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ゴルフ界の伝説を受け継ぐのは6歳の少女でした ―7番の後継者―  作者: 純羽 碧(すみはね あお)


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間話2〜兄は今日も妹を語る〜

本日2話目です。

 ――午後九時。


 七瀬家の一室から、軽快な電子音と少年の声が響いていた。

「はい、ということでね。ここは一回引きます。真正面から行ったら絶対やられるんで」

 パソコンのモニターに映っているのは、人気のサバイバル型対戦ゲーム。

 ヘッドセットを装着し、マイクに向かって話しているのは七瀬久遠だった。

「おっと、右から来た! ……はい、見えてました。残念でしたー!」

 久遠が素早く操作すると、画面上のキャラクターが相手を撃破する。


 直後、画面右側に流れるコメント欄が一気に加速した。


『うますぎww』

『今の反応速度どうなってんの』

『久遠今日調子よくね?』

『いや今のは相手が弱いだけ』

『まぐれ乙』


「おい、最後のやつ表出ろ」


 久遠が笑いながら画面を指差す。


「俺がどれだけ練習してると思ってんだ。学校終わってからずっとゲームしてるんだぞ?」


『学校終わってからずっとゲーム?』

『勉強は?』

『宿題しろ』

 

「…………」


 久遠の手が止まった。


「今日はゲームの話をしようぜ。勉強の話は禁止な」


『逃げたw』

『絶対母親に怒られてるww』

『学生配信者の闇』

『宿題終わった?』


「終わってますぅ!」


 久遠がわざとらしく胸を張る。


「俺はやることはちゃんとやる男なんだよ」


『ほんとぉ?』

『妹に宿題見てもらってそう』

『妹ちゃんに怒られてそう』


「なんでそこで妹が出てくるんだよ!」


 そう言いながらも、久遠の表情はどこか嬉しそうだった。


「……まあ、でもうちの妹は最近マジですごいんだよ」


『出た妹自慢』

『待ってました』

『また始まった』

『定期的に発症する病気』


「病気って言うな」


 久遠はゲームを操作しながら、得意げに話し始めた。


「この前、妹がゴルフの検定受けたんだけどさ」


『え、もう検定??』

『妹ちゃんゴルフやってんの?』

『前言ってたな』

『妹ちゃんシリーズ最新話キタ』


「そうそう。で、初めての検定だったんだけど――」


 久遠はそこで一度、意味ありげに間を置いた。


「Cランクで合計6打」


『???』

『6?ってことは3アンダー?』

『初めて?』

『ルール知らん、すごいの?』

『わりとヤバいで』

『え?』


「3アンダー」


 もう一度、念を押す。


「3ホールで6打。まあCランクだから50ヤードの位置から3ホールなんだけど、それでもダントツの成績だったんよ!」


『???』

『初めてで?』

『俺いまだにアプローチ苦手なんですが…』

『それマジ?』

『盛ってない?』

『久遠の妹補正入ってない?』


「盛ってねぇよ!妹補正で認定バッジもらえるか!」


 久遠が笑う。


「まあ俺も人から聞いてたら嘘だと思っただろーけどな!実際に見てても信じられないくらいだった」


 ゲームの画面では、久遠のキャラクターが何もせず立ち止まっている。


「しかも本人、別に普通の顔してんの」


『妹ちゃん何歳?』


「6歳」


『!?』

『は?6歳!?』

『それはヤバい』

『久遠よりゲーム上手かったりして』


「いや、それはない!」


 久遠は即答した。


「ゲームなら俺の方が圧倒的に上手い」


『ほんとぉ?』


「……たぶん」


『弱気w』

『今の間www』


「いや、妹がゲームやり込んだら分かんないけど……」


 そこで久遠は、少し考えるように首を傾げた。


「でも、あいつ変なところで覚えるの早いからなぁ」


『妹ちゃん天才説』

『兄バカすぎるw』

『もっと聞かせろ』

