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第9話・試験

「うっし、快調!!」


 アルフィナが夢に出た翌日の昼、退院したリュートは軽く体を動かしていた。リュートの家族とキャスリー、そしてアリカとその父、オーウェルとキャロルも一緒だ。


「ありがとうございますオーウェル殿、このような高い金額を……」


「いやいや、娘の恩人だ、これぐらいは当然ですよ。」


 後ろではランディがオーウェルにお礼を言っていた。オーウェルが多額の金を出した事により、最高の治癒魔法を受ける事ができたのだ。


「良かったわね、明後日の試験に間に合わなかったらどうしようかと思ったわ。」


「試験? ひょっとして魔法学校の編入試験の事?」


 アリカがリュートに尋ねる。


「おう、色々あってな、編入する事になったんだ。」


「そうなのか、実は二人も魔法学校の生徒なんだ。」


 オーウェルはアリカの肩に手を置いて言った。


「そうだったのか。まあ合格するかはわかんねえけど、合格したらよろしくな。」


「うん。」



=====



 同時刻、王都の地下牢にて、王宮直属近衛騎士団団長、フリードリヒ・フォン・ジークロフトが牢に目を向けていた。その牢に鎖で繋がれていたのは、先日リュートと激しい攻防を繰り広げた少年、ティグリオ・ヴァルアルドだった。


「当然の事だが、ヴァルアルド家は君を庇護する気は微塵も無いとの事だ。」


「へっ、元々期待しちゃいねえよ、微塵もな。」


 ティグリオは笑みを浮かべながらフリードリヒを睨んでいた。


「フン、まあどのみち、民衆の声から考えても向こう数年は出られんだろうな、今まで我々騎士団からは上手く逃げていたようだが、今回彼のおかげでこうして捕らえられた。」


 フリードリヒの言葉でティグリオの目が一層険しくなる。


「まあ、せいぜい大人しく、そこで頭を冷やすんだな。」


 そう言うとフリードリヒはティグリオの前から去ろうと歩き出す。しかしその時、ティグリオの口角が吊り上がった。


「やなこった。」


 すると、轟音と共に牢が破壊され、砂埃が集まる。


「!?」


「残念だったな、こんな鎖一本で俺は止められやしねえよ。」


 ティグリオはリュートとの闘いで使用したゴーレムの鎧を纏っていた。ティグリオは自分を拘束していた鎖を引きちぎる。


「魔法を封じる筈の魔封鎖を……」


「団長!!」


「ご無事ですか!?」


 四人の騎士が牢獄に駆け込んでくる。


「来るな!!」


 フリードリヒは近づいてくる騎士を制する。


「さてと、早速あの野郎をぶっ潰しに行きてえ所だが……その前に、てめえから潰してやらあ!!」


 ティグリオは加速してフリードリヒに突っ込んでいく。フリードリヒは腰の剣に手をかけていた。


「死ねえええええーーーー!!!!」


「ハアア!!」


 フリードリヒは鞘から剣を引き抜き、振るう。すると、ティグリオの鎧にヒビが斜めに入り……


「ガハッ……!!」


 ゴーレムの鎧は一瞬で粉々になり、ティグリオ自身も吹き飛ばされる。ティグリオはうつ伏せになった。


「残念だったな、世界は君が思っているより広いのだよ。」


 フリードリヒは剣を鞘に納める。


「ガ…ク……ク……ソ……ガ……」


 ティグリオはうつ伏せのまま這いずっていたが、やがて気を失った。


「特別牢へ。」


「はっ」


 四人の騎士がティグリオを鎖で縛り、連れて行く。


「すげえ……」


 別の牢に繋がれていた罪人数人がその様子を見ていた。


「あれが……王国最強の剣士……」



=====



 二日後、編入試験の時がやって来たので、リュートはキャスリーと一緒に王都の魔法学校に来ていた。魔法学校は広大な宮殿のような建物だった。もちろんキャスリーは認識阻害の魔法で周りには見えない。


「思ったよりでけえな……」


「君がテニオレヒト君か?」


 建物の大きさに驚いていると、教官と思わしき中年の男性がリュートに話しかけてきた。


「はい、そうです。」


「待っていたよ、私はトム・サンダース、魔法学校の教官だよ。試験会場はこっちだ。」


 教官に案内され、リュート達は学校内に入る。廊下を歩いていると、生徒達がリュートを見てヒソヒソと話をしていた。


「おい、あいつってまさか……」


「あのティグリオとやり合ってた奴じゃねえのか?」


「あの時の闘い、だいぶ噂になってるみたいね。」


「マジかよ……」


 キャスリーがそう言うと、リュートは居心地の悪そうな顔をしていた。。


「リュート・テニオレヒト君だね。」


 突然声をかけてきたのは、壮年の顎髭を蓄えた男性だった。


「ようこそ魔法学校へ、私は教頭のルドルフ・ウィルスター、そしてここが試験会場だ。」


 ルドルフは大きめの扉を開け、中に入るように促す。


「え、ちょ、ちょっと……」


 トムは戸惑っていたが、リュートは促されるまま扉をくぐる、そこは闘技場のような場所だった。


「早速だが、試験を始めさせてもらおう。」


 ルドルフは闘技場の中央に進むと、教員の制服らしきコートを脱ぎ捨てる。


「はい、よろしくお願いします。」


 リュートは中央に進もうとするが、トムが割って入る。


「待って下さいウィルスター教頭、まずは筆記試験の筈では……」


「私はあれこれグダグダやるのは好きじゃない、それに彼は特別な事情があってここに来たのだろう。」


 ルドルフがペンダントを首の紐から離すと、ペンダントが2m程の杖に変わる。


「ならば、実際それを確認した方が手っ取り早いと思わんか?」


 杖を棒術のように振り回しながらルドルフは話す。


「というわけで、見せてもらおうか。」


 ルドルフが杖の先を地面に打ち付けると、魔法陣がルドルフの足元に現れ、その周りに身長2m程の土の人形が複数現れる。


土壌創兵ソイルトークン……土属性の上級魔法ね。」


 キャスリーがルドルフの魔法を説明する。


(流石は教頭といった所か…)


