第6話 刃の下の論理 前編
石畳を蹴る俺の足音が、静まり返った京の夜に空しく響く。
前方で逃げる男――高瀬の足取りは、新選組の訓練を受けた者特有の、無駄のない動きだった。
だが、背中から漂う殺気は、これまで俺が接してきた隊士たちのそれとは一線を画している。
追いつきざま、俺は愛刀の柄で奴の肩を打ち据えた。
男は回転しながら受け身を取り、行き止まりの路地でようやく立ち止まる。
振り返ったその顔には、隠す気すらない冷徹な笑みが浮かんでいた。
「……随分と必死だな、沖田総司。いや、この器に居座る『何者か』よ」
心臓が跳ね上がる。まさか、俺が「現代からの転生者」であることを見抜いているのか?
高瀬は懐から短刀を引き抜き、ゆらりと構えた。
彼の剣筋は洗練されている。
新選組の教えに、どこか長州藩の荒々しい我流が混ざったような、実戦特有の鋭さ。
俺が握る刀の重みが、先ほどから酷く頼りなく感じられる。
体力の消耗か、それとも結核という病魔が、この身体の神経を少しずつ蝕み始めているのか。
「お前こそ、なぜそこまで俺に拘る」
俺は荒い呼吸を整えながら、高瀬の懐を探る。
彼が持っているはずの『密書』こそが、池田屋の計画を記した唯一の証拠だ。
「目障りだからさ。……お前が新選組の運命を変えようとする度に、歴史の歪みが聞こえる。俺はそれを正したいだけだ。幕末という時代は、誰かが散ってこそ完成される……そうは思わないか?」
高瀬の言葉は、まるで何かに陶酔しているかのような響きを帯びていた。
不意に、高瀬が空を斬るようなフェイントを入れ、その勢いのまま俺の鳩尾を狙って鋭い蹴りを放ってきた。
俺は刀の腹でそれを受け止めたが、衝撃で肺が悲鳴を上げる。
喉元までせり上がってきた鉄の味。
それを無理やり飲み込み、俺はあえて退かずに踏み込んだ。
「……散るのが完成? ふざけるな」
刀と刀が激しくぶつかり、火花が散る。
だが、力任せの打ち合いでは、今の俺の身体はあまりに分が悪い。
高瀬の刃が、俺の袖を裂き、肌を掠めた。
その瞬間、遠くから松明の光と、足音が近づいてくるのが聞こえた。
土方さんたちだ。
「……ここでおしまいだ、異物」
高瀬が刃を振り上げ、致命の一撃を放とうとしたその時、俺は刀を捨てた




