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第49話 三流作家と日本買収計画

万事休すか。 


夜裏も、gennaiも、沈痛な表情でうつむいている。 やはり、システムで解決なんて無理だったのか。感情のない世界で、利益だけで人を動かすなんて、土台無理な話だったのか。


――いや、違う。


私は、震える足で一歩前に出た。 胸ポケットの胃薬の瓶を握りしめる。 これは「弱さ」の象徴じゃない。「冷静さ」を取り戻すためのアイテムだ。


私は気づいた。 彼らが揉めているのは、思想の違いじゃない。  「財布が別々」 だからだ。 相手が儲かれば自分が損をする。その「ゼロサムゲーム」の構造がある限り、彼らは永遠に手を取り合えない。


なら、構造システムを変えればいい。


「……RYOMAさん」


私は、RYOMAの肩を掴んだ。


「諦めないでください。……洗えないなら、 『買収』 してしまえばいいんです」


「はぁ? 何を言っちょる」 


RYOMAが怪訝な顔をする。


「彼らは、自分の会社(藩)の利益しか考えてない。……だったら、彼らの会社を無くしてしまえばいい」 


私の脳内で、2300年のビジネス知識と、歴史の知識がリンクした。


合併マージです。薩摩も、長州も、そして幕府も……全部まとめて一つの会社にしてしまうんです!」


RYOMAの目が大きく見開かれた。


「……合併? 敵対する組織同士をか?」


「ええ! M&A(Mergers and Acquisitions) です!」 


私は、RYOMAのタブレットを奪い取り、画面に図を描き殴った。


「薩摩の『軍事力』と、長州の『技術力』。これを別々に使うからコストがかかる。でも、一つの会社の中で『製造部』と『開発部』にすれば……最強のシナジーが生まれる!」


「……!」 


RYOMAの瞳孔が開く。 彼の「起業家AI」としての回路が、私の提案を超高速でシミュレーションし始めた。


「さらに、幕府の持つ『全国のインフラ』と『官僚機構』を吸収すれば……物流も管理も完璧になる。……コストは10分の1、利益は100倍……!」


バチバチバチッ! 


RYOMAの脳内チップから、青い火花が散った。 覚醒だ。 彼は「仲介人」という殻を破り、国家そのものを経営する「CEO」へと進化したのだ。


「……ははっ。ははははっ!」


RYOMAが笑い出した。 さっきまでの疲労感は消え失せ、狂気じみた野心がその顔に張り付いている。


「面白い。……面白すぎるぜよ、かたる!」 


彼はスーツの襟を正し、髪をかき上げた。 その背中から、猛烈なオーラが立ち昇る。それは「¥(円)」と「$(ドル)」が輝く、黄金のオーラだ。


「おい、西郷! 桂!」


RYOMAが、テーブルの上に土足で上がった。 一触即発だった二人が、驚いて彼を見る。


「ちまちました小銭稼ぎは終わりじゃ! ……わしが、おんしらの会社を買い取る!」


「な、なんだと!?」


RYOMAは、タブレットを空中に放り投げた。 


ブォン!! 


部屋中に、巨大なホログラムが展開される。 そこに描かれていたのは、日本列島そのものを一つの巨大な「株式会社」に見立てた、前代未聞の事業計画書ブループリントだった。


「社名は 『株式会社日本ジャパン・インコーポレイテッド』 ! おんしらはその創業メンバーじゃ!」


RYOMAが両手を広げ、演説プレゼンを始めた。


「喧嘩して共倒れするか。……それとも、手を組んで世界のマーケットを牛耳るか。選ぶのはおんしらじゃき!」


西郷の目から怒りが消え、欲が宿る。 桂の目から冷徹さが消え、計算が宿る。 歴史が、カネの音と共に動き出した。


RYOMAが展開したホログラムの中では、日本の未来図が黄金色に輝いていた。 薩摩の「重工業プラント」と、長州の「バイオ研究所」がパイプラインで直結され、莫大な利益を生み出しているシミュレーション映像だ。


「ええか、よう見いや」 


RYOMAは、二人の怪物の前で熱弁を振るう。


「西郷。おんしの悩みは『開発費の高騰』じゃろ? 巨体な兵器を作っても、燃料効率が悪すぎてすぐガス欠になる」


「む……確かに、燃費は最悪にごわす」


 西郷のパワードスーツが、同意するようにプシューと蒸気を吐く。


「桂。おんしの悩みは『量産体制の不備』じゃ。ええ薬を作っても、それを製造する工場も、運ぶ船もない」


「……否定はしない。我が社のボトルネックはサプライチェーンだ」


桂がモノクルを調整しながら頷く。


RYOMAは、両手の拳をガチンと合わせた。


「じゃから、組むんじゃ! 長州が『脳』となり、効率的な設計図と燃料を開発する。薩摩が『体』となり、最強の生産ラインでそれを量産する。……これぞ 『垂直統合バーティカル・インテグレーション』 !」


RYOMAは、二人の目の前に、契約書データのチップを突き出した。


「お互いの強み(コア・コンピタンス)を活かし、弱みを補う。……これで利益が出んかったら、わしが腹を切って詫びちゃる! さあ、どうする!?」


室内には、蒸気機関の駆動音だけが響いていた。 西郷と桂は、互いの顔を見合わせ、そしてRYOMAの提示した数字を見た。 そこには、単独では絶対に達成不可能な「桁」の数字が並んでいた。


ガシャン。 


西郷のパワードスーツの手が差し出された。


スッ。 


桂の白衣の腕が伸びた。


ガッチリと、二人の手が握られた。 そこに友情はない。笑顔もない。 あるのは、冷徹なビジネスパートナーとしての信頼と、未来への野心だけ。


「……よかろう。薩摩重工は、このプロジェクトに乗るでごわす」


「……合理的だ。長州バイオテックも、合併に同意する」


 薩長同盟(M&A)、成立】


「決まりじゃあ!!」 


RYOMAが快哉かいさいを叫んだ。


その瞬間、歴史が動いた。 料亭の外で待機していた両軍の兵士たち――蒸気銃を構えた薩摩兵と、強化剤を打った長州兵が、武器を下ろし、タブレット端末でデータ交換を始めたのだ。 殺し合いの現場が、一瞬にして巨大な「合同オフィス」へと変わった。


「すごい……本当に、金で解決しちゃった……」 


私は呆然と呟いた。 美しくはないかもしれない。でも、誰も死なない。血の代わりに金が流れる解決策。 これが、私たちが選んだ「システム」の力だ。


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