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第21話:覗かれた修羅の貌(かお)

月明かりが、露天風呂の湯面と俺の手に付着した血を冷ややかに照らしていた。


死体の衣服を剥ぎ取り、隠しポケットから作戦図をむしり取る――そのあまりに無慈悲で異様な光景を、俺は見逃していた。


「……あ」


背後で、小さな金属音がした。


主人が、隠した死体を埋めに行ったはずの帰路、忘れ物を取りに戻ったのか。


提灯の明かりが、俺の背中と、俺の足元に転がる無残な死体を真っ直ぐに射抜いていた。


女将が口元を両手で押さえ、悲鳴を殺して後ずさる。主人は腰を抜かし、手にしていたスコップを地面に落とした。


その眼差しは、先ほど小判を受け取った時の安堵ではなく、本能的な恐怖に塗り替えられている。


彼らにとって、俺たちはもはや「厄介な客」ではなく、触れてはならない「化け物」と化したのだ。



「……見たな」


俺の口から、無意識にそんな言葉が漏れた。


龍馬がハッとして振り返る。


彼もまた、事態の深刻さを即座に理解したはずだ。


主人の瞳に宿る恐怖は、明日になれば近隣の村や、場合によっては京の役人の耳へと流れるだろう。


「温泉宿で死体を漁り、冷酷な目で手掛かりを探す侍」。 


そんな噂が立てば、俺の「療養」は即座に終了する。


「ちゃう、ちゃうんです! これは……!」


龍馬が慌てて火消しに回ろうと一歩踏み出す。


だが、主人の恐怖はすでに限界を超えていた。


「化け物……人を殺して、まだ何かを……!」


主人が叫び、踵を返して宿の奥へと走り出す。


このままでは、村の衆を呼び集められ、松本良順が根回しした「療養という名の任務」が瓦解する。



俺は反射的に腰の刀に手をかけた。

殺すか。あるいは、黙らせるか。俺の中の「新選組」としての、あるいは「修羅」としての本能が、主人の背中を切り捨てることを選択しようとする。


「待て、沖田さん!」


龍馬が俺の腕を掴んだ。彼の力は強く、俺の剣を止める。


「今はあかん! ここで追えば、本当にただの辻斬りと変わらんようになる! ……ここはわしに任せろ。あんたは、今の『証拠』を隠せ!」


龍馬の瞳には、俺の殺気すらも制御しようとする強い意志があった。


だが、俺は確信していた。もう、小判や笑顔で誤魔化せるような段階ではないと。


俺たちの前に突きつけられたのは、温泉という閉鎖空間の平和が終わり、追われる逃亡者としての旅路が始まるという宣告だった。




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