2.
「あ、ディー!おはよう!」
店の控え室で準備中の僕を見つけて、嬉しそうに声をかけたのは、ピンクブロンドが緩く波打つ髪とそれに似合う蕩けそうな目をした可愛らしい少年だった。
僕が挨拶を返すよりも早く、その少年イヴは次の言葉を発した。
「急いだ方がいいよっ。あのお客さんがさっき来たのを見たから!もう部屋で待ってるんじゃない??」
話を聞いて、脱ぎかけだった服を脱ぎきってカバンにしまい、急いで持ってきたローブを羽織る。イヴにありがとうと伝え早足でその人が待っているいつもの部屋へと向かう。途中でこの店の女主人に出会い挨拶すると、早く部屋にいけとどやされた。
新しくも、綺麗でもない二階建てのこの店だが、唯一2階の一番奥の部屋だけは、そこそこ良い宿のような広さと装飾がされている。女主人が客の風貌を見てその部屋に通すかどうかを決めている。
イヴが言っていた『あの』お客さんは、初めて来店した日から、いつもその部屋に通されている。
部屋の前に着くと、コンコンと控えめにノックする。中からどうぞと声が聞こえたあと、ゆっくりとドアを開く。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。」
頭を下げた僕に
「待ってなんかいないよ。久しぶりに会ったんだ。顔を上げてよく見せて。」
と優しく声をかけてくれた相手を、言われた通りに顔を上げてじっと見つめる。ハニーブロンドのウェーブがかった髪の毛と、人目を引く美しい容姿を持つ僕のお得意様。名をココさんと聞かされているが、本名かは分からない。ここらでは、働く人も、遊ぶ人も本名を名乗る人は少ない。僕もそのうちの一人だ。
「ディー、こっちに来てくれるかい?」
ポンポンと隣を叩くココさんが座っているのは、キングサイズほどある大きなベッドだ。むしろ、この部屋にはそれしか置かれていないと言っても過言ではない。つまり、そういうことをする部屋で、ここはそういう店なのだ。
はだけそうなローブの襟元を手で握りしめながら、ココさんが示す場所へとのりあげ横並びに座る。普通なら、これから服を脱がされ、奉仕するのだが、ココさんは初めて会った日に
「大事にしたい。きみが望まないことはしたくない。」
と言われ、僕が出勤している日は毎日のように来てくれるが、だいたい彼の話を聞いたり、一緒に横になって少し眠るだけで、大金を払い帰って行く。
最初は意味がわからず、何度も聞いたが、一目惚れだと言われ、惚れた相手は大事にする主義なんだと繰り返し力説された。しかし、店外で会うことを願うことはなく、店に来ては、お金を払って僕に会ってくれている。
時々、はだけた僕の胸元に釘付けになっていたり、ズボンに膨らみがあったりするのを見ると、やっぱり申し訳なくなって奉仕しようかと聞くのだが、鉄のように固い意思で断られてしまう。
お金を稼がなくてはいけない僕にとっては、ありがたくとても大事なお客様なので、失礼のないように細心の注意を払って接している。それは、僕に恋をしているというココさんにとってはあまり嬉しくはない対応なようで、気負わずに気軽に接して欲しいと何度も言われる。気軽にさ接してよかった相手などとうの昔に居なくなってしまったので、そう言われる度に対応に困ってしまう。
ほぼ毎回僕の出勤日に来店してくれるココさんだが、ここ数週間は来店がなく、久しぶりにあうと、どこの町に行っていたかや、その町でどんなものを見たのかを面白おかしく話してくれた。
しばらく話したあとは、僕の目の下のクマが気になると、ほぼ強制的に布団に入らされ店仕舞いの時間までしっかり眠らせてくれた。
そもそも、この店は時間制で客をどんどんとるのが普通なのだが、ココさんは僕の出勤時間から店じまいまでの時間全てを買ってくれている。支払いも規定の料金以上を払ってくれている。
クマができていたのは、ココさんがいない間は他のスタッフと同じように客とるためにせっせと呼び込みなどをして店仕舞いの深夜まで起きていたからだ。
残念なことに、ココさんがこの店に来るようになってからは、女主人に呼び込みは禁止され、ひたすら控え室で客を待つだけなのだが。呼び込まなきゃ客は付かず、ここ数週間は、雑用をしたり、他の子の世話をしたりして過ごしていた。
この店で働き始めて直ぐにココさんが客としてきたため、実際のところ奉仕はほぼしたことが無い。女主人の知り合いの旦那に客の喜ばせ方を教えてもらったくらいだった。
目を覚ますと、綺麗なアンバーの瞳がこちらを見ていた。
「すみません。久々にお会いしたのにすっかり寝てしまって。」
少し横になったら直ぐに起きるつもりだったのに、長時間放置してしまったのかと思うと申し訳なくなり、上目遣いで様子を伺うと
「君の可愛い顔は、永遠に見ていられるし、無防備な君を見られるのがとても嬉しいんだよ。」
と微笑まれた。もう店仕舞いだねと上着を羽織り、優しく僕を抱きしめると嬉しそうに笑ってココさんは帰って行った。
お金は女主人に支払われ、僕の取り分はあとから渡される。だいぶ持っていかれているがそれでも普通に客をとったときの3日分は貰えている。
お金を受け取ると、着替えて他の子達に挨拶をして店を後にする。家に着くとさっきまで寝ていのにすぐに眠気が襲ってくる。井戸から汲んでおいた水で頭や体を綺麗にした後は、ベットに戻り泥のように眠る。
これが僕の毎日だった。




