第48話 重工とバイオの怪物たち
私たちは、RYOMAに連れられて会談場所へ向かった。
料亭「小松屋」。
しかし、そこは風流な料亭ではなかった。 外壁は鉄板で補強され、屋根には監視カメラ(ギヤマン製のレンズ)が光り、完全武装した私兵たちが警備する「要塞」だった。
通された大広間の空気は、凍りついていた。 テーブルを挟んで、二人の怪物が対峙していた。
「おいごわす! ……話が違うじゃなかか!」
ドォン!!
テーブルを叩き割ったのは、真鍮製の巨大な腕だった。
西郷隆盛。
彼は、身の丈二メートルを超える巨体に、蒸気機関で動く 【強化外骨格・サツマ型】を装着していた。 背中のボイラーからシューシューと蒸気を噴き出し、その顔は怒りで赤く染まっている。 薩摩藩改め、軍産複合体「薩摩重工」 の代表取締役だ。
「……野蛮だな。器物破損で請求書を送るぞ」
対する男は、冷静そのものだった。 白衣のような洋装に身を包み、片目にはモノクル型の分析デバイスを装着している。その肌は陶器のように白く、血管には怪しげな緑色の液体が流れているように見えた。
桂小五郎。
彼は、自らの肉体を化学的に改造し、感情を薬物で制御する冷徹な科学者兼CEO。 長州藩改め、先端技術企業 「長州バイオテック」 の社長だ。
「我が社の新薬『維新』を買えと言っている。これを兵士に投与すれば、恐怖を感じず24時間戦い続ける最強の軍隊ができる」
桂が、試験管を弄びながら言う。
「軟弱な薬などいらん! 男なら鉄と火薬じゃ! 我が社の『アームストロング・ガトリング砲』を一〇〇門買え!」
西郷が吼える。
会話が噛み合っていない。
彼らは「同盟」を結ぼうとしているのではない。互いに自社製品を売りつけ、相手の資金を搾取しようとしているだけだ。 完全なる 「利益相反」 。
「両社とも、落ち着いてくれんか」
RYOMAが割って入ろうとするが、二人は一瞥もしない。
「坂本、お前のような仲介屋に用はない。……西郷、交渉決裂だ。長州は単独で幕府と戦う」
「上等にごわす! 薩摩の火力で、長州ごと幕府を吹き飛ばしてやる!」
ガチャリ。 西郷のパワードスーツから砲身が伸びる。 桂が懐から劇薬のカプセルを取り出す。 一触即発。ここで戦闘が始まれば、日本の株価は大暴落し、ハゲタカファンドの餌食になるのは確定だ。
「くそっ……! 待てや! おんしら、国を滅ぼす気か!」
RYOMAが叫ぶ。 だが、彼の言葉は届かない。 「洗濯」しようにも、彼らの欲望は油汚れのようにこびりつき、洗うことなど不可能なのだ。
RYOMAが、膝をついた。
「……駄目じゃ。わしの手には負えん。……商談、不成立ぜよ」




