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第2話 余命九二日の宣告(サーバー・デリート)

【国家存続可能期間:残り92日】


「……は?」


私は間の抜けた声を出した。


「そ、総理? この数字、なんの冗談ですか? 『インスタント完全食コンプ・ミールができるまでの時間』の単位間違いとか……」


「単位は『日』だ。計算に間違いはない」 


夜裏の眼鏡が、モニターの光を受けて冷たく反射する。


「あと三ヶ月だ。三ヶ月後、日本政府は債務不履行デフォルトを宣言。同時に、借金のカタとして国土の主要部分――北海道、関東、関西、九州の土地所有権が、債権国である北米・汎アジア・ユーラシアの各ブロックの共同管理下に移譲される」


「い、移譲って……それじゃ日本は!」


「消滅する。地図上には『日本自治区』として名は残るかもしれんが、主権国家としての日本は終わる。――THE ENDだ」


心臓の音が、嫌なリズムで早鐘を打ち始めた。 バッドエンド。 打ち切り(サーバー・デリート)。 そんな言葉が頭をよぎる。 確かに景気は悪い。未来に希望はない。けれど、なんだかんだ言ってもこの国は、ぬるま湯のように続いていくのだと思っていた。 それが、あと三ヶ月? 私の連載しているニューロノベルが打ち切られるより早く、国が終わるだって?


「な、なんとかならないんですか!? AIのアマテラスに対策を……」


「アマテラスの回答は『現状維持が最適解』だ。緩やかな死こそが、最も苦痛の少ない安楽死であるとな」


「ふざけるな!」 


私は思わず叫んでいた。胃の痛みなど吹き飛んでいた。


「安楽死なんて認められるか! 僕たちはまだ生きてるんだぞ! まだ……書きかけの物語だってあるんだ!」


「……ほう」 


夜裏が、わずかに反応した。 彼はゆっくりと私の方へ向き直る。その瞳の奥で、青白い光が電子回路のショートのように一瞬だけ明滅したのを、私は見逃さなかった。


「怒るのか、かたる君」


「当たり前です! 作家が一番嫌いなのはな、伏線もカタルシスもない、投げっぱなしの打ち切りエンドなんだよ!」


「同感だ」 


夜裏の口元が、微かに――おそらく正確に二ミリメートルだけ――持ち上がった。 それは人間味のある笑みというよりは、高度な計算式が解けた時の満足気な表情に見えた。


「今の日本人のOS(精神構造)は腐っている。小手先の経済対策や法改正ではどうにもならない。死に至る病巣は、もっと深い場所にある」


「深い場所?」


「そうだ。だから――作者を変えることにした」


 夜裏が右手を高々と掲げる。 まるで、オーケストラの指揮者がタクトを振るように。あるいは、神が天地創造を宣言するように。


「かたる君。これから見せるものは、国家最高機密だ。口外すれば、君の物理的消去デリートも辞さない」 「ぶ、物理的消去!?」 「出てこい、gennaiゲンナイ


 夜裏の声に呼応し、執務室の中央にあるメインモニターが激しいノイズを走らせた。 幾何学模様の光が収束し、一体の3Dアバターが形成されていく。 それは、この無機質な2300年の官邸にはあまりにも似つかわしくない、極彩色の異物だった。


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