第2話 屯所の朝食と、歴史の微調整
屯所の朝は早い。
未明の冷気が肌を刺す中、俺は冷え切った身体を温めるため、独り中庭で素振りをしていた。
剣を振るうたびに、肺の奥で嫌な湿り気を感じる。
現代の知識によれば、この時代の肺結核は「死の病」だが、致命的なまでに進行させない方法はいくらでもある。
まずは栄養状態の改善。
そして何より、過度な疲労を避けること。
俺は素振りを早々に切り上げ、足早に台所へと向かった。
「……沖田? 珍しいな、お前が朝飯の献立に口を出すなんて」
かまどに薪をくべていた隊士が、怪訝そうな顔で俺を見た。
俺は持参したメモ――昨日、必死の思いで書き留めた「健康食リスト」を突きつける。
内容は単純だ。
脂質を抑えたタンパク質の摂取、そして当時としては珍しい野菜や豆類を多用したスープ。
「これからは、この献立で頼む。隊全体の士気向上と、俺の……いや、皆の健康管理のためだ」
「はあ、まあ、総司さんの言うことなら……」
史実の沖田総司は、周囲の期待に応えるために無理をして笑い、最期まで剣を捨てなかった。
だが、俺は違う。
俺が目指すのは「隊の顔」としての沖田総司ではなく、この激動の時代を「生き抜く」沖田総司だ。
台所を出て廊下を歩いていると、角から影が伸びた。
廊下の突き当たり、窓辺で書類に目を通していた男が顔を上げる。近藤勇だ。
「総司。少し顔色が良くなったようだな」
近藤さんの温かい声色に、胸の奥が締め付けられる。
この男の夢を支えながら、どうやって「最悪の未来」を回避するか。
「近藤さん。……少し、お話が。今度の長州の動きについてですが、池田屋の件、少し戦略を見直しませんか?」
俺は、未来の歴史という「禁じ手」を手に、静かに地雷を踏み抜くことにした。
ここから先は、俺の言葉一つで歴史が大きく変わる――そんな緊張感が、心地よい冷や汗となって背中を伝った




