18.ローエン侯爵家
「ソフィー準備できたか?」
「はい」
部屋へと入ってきたジョンは、本以外ほとんど荷物のないソフィアを見て少し笑い、ソフィアの荷物を持った。
王宮の外に出るのはこれが初めてで、ソフィアは緊張していたが、夜のあまり人がいない時に出て行くので、人目につかなくてちょうどいいと思っていた。
しかし、ウィルとレオンが見送りに来てくれたので結局周りにいた兵士たちの目には止まってしまった。
一応外套を着ていたソフィアだったがフードはかぶっていなかったため、周りから「誰だあの美人」「可愛い〜」「足細いな」などという小さな声が聞こえてきた。
声がソフィアに届くことはなかったが、ジョンにはしっかりと聞こえ、ひと睨みされた兵士は「やば!」っと言い、その場からすぐに去って行った。
「ソフィー元気でな、また会おう」
「はい、殿下もお元気で」
「ソフィア様、ジョンに困ったらいつでも私に連絡してください」
「はい、ありがとうございますレオナルド様」
「レオンうるさいぞー」
挨拶を終えたソフィアはゆっくりと杖をつきながら馬車へと乗った。ジョンもソフィアの向かいの席へと座り、御者に出発するよう指示を出した。
ソフィアは一ヶ月過ごした王宮を離れ、新しい家であるローエン侯爵邸へと向かって行った。
「寂しくなりますね、殿下」
「あぁ、そうだな.....」
「ジョンと同じにだけはならないで下さいね」
「.....仕事はする」
レオンはウィルの間が気になったものの深くは突っ込まず、二人は執務室へと帰って行った。
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「ソフィーもう少しで着くぞ~」
「ん...はい」
馬車に揺られ二時間ほど経ち、ようやくローエン侯爵家が見えてきた。
ソフィアは馬車に乗ってる間疲れて眠くなってしまい、ジョンが「寝ていいぞ」と言う言葉にソフィアは甘えることにし、ジョンが声をかける今までずっと眠っていた。
「ここがローエン侯爵領......」
「そ。これからソフィアが生活していく場所だ」
そこは夜なのであまり見えないが広い草原が広がっており、窓を開ければ心地よい風が吹いていた。
きっと昼間は明るい雰囲気で町は活気づいていそうだとソフィアは考えていた。
馬車が止まり、ソフィアとジョンが降りているところに屋敷の中から出てきたシリウスが近づいてきた。
「ソフィア、よく来たな。道中疲れなかったか?」
「はい、少し眠ってしまいましたが起こしていただきましたので」
「ソフィーの寝顔可愛かったぜ」
シリウスを軽く挑発したジョンだったが、今回のシリウスには効かなかった。
「知っている、前に見たことがある」
「!俺より先に見たのか?!」
「私はソフィアの父親だ、見ているに決まっているだろう」
「関係ねーじゃん!」
自分の寝顔が見られていたことが恥ずかしかったソフィアは表情を変えないまま顔を赤らめた。
三人はソフィアに合わせゆっくりと屋敷のなかへと入って行くと匂ってくる焦げ臭さにソフィアは「何でしょう?」と首を傾げ、ジョンとシリウスは「またか」と言って呆れていた。
ソフィアが考えていると、すぐに厨房から一人の男が出てきた。
その男にシリウスは呆れた声で話しかける。
「旦那様、ソフィア様はいらっしゃいましたか?」
「ああ。ソフィア、紹介しよう。彼はアーサー・クロード、この家のシェフで毎日私たちの食事を作ってくれている者だ」
「よろしくお願いします。アーサー様」
シリウスの後ろから出て挨拶をしてきたソフィアの美しさに目を丸くしたアーサーは、すぐに姿勢を正し挨拶をしたあと、シリウスと話し始めた。
「それで、この匂いは...レイラか?」
「はい、ソフィア様のためにケーキを焼きたいと申しまして」
「やはりな..........」
そのとき
「あなた!ソフィアちゃんが来たのね!」
パタパタと軽い足取りをした女性が厨房のある方から姿を現した。
そしてそれは、ちょうど話にあがっていたシリウスの妻であるレイラ・フォン・ローエンであった。
「レイラ、怪我はないか?」
「ええ、ございませんわ。ふふっ」
