなことはないでしょう」
「そうね、私もそう思うわ。先生に優秀と言わせるなんて、ソフィアは凄いわね」
「ソフィア様は本を多く読まれるということもあってか、私も知らなかった専門的な知識もお持ちです。私も勉強になることがあります」
「そう!ソフィアったら本当にすごいのね!私も嬉しいわ」
扉の前でソフィアについて話していた二人の会話は長く続いたが日が暮れる前には終わり、マリアは馬車に乗って帰って行った。
「ソフィア、今日の授業はどうだった?」
「とても勉強になりました」
「そうか、よかったな。リアンもひと月後には国吏試験だ。励みなさい」
「はい、ありがとうございます父上」
シリウスが帰ってきて、ダイニングルームではディナーをしながら今日一日あったことを話している。ジョンは夜の王宮警護のため今日は帰って来なかった。
「そうそうあなた、マリア先生がソフィアのことをとても褒めていらしたのよ」
「ほう、凄いじゃないか。マリア・ローゼ先生は滅多に褒めないことと厳しいことで有名だからな」
「ええ。でもソフィアから学ぶこともあるとおっしゃっていましたわ」
「凄いなソフィア!今日は何を学んだんだ?」
「ありがとうございますリアンお兄様。今日は主に社交の時のマナーや各領地の特色、特産品などを学びました」
ソフィアの勉強した内容の話をリアンは笑顔で頷きながら聞いていて、シリウスとレイラは驚いた表情でこちらを見ていた。
「ソフィア、今日だけでそんなに勉強したのか?貴族の領地全てをたった一日で.....」
「父上、それだけではありません。きっと今日のマナーの内容も全てソフィアの頭の中には入っているでしょう。間違いなくソフィアは天才ですよ!」
ソフィアにとって今回の授業は、もともと地域の特徴などを本で読んでいたため、知っている地域に聞いた貴族の領地や名前を当てはめるだけの作業だったのだ。
そのことを知らないシリウスやリアンはソフィアを天才だと喜んだが、ソフィアはたまたま知っていたことだったと自分のことを評価する気にはなれなかった。
実際、ソフィアは塔に囚われてはいた頃から頭はかなり良く、今まで読んだ本の内容は全て記憶しているため理解も早い。しかしソフィアはそんな自分の凄さに全く気づいていなかった。




