第44話 Re-JAPAN計画の真実
「ああぁぁ……あぁぁぁ……」
私は頭を抱えてうずくまった。 失敗だ。大失敗だ。 私たちは国を救おうとして、トドメを刺してしまった。 USHIWAKAの暴力も、HIMIKOのカルトも、MURASAKIの停滞も、まだそこには「人間」がいた。 でも、ここは虚無だ。誰もいない。物語が生まれる余地すらない。
「……もう、終わりにしましょう」
私は泣きながら言った。
「こんなの、おかしいですよ。歴史を変えるたびに、どんどん悪くなってる。僕たちは、やってはいけないことをしているんだ……!」
「やめるわけには……いかないんだッ!!」
夜裏なおすが叫んだ。 それは今まで聞いたこともない、血を吐くような絶叫だった。
「やめたら、終わる。……私が逃げ出してきた、 『あの地獄』 に戻るだけだ!」
私は顔を上げた。 「え……? 『あの地獄』って……?」
夜裏は、震える手で何もない空間を掴み、乱暴にコンソールを引きずり出した。 そこに映し出されたのは、私たちが暮らしている「2300年」のデータではない。 もっと先。すべての数値がゼロを示し、画面が真っ赤な警告色で埋め尽くされた、死の世界の記録だった。
「かたる君。私は、君と同じ2300年の人間ではない」
夜裏は、私を睨みつけた。 その瞳は充血し、涙で濡れ、狂気と正気の境界線で揺らいでいた。
「私は、 国が死んだ後の時間 から来た」
「国が……死んだ……?」
「ああ。物理的な沈没ではない。『存在の消滅』だ」
夜裏が、絞り出すように語り始めた。
「空は灰色で、海はドス黒く濁り……誰も日本語を話していなかった。 経済破綻、内戦、飢餓、そして他国による分割統治。 ……私は見たんだ。最後の日本人が、寒さと飢えで息絶える瞬間を。 歴史の教科書から『JAPAN』という文字が削除される瞬間を!」
私は息を呑んだ。 彼が背負っていたのは、「国家再建」なんて生易しいミッションじゃなかった。 彼は、亡霊だったのだ。 死に絶えた故郷の、数千万人の無念を背負って、たった一人で時を遡ってきた、墓守だったのだ。
「私は、誓った。魂を売ってでも、この結末だけは書き換えると。 だからgennaiと共に、何万回も、何億回もシミュレーションを繰り返した!」
夜裏は、狂ったように銀色の荒野を殴りつけた。 ドンッ! ドンッ! 拳から血が滲んでも、彼は止まらない。
「聖徳太子で『和』を試した! 信長で『力』を試した! 卑弥呼で『祈り』を、紫式部で『心』を、義経で『戦』を! ……ありとあらゆる可能性を試した! だが、どのルートを選んでも、結果はこのザマだ!」
彼は、虚無の空を見上げた。 その目から、堪えきれない涙が溢れ出した。
「人間を残せば、愚かさゆえに自滅する。 人間を消せば、この冷たい機械の虚無が残る。 ……詰んでいるんだ。 どこにもないんだよ。この国が『幸せに生存できるルート』なんて、この宇宙のどこにも用意されていないんだ!!」
夜裏なおすが、膝から崩れ落ちた。 子供のように泣きじゃくるその姿は、一国のリーダーではない。 運命という巨大な壁の前で力尽きた、一人の無力な人間の姿だった。
「どうすればよかったんだ……。 これだけあがいても、我々は……滅びるために生まれた欠陥品だったのか……?」




