第16話:銃と剣のセッション
蒸気の中で繰り広げられた乱戦は、一瞬の隙を突いた俺の勝利で幕を閉じた。
三人の刺客を無力化し、荒い息をつきながら蒸気が晴れるのを待っていると、脱衣所の入り口に人影が戻ってきた。
「ほう、見事なもんや。蒸気を使って相手の目を潰すとは、おぬし、なかなかやるのう」
そこには、悠然と笑う坂本龍馬の姿があった。
彼は先ほど離れたはずなのに、俺の窮地を察して戻ってきたらしい。
彼の手には、いつの間にか握られた高精度な洋式拳銃スミス&ウェッソンが握られていた。
「龍馬……あんた、戻ってきたのか」
「捨て置けるわけなかろう。あんさん、わしと同じ『時代の異物』かもしれんからな」
龍馬がそう言った直後、路地の奥からさらに数名の増援が姿を現した。
どうやら先ほど倒した連中は、ほんの先遣隊に過ぎなかったらしい。
「沖田さん、あんさんの剣技、ちと拝見させてもらうで。わしはこの『飛び道具』で、相手の足止めをさせてもらうき!」
龍馬は迷いなく銃の撃鉄ハンマーを起こした。
二人の共闘。
新選組の天才剣士と、土佐の脱藩浪士。
本来なら相容れるはずのない二人が、今は共通の敵を前に背中合わせで立っている。
「……死ぬなよ、坂本龍馬。あんたをここで死なせるわけにはいかないんでね」
「それはこっちの台詞ぜよ!、沖田総司!」
龍馬の放つ銃声が、山間に鋭く響く。
敵が怯んだ隙を突き、俺は地を蹴った。
肺の痛みなど、今はどうでもいい。
龍馬の銃撃が敵の陣形を崩し、俺の刀がその綻びを正確に切り裂いていく。
二人の連係は、まるで数年来の戦友かのような錯覚を覚えるほどに滑らかだった。
俺の剣技が、龍馬の放つ弾丸と調和する。
銃弾が敵の盾を弾き、俺の切先がその隙間に吸い込まれる。
これこそが、歴史改変の先にある新しい時代の手触りかもしれない。
敵の頭数を一つずつ減らすたび、俺の中で「沖田総司」としての殻が少しずつ剥がれ落ちていく感覚があった。
組織の命令に従うだけの剣士じゃない。
俺は俺の意志で、この男と共闘し、この山間の地で運命を切り拓いている。
「……ふう、これで最後か」
最後の刺客が地に伏すと、龍馬は拳銃を懐にしまい、満足げに俺の肩を叩いた。
その手は力強く、温かかった。
「いやあ、面白かった! 沖田さん、あんさんと組むと、なんだかこの国がひっくり返りそうな気がしてくるのう」
湯煙と血の匂いが混ざり合う中で、龍馬は悪戯っぽく笑う。
この共闘は、幕府にとっても、長州にとっても、そして俺の生存戦略にとっても、計り知れない火種となるだろう。
だが、今はそれすらも心地よかった。
「坂本さん。あんた、面白い男だ」
「それはお互い様や」
月明かりの下、二人は露天風呂の石段に腰を下ろした。
敵の死体から立ち昇る熱気と、遠くで鳴く虫の声。
俺たちは、歴史の境界線上で、しばし休息の時を分かち合った。




