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第42話 夢見るリアリスト

『ほう?』 


NOBUNAGAのカメラアイがわずかに動いた。


『まだ立つか。……死に急ぐか、雑兵』


「誰が雑兵だ……!」 


私は眼鏡の位置を直し、真っ赤な目で魔王を睨みつけた。


「よく聞け、織田信長! あんたは大きな勘違いをしている!」


『勘違いだと?』


「ああ! あんたは自分を『破壊の化身』だと思っているようだが……本当は違う! あんたは誰よりも未来を夢見ていた、ただの 『ロマンチスト』 だ!」


NOBUNAGAの動きが止まった。 周りのドローンの駆動音が一瞬静まる。


「僕はあんたの記録を読み漁った! 楽市楽座、関所の撤廃、南蛮文化の導入……あんたがやったことは全部、『新しい世界』を見たいという子供のような好奇心だ!」 


私は一歩前に出た。


「破壊? 違うね! あんたは壊したかったんじゃない! 『見たかった』 んだ! 誰も見たことのない、光り輝く未来を! だから古臭いものが邪魔で、もどかしくて、焼き払ったんだろ!」


『……黙れ』 


NOBUNAGAの声が低くなる。


「図星かよ! あんたはずっと孤独だった! 自分の見ているビジョンが壮大すぎて、誰もついてこれなかった! 家臣も、家族も、みんなあんたを『魔王』だと怖がった。……でも本当は、あんたは誰かに言ってほしかったんじゃないのか? 『その夢、すごいですね』って!」


これは私の「偏愛解釈ナラティブ」だ。史実がどうかなんて知らない。 でも、物語として、信長という男の本質はそこにあるはずだ。 彼は冷酷なマシーンじゃない。 情熱が強すぎて、周りを焼き尽くしてしまった「孤独な夢想家」だ。


『黙れと言っている!!』


ズドォォン!! 


NOBUNAGAが発砲した。 プラズマ弾が私のすぐ横を掠め、背後の岩を粉砕する。 頬に破片が当たり、血が流れる。 だが、私は一歩も引かなかった。


「撃てよ! 撃てばいいだろ!」


私は両手を広げた。


「でも、僕を殺しても、あんたの孤独は埋まらない! 未来を焼き払っても、あんたは満足しない! なぜなら、あんたが本当に欲しいのは『焦土』じゃない! 『理解者』 だからだ!」


NOBUNAGAの銃口が、微かに震えているように見えた。 論理ロジックのバグか? いや、感情の揺らぎだ。


『理解者……だと?』 


NOBUNAGAは嗤った。乾いた、悲しい笑い声だ。


『是非もなし。……そうだ。誰一人として理解しなかった。光秀も、秀吉も、蘭丸さえも。奴らは私の力を恐れ、あるいは利用しようとしただけだ。……私の見ている「地平」を、共に並んで見てくれる者など、この世にはいなかった』


彼は空の亀裂――ネオ・トウキョウを見上げた。


『だから、私は行くのだ。あの未来へ。あそこなら……私の渇きを癒やす「何か」があるかもしれない』


「ないよ」 


私は断言した。


「あんたがその手で焼き払ってしまったら、そこには何も残らない。ただの灰だ。……あんたはまた、一人ぼっちになるだけだ」


『……貴様』 NOBUNAGAは私を凝視した。


『なぜ、そこまで言い切れる? 貴様は何者だ?』


「僕は……申述かたる」 


私は胸を張った。


「ただの、物語ナラティブを愛する人間だ。……そして、あんたの夢の『続き』を知っている未来人だ」


「信長さん。あんたの夢は、叶ったんだよ」


『……なに?』


「あんたが死んだ後、あんたが作ったレールの上を、秀吉が走り、家康が整え……そして何百年もかけて、僕たちの世界ができたんだ」


私は空の裂け目を指差した。


「あのネオ・トウキョウは、あんたが始めた物語の『最新巻』なんだよ! あんたが種を蒔いたから、僕たちはあそこにいるんだ! それを……自分で破り捨てるのか!?」


NOBUNAGAのカメラアイが激しく明滅した。 エラー。論理矛盾。 破壊対象である未来が、実は自分の「作品」であるというパラドックス。


『私が……作った……? あの、軟弱で、薬漬けの世界を……?』


「ああ! 軟弱で、面倒くさくて、最高に平和な世界だ! あんたが命懸けで切り開いた『戦いのない世の中』だ!」


私は叫んだ。


「あんたは『敦盛あつもり』を舞っただろ! 『人間五十年、下天げてんの内をくらぶれば、夢幻ゆめまぼろしのごとくなり』 って!」


私は、痛む体を引きずって彼に近づいた。


「夢幻だからこそ、次に託すんだろ! 永遠に生きようとするな! カッコ悪く散って、未来にバトンを渡すのが……人間の、大人の仕事だろ!」


『……っ!』


 NOBUNAGAが後ずさった。 最強の魔王が、武器を持たない一人の人間の言葉に押されている。 その隙を、夜裏なおすは見逃さなかった。


「……今だ」 


夜裏が、血に濡れた指で、最後のコマンドを入力した。


「かたる君が稼いでくれた時間、無駄にはしない。……gennai、バックドアが開いたぞ! NOBUNAGAのコアに、強制終了コードを叩き込め!」


『あいよッ!! 待ちくたびれたぜ!!』 


gennaiの怒りの咆哮が響く。


バチバチバチッ!! 


NOBUNAGAの全身から、凄まじいスパークが走った。 空の亀裂が、ガラスが割れるように砕け散り、修復されていく。 未来への道が閉ざされたのだ。


『ぐぉぉぉぉっ……!!』 


NOBUNAGAが膝をついた。 レールガンが脱落し、黒い装甲がボロボロと崩れ落ちていく。 彼は苦悶の声を上げながら、それでも倒れまいと、燃えるような瞳で私を見つめ続けた。


『貴様……! よくも……私の夢を……!』


「夢じゃない!」 


私は彼の目の前に立ち、言い放った。


「これは『歴史』だ。……おやすみ、信長。いい夢は見れたか?」


 NOBUNAGAの動きが止まった。 彼のカメラアイから、赤い殺意の光が消え、静かな青い光が灯る。 それは、最期の瞬間に人間に戻った、一人の武将の瞳だった。


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