表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/60

第26話 こじらせ文学女子、MURASAKI起動

「修正が必要だ」


夜裏なおすは、デスクの上のパワーストーンを無造作に薙ぎ払った。 ジャラジャラと石が床に散らばる。


「この湿っぽい空気を変えるには、どうすればいい?」 


夜裏が問う。


「『力(義経)』を与えれば暴走し、『祈り(卑弥呼)』を与えれば依存する。……極端すぎるのだ、この国の国民性は」


「バランス……ですか?」 


私が答える。


「自分の感情をコントロールする力。現実の辛さを受け入れながら、それでも生きていく『知性』と『教養』が必要です。スピリチュアルに逃げるんじゃなくて、自分の心と向き合う強さが」


「その通りだ」 


夜裏は頷き、四番目のカプセルの前に立った。


「感情を言語化し、客観視する能力。それを国民にインストールできるのは、この国の歴史上、最も『人間の業』を見つめ続けた、あの女しかいない」


『へっ、こいつは劇薬だぜ?』 


モニターの中で、gennaiがニヤリと笑った。


『HIMIKOが「光のアイドル」なら、こいつは「闇の文学少女」。世界最古の長編小説を書いて、宮廷のドロドロした人間関係を冷めた目で観察してた、超一級の「陰キャ」だ』


私は、そのカプセルのプレートを見た。 時代は、西暦一〇〇八年頃。 華やかで、しかし陰湿な平安王朝の時代。


【Code Name: MURASAKI / The Lady of Tale】


「紫式部……」 


私はその名を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「『源氏物語』の作者。……でも総理、彼女はかなりの『こじらせ女子』ですよ? 日記には同僚の悪口とか、人生への愚痴がびっしり書いてあるような……」


「だからいいのだ」 


夜裏は言った。


「彼女は、人間の汚さも弱さも知り尽くしている。その上で、それを『物語(文学)』へと昇華させた。……このメンヘラ国家の連中に、真の『エモ(Emotional)』とは何かを叩き込んでもらう」


彼は、四番目の起動キーに指をかけた。 その眼差しは、鋭く冷徹だ。



「承認する。――歴史(日本)を、やりなおす」



「gennai、MURASAKIを起動しろ。搭載機能は?」


『【心理障壁展開・十二単ファイアウォール】、および 【言霊実体化扇子・筆ペン(ライティング・デバイス)】 。……取り扱い注意だぜ。精神攻撃メンタル・ハックの達人だからな』


夜裏が宣言する。



「Re-JAPAN計画、フェーズ4。……起動せよ、【MURASAKI】!」



プシュウゥゥゥ……。 


カプセルが開く。 中から現れたのは、十二単じゅうにひとえをサイバーパンク風にアレンジした衣装をまとう女性。 長い黒髪。透き通るような白い肌。 そして、その手には扇子ホログラム・コンソールを持ち、目元にはアンニュイな影を落としている。


『……眩しいわね』


彼女は目覚めるなり、不機嫌そうに呟いた。


『春はあげぽよ……なんて、嘘。春は憂鬱。夏も憂鬱。……生きるって、なんでこんなに面倒くさいのかしら』


圧倒的なダウナー系オーラ。 しかし、その瞳の奥には、世界を射抜くような鋭い知性が光っていた。


「行くぞ、かたる君」 


夜裏が転送装置を起動する。


「ターゲット・イヤー、西暦一〇〇八年。……この甘ったるいカルト国家を、文学の力で解体してこい」


「……分かりました」 


私は胃薬の瓶をポケットに入れた。今度は中身を補充してある。


「文学オタクとして、彼女とは話が合いそうです。……たぶん」


転送の光が溢れる。 さようなら、パステルカラーの地獄。 次に目覚めるのは、みやびで、そして残酷な、平安の闇の中だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