第36話 次なるパッチは「破壊(NOBUNAGA)」
「議論を終わらせる方法は一つだ」
夜裏の手が、五番目のカプセルのロック解除キーにかかる。
「全員を黙らせるほどの『圧倒的な決断』。そして、古い価値観をすべて焼き払う『破壊』だ」
「や、焼き払うって……まさか……」
私は後ずさりした。 嫌な予感がする。 その人物の名は、日本人なら誰もが知っている。 最も革新的で、最も残酷で、そして最も人気のある「魔王」の名だ。
『おいおい大将、本気か?』
gennaiの声すら震えている。
『そいつは制御不能だぜ? 議論どころか、俺たちの存在ごと消し炭にされかねねえぞ』
「構わん。停滞よりはマシだ」
裏は躊躇なく、その赤いスイッチに指をかけた。 その瞳には、これから起きる災厄すらも許容する、狂気じみた覚悟がある。
「承認する。――歴史(日本)を、やりなおす」
「Re-JAPAN計画、フェーズ5。……起動せよ、【NOBUNAGA】!」
【Code Name: NOBUNAGA / The Demon King】
ガシュゥゥゥゥン!!
カプセルが開くと同時に、凄まじい熱波が吹き荒れた。 執務室の温度が一気に上昇し、スプリンクラーが作動しかける。
黒煙の中から、その男は現れた。 燃えるような深紅のマント。西洋甲冑を思わせる黒いナノ・アーマー。 そして、腰には二丁の長銃を帯びている。
『……是非もなし』
低い、地鳴りのような声。 男が目を開いた。 その瞳は、人間の色をしていなかった。燃え盛る炎の色。すべてを灰にするまで止まらない、破壊の炎だ。
「織田……信長……!」
私は腰を抜かした。 ヤバい。こいつはヤバい。 PRINCEやUSHIWAKAとは格が違う。 話が通じるとか、情に訴えるとか、そういう次元じゃない。「存在自体が災害」だ。
「行くぞ、かたる君」
夜裏なおすは、炎の魔王を前にしても動じず、冷徹に告げた。
「ターゲット・イヤー、西暦一五八二年。……この理屈っぽい国を、跡形もなく焼き尽くしてこい」
「焼き尽くしてどうするんですかぁぁぁ!」
転送の光が私を包む。 インクの匂いは消え、代わりに鼻をつくのは、火薬と血の匂い。
さようなら、評論家たち。 次に目覚めるのは、炎上する本能寺。 議論無用、問答無用の「破壊」の時代だ。




