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第19話:死者の手向けか、呪いの断片か

旅館の主人と女将が死体を運び去った後、露天風呂には再び重苦しい静寂が戻った。 


だが、俺の心臓は高鳴ったままだ。


俺は、今しがた血だまりの中で冷たくなっていた男の懐に、無遠慮に手を突っ込んでいた。


先ほど手に入れた黒漆の印章だけでは足りない。


奴らが何を隠し、何のために動いていたのか――その答えを、彼らの遺留品から探り出す必要があった。


「……沖田さん、あんた。そんなに無防備に仏はんを漁るもんやないで」





龍馬が少し離れた場所で、呆れたような、しかしどこか見透かしたような眼差しで俺を見ていた。


俺は返事もせず、男の懐から次々と書付を引っ張り出す。


血に染まった紙切れ、毒入りの小瓶、そして、俺がかつて京の町で見かけたことのない形状の、奇妙な鉄片。


「こいつらは長州の人間じゃない。……いや、そもそも、どこの藩の人間でもないかもしれない」


俺は冷たい指先でその鉄片を握りしめた。


見覚えがある。


これは、俺がかつて未来の世界で見た、時計の歯車に近い構造をしている。


だが、この時代の技術でこれを作れるはずがない。


「おい、沖田さん。あんた、一体何を探しとるんや?」



龍馬が数歩近づき、俺の覗き込んでいた手元を怪訝そうに見た。


俺は、これ以上龍馬を巻き込むべきか迷った。


彼に俺が「未来から来た者」であると悟られれば、友好関係など一瞬で崩れ去る可能性がある。


しかし、俺の指は止まらなかった。死者の衣服をめくり、縫い目を切り裂く。それは、かつて新選組として「法度」を重んじていた沖田総司の姿とは、あまりにかけ離れた卑劣な所作だった。


「……探し物は、これだけじゃない」


最後に俺は、死体の首元に隠されていた小さな革袋を引きちぎった。


中に入っていたのは、古びたコインのようなものだったが、そこにはあり得ない数字が刻まれていた。


――『1864.07.08』


俺の心臓が、まるで冷水を浴びせられたかのように跳ね上がる。


それは、歴史上「池田屋事件」が起きた日付だ。


それも、俺が池田屋で吐血する日だった、あの運命の日。


「……なぜ、この男が」


俺の手が震え始める。


これは偶然ではない。


誰かが、特定の時間を狙い撃ちにして、歴史を操作しようとしている。


死体の懐を漁るというこの汚い作業は、俺が自分の運命を書き換えるための、最初の一歩だった。


俺は死体を放置し、立ち上がった。


体力の限界を超えていたはずの身体から、不思議と力が漲ってくる。


龍馬は、何かを悟ったのか、それともただの好奇心か。


その瞳に、静かな炎を宿してこちらを見つめていた。

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