第38話 忠義という名の不確定要素(ノイズ)
その時、炎の中から数人の人影が現れた。 織田家の家臣たちだ。小姓の森蘭丸や、信長の妻である濃姫の姿もある。彼らはNOBUNAGAの圧倒的な武力を見て、希望を見出したようだった。
「上様! ご無事でしたか!」
蘭丸が、血まみれの長刀を杖にして駆け寄る。
「ここは我らがお守りします! 上様は今のうちに裏手から脱出を……!」
NOBUNAGAは、ゆっくりと蘭丸の方を向いた。 その赤いカメラアイが、忠義に燃える少年の顔を捉える。
『……邪魔だ』
NOBUNAGAが腕を振るった。
ドォォン!
衝撃波が発生し、蘭丸の体が木の葉のように吹き飛ばされた。燃え盛る柱に激突し、ぐったりと動かなくなる。
「蘭丸!?」
濃姫が悲鳴を上げる。
「上様、何をなさいますか! 彼はあなたをお守りしようと……!」
『計算の邪魔だ。お前たちもな』
NOBUNAGAは、濃姫や他の家臣たちにも銃口(腕に内蔵されたレールガン)を向けた。
『遅い。弱い。非効率だ。私の演算速度についてこれず、射線を塞ぎ、敵の盾になるだけのノイズ。……勝利のためには、不確定要素は排除する』
「なっ……!?」
私は我が目を疑った。 USHIWAKAも味方を蹴散らしたが、あれはまだ「自分の強さへの過信」故の行動だった。 だがNOBUNAGAは違う。 彼は本気で、味方を「排除すべきゴミ」だと認識している。
「やめろぉぉぉっ!!」
私は思わず飛び出していた。 熱風が顔を焼く。胃が引きちぎれそうだ。それでも、足は動いた。 NOBUNAGAと濃姫の間に割って入る。
「何やってんだアンタ! 自分の奥さんだろ! 部下だろ! 守るべき存在じゃないのかよ!」
私はレールガンの銃口を睨みつけた。死ぬかもしれない。いや、確実に死ぬ。 だが、この男の「理屈」だけは、絶対に認めるわけにはいかなかった。
NOBUNAGAは、銃口を下げなかった。 赤いカメラアイが、私を――いや、私という「データ」をスキャンしている。
『……貴様』
地鳴りのような、低い合成音声。
『見覚えのないデータだ。この時代の人間ではないな? ……【外部】か』
心臓が止まるかと思った。 バレた? いや、彼には「未来人」という概念はないはずだ。だが、彼の高性能AIは、私がこの時代の異物であることを瞬時に見抜いたのだ。
『まあいい。貴様もノイズだ。……まとめて灰になれ』
レールガンのチャージ音が、キィィィンと高まっていく。 私は死を覚悟して目を閉じた。その時。
ドォォォォン!!
本堂の大屋根が、炎に耐えきれず崩落した。 巨大な梁が、私とNOBUNAGAの間に落下し、火の壁を作る。
「……チッ」
NOBUNAGAは舌打ちし、スラスターを噴射して炎の中へ跳躍した。
『……後で処理する。まずは、この鬱陶しい旧人類どもを掃除してからだ』
彼は炎の向こうへ消えていった。 後に残されたのは、呆然とする私たちと、炭化した死体の山、そして肉が焼ける絶望的な臭いだけだった。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
私は腰が抜けて座り込んだ。 胃薬の瓶を取り出そうとするが、手が震えてうまく掴めない。瓶が手から滑り落ち、熱い地面でカチリと音を立てた。
こいつは……駄目だ。 今までの偉人とは、根本的に違う。 「情」も「理」も通じない。彼にあるのは、人間そのものへの深い絶望と、すべてを無に帰そうとする破壊の意志だけだ。
第六天魔王。 その呼び名が、これほど相応しい存在はいなかった。




