32話 胃腸炎
「おはよう」
目覚めると、そこにはきれいな女の人がいた。
見知らぬ天井、清潔感のあるベッド。
ここが病院だと気づくのに時間はいらない。
「えっと、あの?」
困惑する私を尻目に、女性はベッドの脇に視線をやる。
「はあ……。
魔力病だ」
ナイトの声。
ベッドの脇に、ナイトが座っている。
魔力病。
聞いたことがある。
魔力の使いすぎ、また引き出し過ぎにより脳が追いつかず身体に異常が起きる病気のことだ。
「残念だけど。一ヶ月は療養よ」
「え?」
女性は呆れたようにため息を漏らす。
「当たり前でしょう? あの魔力回復のお薬。どれだけ使ったのよ?」
過去の記憶を辿り、思い出す。
「ええっと、70錠ぐらい?」
女性はやれやれというような感じで頭に手を添える。
「このままじゃあね? あなたもう死んじゃうのよ」
「え?」
頭が回らない。
「当たり前でしょう? 魔力が全開するのに大体人っていうのは一週間弱かかるのよ」
「はい、それは――」
「それを70回分も一瞬で引き出したんだから、身体にかかる負担は想像できるわよね?」
「……」
ナイトの方を見る。
『ちゃんと聞けよ』みたいな感じで私を睨んでいる。
「というわけで、ナイトちゃん」
「ああ」
女性はナイトにお辞儀をし、踵を返した。
ナイトと二人だけの空間だ。
気まずい。
せめてブラムがいてくれたら……。
「おい」
ナイトが沈黙を砕く。
「……?」
「これから一ヶ月。お前は入院だ」
「うん……」
「気を落とすな。別に置いて行ったりはしない」
「え?」
てっきり置いていかれるものだと思っていた。
ナイトが呆れたように言う。
「お前と同時にブラムも入院するんだ」
「え? なんでよ」
敵との戦いで負傷したのか、ブラムが心配になる。
「それはな……」
私は息を呑む。
「食い過ぎによる胃腸炎だ」
「は?」
胃腸炎? それって、魔族も敵も関係なくない!?
ちょっと待って、私が寝込んでる間に何があったの?
「思うところは分かる」
良かった。
ナイトも同じ気持ちだったんだ。
「お前も速くしっかりとした食事を取りたいのだよな」
――そういうことじゃねええええ!!!
「じゃあどういうことなんだ?」
いや、なんで心の声読んでるの!!?
え? 私、声に出ててた!?
「兎に角。稀にお見舞いには来てやる。じゃあな」
「ちょっとま――」
――バタンッ!
「閉められちゃった……」
なんなのよあいつ。
伝えたいことだけ伝えて帰っちゃって。。
「取り敢えず、ブラムのお見舞い行こうかな……」
病院の廊下には、トコトコという哀愁漂う足音が響いたのだった。
こうして私の一ヶ月に渡る入院生活は始まった。




