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第4話 禁忌のプロジェクト『Re-JAPAN』

『こいつさ。へい、お披露目だい!』


gennaiが煙管を一振りすると、執務室の床が割れ、地下から六つのカプセルがせり上がってきた。 プシュウゥゥゥ……という排気音と共に、ガラスのシリンダーが開く。


中に入っていたのは、人間ではない。 シリコンスキンと人工筋肉で構成された、精巧な人型素体アンドロイドたちだった。


「これは……」 


私はその一体一体を見て、息を呑んだ。 しゃくを持ち、やんごとなきオーラを放つ貴族風の男性。 


大鎧を身にまとい、殺気を漂わせる若武者。 


十二単ひとえを纏い、憂いを帯びた瞳の女性。 


どれもが、教科書で見たことのある「あの偉人たち」の特徴を極端にデフォルメし、最新のサイバーパンク的な意匠を加えたデザインになっている。


「コードネーム『Re-Legendsリ・レジェンズ』」 


夜裏が説明する。


「gennaiの技術により、歴史上の偉人の人格データと身体能力を再現、さらに未来のテクノロジー(オーパーツ)を搭載して強化した、歴史修正用アンドロイドだ」


「強化した……?」


『おうよ! ただのコピーじゃねえ。例えばそこの牛若丸には『重力制御ユニット』を積んで八艘飛びを物理法則無視で可能にしてあるし、あっちの卑弥呼には『気象コントロールシステム』を積んで、自在に雨を降らせるようにしてある』


「なんですかそれ! ただのチートじゃないですか!」


『チート上等! 相手は頑固な過去の人間どもだ。圧倒的な「奇跡」を見せつけなきゃ、歴史なんて動きゃしねえよ』


私は目眩がした。 重力制御の牛若丸。気象操作の卑弥呼。 これは歴史修正ではない。歴史の破壊だ。レイプだ。こんな出鱈目な存在を過去に放り込めば、教科書どころか、物理法則まで書き換わってしまう。


「承認できない……。こんなの、狂ってる」


 私は絞り出すように言った。


「総理、あなたは日本を救うと言いながら、日本をめちゃくちゃにする気ですか?」


夜裏は、私の問いに対し、数秒の沈黙を置いた。 そして、ゆっくりと私に歩み寄り、至近距離で私の瞳を覗き込んだ。 その瞳の奥にある青白い光が、今ははっきりと、激しく点滅している。


「かたる君。今の日本を見て、君は『美しい』と思えるか?」


「……え?」


「この、死んだように生きている国民。他国の顔色を伺い、誇りを失い、ただ消費するだけのこの国を。君は心の底から愛していると言えるか?」


私は答えられなかった。 愛したい。けれど、愛せない。そのジレンマこそが、私の胃痛の原因であり、書けなくなった小説の理由だったからだ。


「私は愛していない」 


夜裏は断言した。


「だが、機能停止なせるわけにはいかない。私は……この国を管理するために存在するのだから」


「……総理?」


「だから、やるのだ。美しくないなら、美しくなるまで何度でも書き直す。それが、責任者の義務だ」


その言葉には、人間離れした覚悟と、凍てつくような孤独が含まれていた。 私は気づいた。 


この男は――いや、この存在は、本気だ。 善悪の彼岸を超えて、ただひたすらに「日本の存続」という解を求めている。その演算結果が「歴史改変」だったというだけのことなのだ。


ならば、誰かがブレーキを踏まなければならない。 いや、ブレーキを踏みつつ、この暴走する神輿が崖から落ちないようにハンドルを握る人間が必要だ。 それは、AIにはできない。人間である私にしかできない仕事だ。


「……わかりました」 


私は大きく息を吐き、覚悟を決めて顔を上げた。


「協力します。ただし、条件があります」


「聞こう」


「シナリオの最終チェックは僕がやります。あなたの計算だけで歴史をイジると、絶対にロクなことにならない。人間の『感情』という変数を、僕が物語として補正ナラティブチェックします」


夜裏は、ほう、と眉を上げた。 


そして、今日初めて、口角を五ミリほど上げて――明らかに面白そうに笑った。


「いいだろう。交渉成立だ、ナラティブ・アーキテクト」


『へっ、そうこなくちゃ面白くねえ! 頼りにしてるぜ、かたるの兄弟!』 


gennaiがヒューッと口笛を吹く。


「では、直ちに作戦を開始する」 


夜裏が踵を返し、最初のカプセルの前に立った。 中には、笏を持ち、ヘッドセットのような冠を被った、聡明そうな青年のアンドロイドが眠っている。


「最初のターゲットは決定済みだ。この国の病巣の根源……『思考停止』を招いた最大の原因にメスを入れる」


「思考停止の原因?」


「そうだ。空気を読むこと。和を乱さないこと。出る杭にならないこと。……その日本的OSのバージョン1.0を作った男だ」


 私は、カプセルのプレートに刻まれた名前を見て、息を呑んだ。 そこには、誰もが知る名前――日本紙幣の顔ともなった、あのレジェンドの名が刻まれていた。


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