「それならいいが....厨房には危ないから立つなと言ったはずなんだがな」
「だって今日は特別ですもの!あ!貴女がソフィアちゃんね!」
ふわふわと背中まである琥珀色の髪を揺らめかせ、レイラは目の前に自分の顔が来るように、高い位置にある顔をソフィアの方へと近づけてきた。
シリウスの後ろでジョンの隣にいたソフィアは急に覗き込まれ、体がビクッとはねてしまった。
「ああ!ごめんなさい、怖がらせるつもりじゃなかったのよ」
「わ、わたしの方こそ申し訳ありません」
「いいのよ〜!ふふふ、とっても可愛いのね〜。私はシリウスの妻でレイラ・フォン・ローエンよ。よろしくねソフィアちゃん」
「よろしくお願いいたします」
そう言って満面の笑みを浮かべてくるレイラを少し怯えながらもしっかりと見つめ、ソフィアは杖をついてしっかりと最大限綺麗な礼をとった。
「ご挨拶に来るのが遅くなり申し訳ありませんでした。名前をいただけたこと、とても嬉しかったです」
ソフィアが名前を貰った礼を言うと、今にも飛びついてくるのではないかと思うほど瞳を輝かせたレイラは、失敗したケーキを放ってソフィアを部屋へ案内した。
「私の子どもですもの、いいのよ。疲れたでしょう?今部屋に案内するわ」
「はい、ありがとうございます」
一応何かあったときのためにジョンはついて行こうとしたが、レイラはそれを断った。
「ソフィアちゃんは私が守るから大丈夫よ!ジョンはあれをなんとかしておいてちょうだいね」
「はー?あれは母さんが失敗したやつだろ?なんで俺が...」
「ジョン?口が悪いわよ?」
先ほどまで笑顔であったレイラは、今も笑顔ではあるが声は少し低く、威厳に満ちた声で侯爵夫人らしく言った。
「......申し訳ありません、母上」
「分かればよろしい!それじゃあよろしくね〜」
ジョンを一発で黙らせたレイラに感心していたソフィアだったが、初めての女性と急に二人きりにされると嫌でも塔にいたときのオリビアとメイドの顔が頭の中に浮かんでしまう。
しかし小さく震えたソフィアに気づかないまま、レイラは着いた部屋の前に立った。
「ここがソフィアちゃんのお部屋よ!開けてみて~」
「はい....」
ソフィアが勧められるまま部屋を開けると、そこには王宮で過ごしていた部屋よりもさらに広い空間が広がっていた。
「ふふっ、どうかしら?気に入ってもらえた?」
中に入ると、部屋はロココ調様式でまとめられていながらもどこか落ち着いていて、応接室にはソファや机があり、つなぎ部屋の扉を開けると寝室や大きなクローゼットなどがあった。
部屋を見たソフィアはその大きさや豪華さに驚いてしまい、先ほどまで考えていたレイラへの恐怖も吹き飛んでしまった。
「あ、あの、こんな豪華な部屋いただけません。私にはもったいないです」
「あら、良いのよ全然?」
「でも」
「ソ・フィ・ア・ちゃん。この部屋はね、私がデザインした部屋なの、気に入らなかったかしら?」
「いえ!素晴らしい部屋で嬉しいです」
「本当?!じゃ、今日からここがソフィアちゃんの部屋ね」
「...はい、ありがとうございます」
レイラのマイペースな勢いにあっさりと押し負けたソフィアは、無理矢理説得させられた結果、自分の部屋を貰った。
「そうそう、ソフィアちゃん」
「はい」
「ソフィアちゃんは私の娘だからこれからは『ソフィア』って呼ぶけど、いいかしら?」
ソフィアはその言葉に頷き、それから寝室の方へ入って行くレイラの後ろをついていった。
しかし、それは間違いだった。
「ソフィア」
「..は...い」
急に変わったレイラの声色にオリビアに虐められた時のことを思い出したソフィアは寒気を感じ、体を硬くして身構えた。
そして次の瞬間、レイラの早業によってソフィアは着ているものを脱がされた。
「あ、あ、あ、のなにを」
「ふふふふふ、ずっとこうしたかったのよ」
白い肌を露わにし、下着だけになったソフィアはその場に座り込んでしまい、怯えた瞳でレイラを見た。
すぐさま指を鳴らし、控えていた二人のメイドを呼んだレイラは座りこんだソフィアを見て言った。
「お着替えしましょ!」




