19.家族でのディナー
ここからしばらくソフィアの話が続いていきます。
レイラに着替えをさせられそうになったソフィアはすぐに断った。
しかし、優しい顔と声に似合わず人の話を聞かないか、無理矢理自分の意見を押し通すレイラは「何色が似合うかしらね~」と言ってソフィアを見つめ、改めてソフィアの体を見たレイラはその美しさに少し驚いた。
「ソフィアは肌がとっても白くて綺麗ね!胸もとてもあるし、何を着せてもきっと似合いそうね!楽しみだわ!」
「あ、あの、ですから」
「ソフィアは何色が好みかしら~あ、でも今回は私に選ばせてちょうだい!ずっと楽しみにしていたの、だからドレスもたくさん用意して貰ったし、それとお化粧もしましょうね!きっともっと可愛くなるわ!」
レイラのマシンガントークにソフィアはついて行けず、考えることをやめ、ソフィアの言うとおりにした。そしてその間もレイラは侍女が止めに入るまでずっと話し続けていた。
「奥様、その辺で。早くしなければお夕食の時間に間に合いません」
「あ!そうね、この話はまた今度にしましょ」
「は、はい」
いつの間に入ってきていたのか、メイドの他にレイラの侍女であり護衛でもあるイリアがそこにいた。
背はレイラよりも少し高く、肩にかかるかかからないかの長さの髪を簡単に後ろで縛っている。
「イリア、あなたは何色が似合うと思う?」
「そうですね、瞳や髪の色に合わせた赤や白、淡い色のドレスもお似合いになると思います」
「そうね~...あ!これなんかどうかしら?」
そう言ってレイラが出してきたのは、腰から裾へ向かってスカートが膨らんでいて、スカートの裾には金色の刺繍が上品に飾られてあり、胸元は少し開いているが下品に見えない淡いピンク色をしたドレスであった。
それを見たイリアは頷き、すぐに着替えさせようと座っていたソフィアに手を差しのべた。
「奥様が突然申し訳ありません。立てますか?」
「は、はいありがとうございます。自分で立てますので」
「そうですか」
そばに落ちていた杖を震える手でしっかりと握りしめたソフィアは、イリアの手を借りることなく立ち上がった。
「じゃあ早速取りかかりましょ!」
メイドはソフィアを着替える場所へと案内し着替えさせようとしたが、ソフィアは「自分で出来るので」と言いコルセット締めるのだけメイドに手伝って貰った。
コルセットなどいらないのではと思うほどの細い腰と、その細さに似合わないほどの胸を見たメイドは「ソフィア様は素晴らしい体をお持ちです!」「私もこうなりたい!」と話しながらもてきぱきと仕事をすすめていった。
遠慮なくコルセットを締め上げられたソフィアは、いつもよりとてもキツく、息苦しくなった腰を見て静かに眉を潜めたが、すぐにいつもの表情のない顔へと戻った。
そして化粧を軽めにほどこし髪は編み込みハーフアップにされ、支度の整ったソフィアを見て、メイド二人は頬を赤らめ「美しすぎます...」とぼやき、レイラとイリアは多少驚き目を見開いたあと、満足げに頷いた。
「とーーっても可愛いわ!私の見立ては間違いじゃなかったわねイリア!」
「ええ、とても素敵ですソフィア様」
「あ、ありがとうございます」
慣れない高いヒールの靴でかなり足が痛むソフィアだったが、夕食が終わるまで我慢して耐えることに決めた。
そして、ヒールとお腹の息苦しさのこともあり、杖をつきながら普段よりもさらにゆっくりした速度でジョンとシリウスのいるダイニングルームへと向かっていった。
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「あぁ、ソフィー大丈夫かなー」
「なんだ、レイラがなにかするわけがないだろう、大丈夫だ」
「いや、そうじゃなくて、ソフィーはよく知らないやつに触られたりするのはまだ無理だし、初めて来た場所で緊張もしてる。そもそも親父、まだソフィーの事情母さんに説明してないだろう?」
「...ああ」
ダイニングルームで家族がそろうのを待っていた二人は、ソフィーについて話していた。
的確すぎるジョンの言葉にしばらく黙ったシリウスは、不安に思ったのかジョンにソフィーについて質問しはじめた。
「ジョン、ソフィアはこの家や家の皆を好きになってくれると思うか?」
「...どうだろうな」
「はっきり答えろ。構わん」
「んー、ソフィーはまだ『家族』について知らないし、それはもちろん今までの環境が原因だけど、身内に虐げられ続けてきたのに他人を信じろとか好きになれって言う方が難しいと思う」
「うむ」
「それに」
ジョンが言いかけたところで部屋の扉が開き、ジョンと似たような、それでいてどこか理知的な顔をした男が入ってきた。
「ただいま戻りました、父上、兄上」
「ああ、ご苦労だったな」
「おお!お帰り~リアン、街はどうだった?」
「賑わっていましたよ、物価の変動も特にありませんでした」
「そっか~、皆元気そうだったか?」
「ええ、まあ。ですが薬の流通がたまに滞ることがあると言っていました」
「そうか分かった。お前も着替えてきなさい」
「はい、それでは失礼します」
ジョンの弟でローエン侯爵家次男のリアン・フォン・ローエンはそのままダイニングルームから去って行こうとしたが、それをジョンが呼び止め話しかけた。
「あ、リアン」
「はい、何ですか?」
「今日からソフィア来るからお前のこと食事の時に紹介するな~」
「なっ!そういうことは早く言ってください!すぐに支度して来ます」
ソフィアが来ることをリアンも楽しみにしていたのか、慌ただしく部屋から出て、自室へと走って行った。
