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第47話 赤字国家のCEO

男は、イタリア製の高級スーツをラフに着崩し、その上からボロボロの羽織を引っ掛けていた。 


足元は草鞋わらじではなく、磨き上げられた革靴。 懐にはピストルではなく、最新鋭のタブレット端末。 そして口には、煙管キセルの形をした電子タバコを咥えている。


歴史修正用アンドロイド、コードネーム 『RYOMA』。 ただし、今の彼は「維新の志士」ではない。「起業家アントレプレナー」 モードだ。


「よう来たのう、未来の出資者たち」


RYOMAは電子タバコの紫煙を吐き出し、ニヤリと笑った。 その笑顔は豪快だったが、目の下には濃いくまがあり、疲労の色が濃い。


「RYOMAさん! 日本を……助けてください!」


私が駆け寄ると、彼は肩をすくめた。


「助ける? ……慈善事業ならお断りじゃき。わしは商売人ぜよ」


彼はタブレットを操作し、空中にホログラムのグラフを表示させた。

真っ赤だった。 日本の国家予算、貿易収支、資源残量……すべてのグラフが右肩下がりで底を割っている。


「見てみい。この国は今、創業以来最大の経営危機クライシスじゃ。幕府は債務超過で破綻寸前。薩摩と長州は軍事費の使いすぎでキャッシュフローがショートしちょる。……いわゆる『倒産確実』ってやつじゃな」


RYOMAは、遠くに見える巨大な黒船――欧米列強の艦隊を指差した。


「そんで、あのハゲタカファンドどもが、日本が値を下げるのを舌なめずりして待っちょる。……二束三文でこの国を買い叩き、植民地(子会社)にするためにな」


「そんな……」


「わしはずっと、薩長や幕府に『無駄な争いはやめて、経済を回せ』と説いて回った。……じゃが、誰も聞く耳を持たん」 


RYOMAが、悔しそうに拳を握りしめた。


「どいつもこいつも、目の前の小銭とメンツに必死で、B/S(貸借対照表)が読めん馬鹿ばっかりじゃ!」


天才・坂本龍馬をもってしても、この歪んだ世界は救えないのか。 彼一人では、巨大すぎる時代の奔流トレンドを変えられないのか。


「……まだ、チャンスはありますか?」


夜裏が尋ねた。


「一つだけな」


RYOMAは、ギラリと目を光らせた。


「今日、この伏見の料亭で、薩摩と長州のトップ会談がある。……わしがセッティングした、最後の和解交渉ラスト・ディールじゃ。これが決裂したら、日本は終わりぜよ」


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