『久遠今日は妹の話しかしてない説』


「誰が兄ばかだよ!……いや、ちょっとはそうかもしんないけど」


『素直ww』

『普段は生意気だけどなwww』

『だからチャンネル外せないw』

『ゲームの腕じゃねぇのかよ!ww』


「ゲームの腕じゃねぇのかよ!…って先にツッコむな!」


 久遠は思わず叫んだが、すぐに深呼吸し落ち着きを取り戻した。


「ふー、まあいい、うちの妹の話が聞きたいなら聞かせてやるよ」


 その後、ゲームの話はほとんど進まなかった。


「うちの妹ってさ、昔から変なところで度胸あるんだよ」

「あと、めちゃくちゃ素直で――」

「俺が新しいゲーム買った時も、横でずっと見てるんだけど――」

「『お兄ちゃん、それ面白い?』って聞いてくるんだよ」

「で、面白いって言ったら、『一緒にやっていい?』って眼をキラキラさせてさー」


『かわいい』

『妹ちゃん尊すぎる』

『KUONの妹とは思えない』


「だろ?あと最後のやつまたてめーか」


 久遠が満足げに頷く。


『久遠がただ妹の話したいだけなの草』

『定期報告ありがとうございます』


「……まあ、それは否定しない」


 照れくさそうに笑った。


 しかし、その直後。

 部屋のドアが、コンコンと二度叩かれた。


「お兄ちゃん?」


 小さな声が聞こえる。

 久遠が振り返った。

 

「……あ」

 一瞬、しまったという顔をしたが、もう遅い。


「ん、どうした」

「うん。まだゲームしてる?」

「配信中」

「あ、ごめんね」

 

 ドアの向こうから、声がする。

 

「お水、ここに置いとくね」

「お、おう。ありがと」

 

 ドアの下から、小さなペットボトルが一本、すっと差し込まれた。

 

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」

 

 足音が遠ざかっていく。

 久遠はしばらくドアを見つめていた後、コメント欄に目を戻して固まった。


『妹ちゃん良い子すぎる』

 

「今の声だけで妹って断定すんな」


『お兄ちゃんって呼ばれてましたよw』

『いや声の可愛さで分かる』

『兄の反応で確信した』

『墓穴掘ったの草』


「……今の聞かなかったことにしろ」


『無理』

『保存した』

『名シーン集入り』


「いやマジで忘れてくれ!」

 

 思わず叫んだ後、しかし久遠はニヤリと笑った。


「まあでも、可愛いのは否定しない」


『さっき隠そうとしてたのにw』

『切り替え早すぎ』


「いや、マジで可愛いんだって」


 久遠はそこで少しだけ真面目な顔になった。


「今日もさ、ゴルフの検定でめちゃくちゃ頑張ってたんだよ」

「本人は全然大したことないみたいな顔してるけど、俺はちゃんと見てたから」

「だからさ――」


 久遠はカメラに向かって、少し照れくさそうに笑った。


「これから妹がどんなゴルファーになるのか、俺は一番近くで見てたいんだよね」


 コメント欄の流れが、ほんの一瞬だけ止まった。


『……いいお兄ちゃんじゃん』

『急に良い話』

『妹ちゃん頑張れ』

『兄貴も頑張れ』


「……なんだよ。急にしんみりすんなよ」


 久遠は照れ隠しのように頭を掻く。


「ほら、まだ配信終わってないからな。今日はもう一戦行くぞ!」


『おー!』

『妹パワーで勝て』

『次負けたら妹ちゃんに慰めてもらえ』

『それは強すぎる』


「お前らなぁ……!」


 再びゲームの効果音が部屋に響き始める。


 その頃。

 廊下を歩いていた弥々魅は、自分の部屋へ向かいながら、小さく笑っていた。


「……お兄ちゃん、また私の話してる」


 呆れたような、それでいて少し嬉しそうな声。

 そして翌日。

 久遠の配信には、こんなコメントが大量に書き込まれることになる。


『妹ちゃんの話、もっと聞かせて』


 ――兄の妹自慢は、まだまだ終わりそうになかった。

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