3話 禁じられた予言と、疑念の眼差し
3話です。
屯所の広間に張り詰めた空気は、まるで冬の夜空のように冷え切っていた。
俺の提案した「池田屋の周辺調査の強化と、突入タイミングの変更」という策は、土方歳三という鋭い剃刀の如き男の逆鱗に触れたらしい。
彼は机を叩くこともなく、ただ静かに、射抜くような眼差しで俺を凝視していた。
「……総司。お前が何を根拠にそのような策を講じるのか、説明してもらえるか?」
土方の声には、副長としての威厳と共に、隠しきれない不信が混ざっていた。
無理もない。
結成以来、近藤さんの夢を信じ、がむしゃらに剣を振るってきた俺が、急に「詳細な場所を特定できる」と言い出し、さらには「戦術を変えるべきだ」と進言したのだ。
まるで未来を見ているかのような口ぶりに、彼が疑念を抱くのは当然の反応だった。
俺は畳に手をつき、額を床に擦り付けんばかりに頭を下げた。
だが、その視線は隠さない。
覚悟を決めた瞳で、真っ直ぐに土方を見返した。
「勘です。……と言えば、土方さんは笑いますか?」
静寂が広間を支配する。
横で近藤が「総司、少し言い過ぎだぞ」と窘めるが、土方はピクリとも動かない。
彼はゆっくりと立ち上がり、俺の目の前まで歩み寄ると、その低い声で囁いた。
「俺は、お前の勘ほど信用できないものはないと思っている。だが、お前が嘘をつく人間ではないことも知っている。……総司、お前、何か隠しているな?」
鋭い。
やはりこの男は、歴史の教科書に書かれた「副長」という枠に収まる器ではなかった。
俺の心臓が早鐘を打つ。
ここで適当な嘘をついて誤魔化すか、それとも――。
「……長州の連中は、近々、京の市街で大きな火災を起こすつもりです。風の噂を繋ぎ合わせれば、やつらがどこに集まっているか、俺の身体が自然と理解しているんです」
それは、半ば真実で、半ば苦し紛れの嘘だった。
池田屋という具体的な地名は出さない。
代わりに、彼らが後に画策する「都の焼き討ち計画」という史実の知識を、今この瞬間に結びつけた。
土方は目を細め、俺の顔を値踏みするように見つめた後、ふっと鼻で笑った。
「都の焼き討ち、か。万が一、それが外れたらどうするつもりだ」
「その時は、俺の首を差し出します。……その代わり、池田屋には俺を必ず同行させてください」
史実では、俺は池田屋の階段を駆け上がる途中で喀血し、戦線離脱する。
今回はそうはさせない。一番隊として現場の最前線に立ち、敵の殲滅指揮を執りながら、自分の体調を完璧にコントロールする。
「……わかった。だが、もしお前が血を吐いて倒れたら、その場でお前を屯所に担ぎ戻す。近藤さんへの手前もあるが、俺はお前の死に顔を見たくないんでな」
土方の言葉には、照れ隠しのような、しかし紛れもない情が込められていた。
俺は小さく息を吐き、張り詰めていた糸を緩める。
歴史改変の第一歩を踏み出した。
これで池田屋の被害は最小限に抑えられ、俺の身体も温存できるはずだ。
だが、俺はまだ気づいていなかった。
歴史という巨大な奔流は、一度歪めば、その先で必ず別の歪みとなって俺たちを飲み込もうとする――という事実に