「安心しろ、大怪我まで負わせるつもりはない。」


 ルドルフは杖をリュートに向ける。


「取り押さえろ。」


 土壌創兵全員がリュートに向かってくる。リュートは魔力で体を強化し、創兵の攻撃を躱し、攻撃魔法の準備をする。


「ウィンドウォール!」


 暴風の壁が創兵を吹き飛ばす。


「ウィンドシェル!」


 さらにリュートは風の球体を放ち、創兵を砕く。


「ならば、これでどうだ!」


 ルドルフが杖を振るうと、大量の土が巨大な蛇のように固まり、リュートに襲い掛かる。


「アクアバースト!」


 リュートは前方に水の津波を発生させ、土を相殺させる。


「魔具無しで中級の魔法を……」


 トムが驚きの表情を浮かべる。


「成程、そういう事か……面白い!」


 ルドルフが杖を構え、突然突っ込んできた。


「!?」


 リュートは腕を交差させ、杖での攻撃を防ぐ。


「ちょ、ちょっと教頭!?」


 トムはルドルフの行動に驚く。


「小手調べのつもりだったが気が変わった、私自身の手で確かめさせてもらおう!」


 ルドルフは杖を振るいながらリュートに襲い掛かる、リュートは徒手空拳で対抗する。


(くっ…強い…!)


(マズい、教頭の悪い癖が……)


 冷や汗をかくトム、リュートはルドルフの攻撃を防ぎ、一度距離をとる、すると、ルドルフは新たな魔法陣を展開した。


「!?」


「バーンストーム!!」


 すると、ルドルフの周りに発生した炎の渦がリュートに襲い掛かる。


「ちょ、教頭ぉ!?」


 明らかに危険なレベルの魔法を使ったので、トムは叫ぶ、しかし、リュートは炎に飲み込まれてしまった。


「試験でなんて魔法使ってんですかぁ! 彼のご両親になんて説明すれば……」


「心配はない。」


 頭を抱えるトム、しかし、ルドルフは笑みを浮かべていた。炎が晴れると、無傷のリュートが立っていた、よく見るとリュートは自身の周りに魔力による障壁を展開しており、その障壁の内側に強い冷気を発生させていた。


「教頭のバーンストームを防いだ……!?」


「やはり防いだか、なら……」


 ルドルフはさらに魔法陣を展開した、リュートはさらに上位の魔法を察知して身構える、しかしその時……


「そこまで!!」


 闘技場に甲高い声が響いた、三人が声のした方に目を向けると、銀髪を肩まで伸ばした女性が立っていた。


「ルナミアス教官!」


 トムが女性教官の名前を叫ぶ。


「ウィルスター教頭、どういうことですか?」


「いや、これは、その……」


 ルナミアスがルドルフに詰め寄る、ルドルフはどもっていた。


「試験にしては随分派手な音が聞こえると思えば、流れを無視して戦闘を始めた挙句、あのような危険極まりない魔法を放つなど……」


「だ、大丈夫だ、私はちゃんと防げる事を見越してだな……」


「最後に使おうとしてた魔法は何ですか?」


 冷や汗をかき始めるルドルフ。


「この事は学園長に報告します。」


「な、ちょ、ちょっと待ってくれ! それだけは勘弁してくれ! 頼む!」


 闘技場の出入り口に向かうルナミアスと、それを慌てて追うルドルフ。


「え…えーと……」


 リュートはしばらく立ち尽くした後、トムに目を向ける。


「あ、ああすまない、この後についてだが……改めて筆記試験を行うとしよう、こちらへ。」


 リュートはトムと一緒に闘技場を出る、その後教室へと案内された。


「さて、色々と滅茶苦茶になってしまったが、改めて筆記試験を始めるとしよう。」


 机にプリントを置くトム。


(ん? そういやキャスリーの奴どこ行った?)


 キャスリーがいつの間にかいなくなってる事に気付き、辺りを見回すリュート。


「どうしたんだい?」


 不思議そうに尋ねるトム、彼には認識阻害で元々キャスリーは見えていない。


「ああ、いえ、なんでもありません。」


「そうか、では試験を始めるとしよう、制限時間は30分だ、準備は良いかね?」


「はい。」


「では、始め!」


 その後、難問もあったがなんとか9割は回答したリュートだった。



=====



 翌日、魔法学校の会議室にて、リュートの試験に関する会議が行われていた。


「筆記試験はなかなかの成績でしたが、実技はどうでしたか? 教頭……」


 教官の一人がルドルフに尋ねる。


「魔具無しで中級の魔法を扱い、さらに私の魔法を防ぐ程の障壁を魔法陣無しで作り出す、彼の力は異質と言わざるを得ませんな。」


 リュートとの闘いを解説するルドルフ、しかし、何故かボロボロだった。


「恐らくその力こそが編入の理由でしょうね。」


「確かにあの魔力は使いこなせなければ彼自身も危険でしょうな。」


 女性の教官と老年の教官が話す。


「今の内に力の使い方を詳しく学ぶ必要はあると見えます。」


「では、合格という事でよろしいですな?」

.

「はい。」


 二日後、リュートの下に魔法学校から合格の知らせが来た。


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