31話 天才
意識が遠退く。魔族の憎たらしい顔が見える。でもそれも、すぐに見えなくなった。
「フィオナちゃん!」
「ママ?」
目の前にいたのは、母親だった。今はもう死んでしまったママ。死の間際、きっと迎えに来てくれたんだ。
花は咲き誇り、蝶は舞い、鳥は歌っている。
「ごめんママ」
咄嗟に出た言葉だった。だってママは、私が勇者と一緒に旅に出て、魔王を倒すのに貢献して、世界を平和にすることを望んでいたのだから。
「どうして?」
やっぱり。
「どうして謝るの? フィオナちゃん」
「え?」
意外だった。ママはきっとわたしを責めるのだと思っていた。
「だって、ママは、私が、ナイt――勇者と一緒に魔王を倒すことを望んでたのに。こんな中途半端なところで……」
私をママはそっと撫で、抱きしめてくれた。
「それはね? きっと勘違いよ? フィオナちゃん」
「え?」
「私は確かに勇者様とあなたが旅に出て魔王を倒すことを望んでいるわ。それは今も変わらない。でも、あなたの命より大切な平和はないわ」
「でも、私……死んじゃって――」
「それも、勘違いよ。あなたはまだ死んでいないわ」
「え!?」
意識がハッキリしていく。そして私は思い出す。ここは結界の中で、今は敵と戦っている最中だということを。
「ふふ。またねフィオナちゃん。次に会う時が無いと良いけれど」
目の前に広がるは、赤。鮮やかすぎる赤。それは私の血液。最初はどうして生きているのか分からなかった。でも気づいた。私の努力は無駄では無かった。
――死に際で見つけた。きっと本能がそうさせた。ママが私に力をくれた。
【回復魔法・上級】
それは穴の開いた身体、血管の切れた口や目、そして身体中の切傷。それら全てを私が状況を理解する暇に癒し終えていた。
そして、私は保険のため、口の中にとある物を入れておいた。それはG魔力回復薬。肉体、魔力。それらが回復する。そして、眼前には、自分に背を向ける敵。
全てが出来過ぎている。それは何故か、それは、私が天才だからだ。
自分でもわかっている。今の自分が正気ではないことに。自分のことを天才と自称してしまうほどには。
「魔法発動」
【ビィイム・マジック】
魔族が私の復活に気づく間もなく、身体の核となっている部分を貫いた。私はさっきやられたように魔族の髪の毛を引っ張り、顔の前へ持ってくる。まるで、極限状態でネズミを逃した猫のような、そんな表情している。
「なんで、生きて……!! 心臓を貫いたって言うのに!」
「わかっているわ。貴女も相当限界が来てたんでしょ? 私と同じようにね」
「そんなわけッ!!」
「教えてあげるわ。どんな天才だって、ご飯も食べずに寝なければ死んじゃうのよ」
「そんな顔しやがって!!! 人間風情がぁぁあ!」
「【火炎魔法】」
「【マジック・ファイア】」
魔族は完全に焼き尽くされる。この魔族が最後に見た顔、その時の私の表情はどうなっていたのか? そんなことを考える余裕もない。なにせ、あんなに無理やり魔力を回復させまくった。そのツケが回ってきた。
心臓の動悸が止まらない。吐血もしている。意識が薄れる中、結界が割れ、外から差し込んでいる光が眩しい。ということしか分からなかった。
――目覚めた時、一番に目についたのは、見知らぬ真っ白な天井だった。