「ソフィーが来ることリアンに言ってなかったのか?」
「ああ、忘れていた」
「そうじゃないかと思ったよ」
いつもはきびきびと行動し王宮での仕事の評価も高いシリウスだが、時々抜けているところがあり、それをジョンはいつも補っていた。
「それで、お前が先ほど言おうとしたことはなんだ?」
「ああ、なんだったかな?」
「お前は...」
「まあ細かいことはいいよ、俺や親父はもちろん屋敷の皆がソフィーを好きになってくれれば。それよりも親父は母さんになんて説明するつもりなんだ?」
「いや、特に決めてはいない」
「はあ?そっちの方が問題だろ」
さすがのシリウスもレイラに対し、ソフィアを前妻の子どもだとは伝えにくいのかと思ったジョンだったが、シリウスの答えは別のところにあった。
「ソフィアに話して良いか聞かなければならないと思ってな。今夜聞いてみるつもりだ」
「ああ、それはまあ必要だろうな。ソフィーは過去のこと話さないし、マーガン先生から聞くまで俺も知らなかったことあったしな~」
マーガンから他言無用と言われたことをうっかり話してしまいそうになったジョンは、言い終わってからそのことに気づき「おっと」と言って口を噤んだ。
しかし、その話は初耳だとばかりにシリウスはジャンの言葉にすぐさま反応した。
「マーガンから?なんだそれは、話せ」
「あ、それよりさ、さっきのリアンの様子だとソフィーにいきなり抱きつきかねないぞ。母さんにもちゃんと注意しておいた方がいいだろ?」
それ以上突っ込まれないようにジョンは慌てて話をそらした。
「ああ、そうだな言っておこう」
「母さんは何でも可愛いものにはすぐ抱きつこうとするからなぁ、今ものすごくソフィーが心配だ」
「レイラにはいきなりは抱きつかないよう言ってある」
そこで扉が開き、支度を終えたリアンが入ってきた。
「おお、リアンいいところに来た」
「何を話しておいでだったんです?」
ジョンよりも丁寧な話し方をするリアンは、ジョンの隣の席に座りながらその言葉に首を傾げた。だが、疑問に答えたのはジョンではなくシリウスだった。
「リアン、ソフィアについてだ」
「はい」
「ソフィアは人に触れられることにあまり慣れていない。だから急に抱きついたり、触れたりしないように気をつけなさい。分かったか?」
「はい、分かりました」
そう注意されたリアンは少し残念そうな顔をしたが、すぐにシリウスの言葉に頷き返事をした。
「ソフィーほんとに大丈夫か?俺少し見てこようかな」
そう言ってジョンが席から立ち上がったとき、扉からレイラが顔をだし「お待たせしました~」と言って入ってきた。
そして、後から入ってきたソフィアにその場にいたシリウスとリアン、そしてジョンまでもがその美しさに目を見張った。リアンは口を半開きにしたまま二秒ほど固まっていた。
「どう?とっても可愛いでしょう?」
「ああ、ソフィアとても綺麗だな」
シリウスに言われたソフィアは足が痛いのを我慢し精一杯の礼をした。
「ありがとうございます。素敵な部屋や服も与えていただき感謝しております」
「そんなふうにかしこまらなくていい、楽にしなさい。ソフィアはもう私たちの家族だ」
そう言われたソフィアは戸惑いながら、表情のない人形のように綺麗な顔で「はい」と答え、レイラに案内されるまま席へと着いた。
席は一番奥に当主であるシリウス、そのすぐ左側には長男のジョン次男のリアン、右側には妻であるレイラ、そしてその隣に今日からローエン侯爵家の長女となるソフィアが座っていた。
ジョンは家族全員がそろったところで、ソフィアにリアンを紹介した。
「ソフィー、リアンを紹介するよ。俺の二つ下の弟でソフィーの二つ上の兄になる。」
「初めまして、リアン・フォン・ローエンです。今日からよろしくお願いします。これからはお兄様と呼んでください」
いつかのジョンと同じことを言って挨拶をしたリアンにソフィアも自己紹介をした。
「初めましてソフィアです。これからよろしくお願い致しします」
挨拶をしたソフィアに微笑みかけながら、リアンはシリウスへ話しかけた。
「父上」
「なんだ」
「こんなに可愛い妹が来るならもっと早く教えてください。僕は兄よりも妹が欲しかったんですから」
「お前、俺の目の前でよく言えるな....」
自己紹介も終わり、ジョンとリアンの会話でこれからのディナーの時間が楽しくなるものだと思っていたソフィアだったが、運ばれてきた料理を見て途端に心配になった。
(食べ切れるかしら.......)
ソフィアは杖をついて歩くことはできるようになったものの、食事量は一向に増えず、スープ一杯にちょっとしたサラダを食べるので精一杯だった。
今のソフィアの食事量を知っているのはエミリアとマーガンしかおらず、ジョンやレオン、ウィルでさえも知らないことだった。
今回のディナーも当たり前ではあるが普段のローエン公爵家の食事に合わせてあるため、ソフィアの体にあった食事ではない。
順番に運ばれてくる料理の最初の前菜とスープだけでお腹がいっぱいになったソフィアは、ジョンやシリウス、レオンにレイラ、四人ともが談笑しながら食べているのを見て、楽しい雰囲気を壊してはいけないと考えた。
そして足の痛みとコルセットに締め上げられたお腹の息苦しさを感じないように、味を感じず、ひたすら噛んで飲むことに集中して食べ続けた。
そして、最後のメインであるステーキが出て来た時にはソフィアの体は限界に達していた。
思った以上に長くなってしまいました。これから時間をかけて書いていくつもりです。
ソフィアの心を大切にしていきたいと思っています。




