第7話 刃の下の論理 後編+覚悟の代償
刀を捨て、無防備になった俺を見て、高瀬がわずかに驚愕に目を見開く。
その一瞬の隙を、俺は見逃さなかった。
俺は現代の格闘技術――柔術の要領で、彼の突き出した手首を強引に掴み上げ、石畳へ叩きつけた。
刀という『天才剣士』の武器を失った瞬間、俺はただの『現代人』に戻る。
だが、予測不能なこの一手こそが、高瀬の論理を超えた一撃だった。
「がはっ……!」
背中を地面に強打し、高瀬が呻く。
俺は即座に上から馬乗りになり、隠し持っていた短刀を奴の喉元に突きつけた。
「あんたの言う『完成』のために、俺たちが死ななきゃいけない理由なんて、どこにもないんだよ!」
冷徹な言葉を吐き捨てたが、その実、心臓は早鐘を打っていた。
もしここで高瀬を殺せば、俺は明確に『人殺し』になる。だが、生かしておけば俺が殺される。
高瀬は苦悶の表情を浮かべながらも、不敵に笑った。
「……お前も結局、俺と同じだ。未来を欲する『異物』。……もし俺を殺せば、お前はもう『沖田総司』には戻れないぞ?」
その言葉が呪いのように突き刺さる。
近づく隊士たちの松明が、路地の影を長く伸ばす。
俺の喉元まで、肺から血がせり上がってきた。
これを吐き出せば、俺は終わりだ。
「副長!!」
俺は高瀬を抑え込んだまま、叫んだ。
路地の入り口に、土方歳三が飛び込んでくる。
松明の光に照らされた俺の姿を見て、土方は目を見開いた。
「総司! ……何をしている!」
俺の足元には、長州との密書を握りしめたまま気絶しかけている高瀬。
そして、血の味を飲み込みながら震える俺がいる。
「……こいつが、内通者です。池田屋の情報を流していたのは……高瀬です」
告げた途端、体内の緊張が糸のように切れた。
視界が急速に暗転し、俺の意識は深い闇へと沈んでいく。
最後に聞こえたのは、土方さんの焦りきった叫び声と、歴史が俺の思惑とは別の方向へ軋む音だった。
「総司ーーーーーーーー!




