14.執務室で
ソフィアは開いた扉に少し驚きながら中から出てきた老執事のことを見た。
「あ、も、申し訳ありませんお仕事中に」
「いいえ、どうぞ中へお入りくださいソフィア様」
「あ、ありがとうございます。」
ソフィアとジョンをウィルの執務室の中へと入れたギールは、二人にお茶を用意しようと部屋の奥へと下がっていった。
ソフィアが部屋へと来たことに驚いたウィルとレオンはソフィアの体を心配していた。
「ソフィア、もう出ても大丈夫なのか?」
「はい、マーガン先生から少しなら良いとお許しをいただきました。」
「そうか、それはよかった。ジョン大丈夫だったか?」
「あぁ、特に何も無かったぜー。まぁソフィーの顔を見たやつは今のとこいないからな。」
「...どういうことです?」
ジョンの言葉にレオンが疑問の声をあげる。
「これだよこれ。これをソフィーが深くかぶって隠れていたから誰も気づかなかったのさ。まー、部屋の前にいたメイドとかはさすがに気付いてたけどなー」
「そうなんですか?」
レオンは書類を整理しながらソフィアに聞いた。
「はっ、はい。まだ光を浴びることはできないのでその...それで......」
「あぁ、確か前にマーガンがそんなことを言っていたな。ここに来るまでは大丈夫だったか?」
「あ.......はい、大丈夫でした。」
話しながらも執務室の机で書類を整理し仕事をし続けながら話しをするウィルとレオンを見て、ソフィアはやはり邪魔をしてしまったと思い、部屋を出ようとジョンに声をかけようとし、しばらく考えた後いつもよりさらに小さな声で言葉を発した。
「あ、あの.....お兄様、そろそろ部屋へ戻りませんか、お仕事の邪魔にもなりますし...」
ウィルは忙しそうなので帰ったほうが良いのではないかということを伝えたかったソフィアだったが、それを聞いたジョンは全く違う言葉に反応してしまった。
「!!!! おおおおおおお!!!....いや、まてソフィー!今なんて言った?兄ちゃん聞こえなかったからもう一回言ってくれ!」
ソフィアの言葉に驚いたジョンは嬉しさのあまり一瞬両手で顔を覆ったが、すぐに顔を戻しソフィアの方を見て、もう一度「お兄様」と呼ばせようと明らかにデレデレとした顔で言った。
「え、あ、その、そろそろお邪魔になるので戻りませんかと......」
「そっちじゃなかったー!!!」
ソフィアはジョンの急な様子に驚いていたが、結局その後も「お兄様」と呼ばれることはなく、落ち込んだジョンは見ていたレオンに呆れた目を向けられ鼻で笑われた。
そして、ソフィアの言葉にウィルは動かしていた手を止めてソフィアの方を見た。
「邪魔ではない、ゆっくりしていくといい。ソフィアには話したいこともある。」
「話したいこと、ですか?」
「ああ、出生証ができたそうだ。」
「おお!じゃあこれでほんとに俺の妹だなソフィー!」
「は、はい、ありがとうございます。」
ウィルは先程レオンから聞いた報告をソフィアに伝えた。
それからソフィアの座っている車輪付きの椅子を見ていたレオンは、何か思いついたような顔をして思わぬことを口にした。
「ソフィア様、そのマーガン先生から頂いた椅子はいかがですか?」
「はい、とても乗り心地が良くてありがたいです。」
「そうですか、それは良かった。ではそれを正式に商品として売り出しましょう。名前はそうですね.....『車椅子』なんていかがでしょう。」
「「「!!」」」
その場にいた全員が驚いた顔をしレオンの方を見た。ウィルはすぐに考える顔になり、頷いたジョンとともに賛成の意を示した。
「いえ、でも私のためだけに作っていただくのは恐れ多いです。」
「ソフィア様のためだけではありませんよ。勿論今後さらにソフィア様がそれを使う機会もあるでしょうが、国には身体の不自由な人も多くいますからね。そういった人たちのためにも便利なものを生産していくことは無駄にはなりません。そのほかにも足を怪我してしまい仕事が手につかなくなった人や、筋肉が衰えた高齢の方にも需要があるでしょう。」
レオンの説明にソフィアはそういうことなら、生産したらきっと多くの人の役に立つだろうと考え、納得した。
「ソフィー、出生証が出来たんだ。これからはなんでもできるぞ!まずは俺とソフィーの家へ行こう!」
一通り話が終わったとみたジョンは、ソフィアを自らの家でもあるローエン侯爵家へ連れて行こうと提案した。
「はい、あのローエン侯爵様にお許しいただければ行きたいと考えています、ですが.....」
「そーんな畏まらなくても大丈夫だって!なんなら今すぐ行ったって誰も怒らないし、母さんなんかむしろ大喜びして飛びついて来るぞきっと」
ジョンが誘ってくれることをありがたく思いながらも、ソフィアは建物の外に出ることはまだ怖い。しかしそれを言葉にすることは出来ず、無表情のまま、けれど申し訳なさそうに赤い瞳を閉じジョンに謝罪しようとした。
しかしその言葉が口からこぼれる前に、ウィルが話し始めた。
「ジョン、ソフィアが困っているだろう。妹ができて嬉しいのは分かるがあまり迫るな」
「!!わるいソフィー!ごめんな?」
「い、いえ、私の方こそ誘って頂いたのにいいお返事ができなくて申し訳ありません」
「そんなこと気にすんなよ~!それにソフィーはまだ本調子じゃないしな~」
一人で頷きながらジョンは、表情は変わらないがしょんぼりと下を向き、落ち込んだように見えるソフィアの頭に優しく手を置き「よしよし」と撫でていた。そしてそのときジョンはあることに気づいた。
「ソフィー、お前熱ないか?」
「.....いえ、ありません。」
珍しくはっきりと言葉にしたソフィアをウィルとレオンは少し驚いた様子で見ていた。しかし、ジョンはそんなソフィアの様子からそれが嘘であることをすぐに見抜き、いつもより少し低い声でソフィアに聞いた。
「ここに来るときはなかったよな?いつからだ?」
「.......熱はありません。」
「ソフィー、体調が悪くても誰も怒らないし誰もお前を責めたりしないぞ?ただな、嘘はだめだ。そうやってソフィーに体調が悪いことを隠されると俺やウィルやレオンだって心配で不安になる。分かったか?」
「.....はい、すみません」
「ん、よし。分かればよろしい」
最後は優しい声でソフィアを諭し、もう一度「よしよし」と頭を撫でたジョンはウィルの方を見て「悪い、そういうことだからウィル、今日はこれで帰るけどいいか?」と聞いてきた。
普段全く見えないジョンの「お兄様」な一面を知ったウィルとレオンは、そんなジョンを見てかなり感心していたのだった。
「ああ、構わないが、その様子だと部屋へ戻るのも大変だろう。隣に俺がいつも使う仮眠室があるからそこのベッドに横になると良い。ギール、今すぐマーガンを呼んでくれ」
「かしこまりました」
「.......申し訳ありません、殿下」
今まで我慢していたのか、熱っぽい息を吐いたソフィアはジョンに抱えられ、ギールに案内されるまま仮眠室へと入って行った。
そして部屋へ入っていくソフィアをウィルは心配そうな顔で静かに見つめていた。




