第6話『サバト』
8月って、なんかヘビっぽい気がしたので今月は投稿頻度上げてみます。
目標は週1の4話更新です。
私はキミコを右手の上に、オヤツを左手に町内会館の前に来ていた。
今日は数年ぶりの町内魔法少女集会の日だ。
新しい魔法少女たちとの顔合わせは、楽しみであると同時に不安もいっぱいだ。
なぜなら、トグロちゃんとやらの飼い主さんが男性だと聞いているからだ。
「うう、なんか、ここに来て急に気が重くなってきたぁ⋯」
もう10分以上こうしてしまっている。今までの集会で男の人が来たことなんて無いから、どう接すれば良いのか分からない。
塚井さんみたいに楽しくおしゃべりできる人だと良いんだけれども、ヘビをペットにするような変人に期待できる様な事じゃあ無いよね。
もしかしたら私以上のクソ陰キャの社会不適合者かも知れないし。
玄関前で止まった私を不思議に思ったのか、右手の中のキミコが私を見上げる。
「キミコぉ⋯やっぱり集会ブッチして帰ろうかな?」
私の言葉を聞いたキミコは手のひらから飛び出し空中で魔法少女へ変身した。
「お姉ちゃん大丈夫? 無理そうならワタシだけで行ってくる?」
なんて気の使える良い子なんだろう。自慢の妹分です。頼もしいキミコの言葉に甘えて帰ろうかな。
「な〜にウジウジしてるのよシノちゃん」
背後から私に声がかかる。振り返るとそこには空中に飛ぶ一匹の妖精、コナがいた。
両手を腰に当てて私をジロリと睨んでいる。
「アンタこの集会のリーダーなんだから、シャンとしなさいな」
「え゛!? 私、リーダーなの!?」
「そうに決まってるじゃないの、唯一のベテランだし、唯一の人間魔法少女なのよ」
た、確かに、私以外のメンツは最近魔法少女にされたペットたちと聞いている。
「あれ? ⋯⋯それだと私、結局引退できなくない?」
「⋯⋯みんなが頼もしくなればできるわよ」
おいコナ、私の目を見てもっかい言ってみろ。
「とりあえず、今はシノちゃんが新人ちゃんたちに教えてあげなきゃいけないんだから、リーダーは決定よ。 てゆーかペット相手なんだからそんなに緊張しなくて良いじゃないの」
「むむむ⋯⋯まぁ、確かに人間相手よりは気楽かも」
「分かったんならホラ、入った入った」
「い、いや、待って、それとは別に、心の準備が〜」
「あん? ⋯⋯あ〜、もしかして他の飼い主さんが心配なの?」
ブンブンと頭を振り肯定する私。
「しょうがないわねも〜。 でも今日は大丈夫よ」
「だ、大丈夫って何がだよぉ」
「うだうだ言ってないで早く入るわよ、会館の使用時間だって制限があるんだから」
結局コナに強引に会館へ連れ込まれる。クソッ、こうなったら、女は度胸!
「ええい! 変身!!」
会館の広間に入る前に、気合を入れるために変身をする。
私の全身が光を放ち、ソレが収まった時、視界が下がる。
小学生くらいのキミコと同じ目線になった、小学生の初変身から変わらない。大人になろうとも、魔法少女になればいつでも小学生程度の姿になるのだ。
「魔守沢の守護者! 魔法少女シノン参上! 悪いアクトゥーは、シノっと成敗しちゃうんだからね!!」
そしてお決まりの名乗りとポーズ! もうこれ野球選手がバッターボックスに入る前のルーティンみたいなもんです。
「はいはい、じゃあ入ろっか〜」
コナからも無感動に流されるがお互い10年来の付き合いだ、私としてもその方が気楽だわ。
「失礼するわよ〜」
町内会館の広間は和室だ。コナの呼びかけの後で私はふすまを開ける、広間には数年前と変わらない畳の部屋に、低い折りたたみ式のテーブルが口の字に配置され、それぞれに合わせて座布団が敷かれてる。
そして、その上座に当たるテーブルの上に、目を閉じた白ヘビがトグロを巻いていた。
うおっ!? デカっ!?
あ、アレが噂のトグロちゃん?
「あ、コナ! おそいぞ!」
横合いからコナを叱る声がする、そちらを振り向くと小学生くらいの少年がネコ耳魔法少女と並んで座っていた。
この子たちが新人なのか。良かった、男子小学生ならただのガキンチョだ、大人の男じゃないなら恐れる事は無い。
「文句ならこのシノちゃんに言ってよね〜。 お〜い、トグロちゃん! ソコは上座って言って、エラいヤツが座る席なのよ! アタシに空けなさいな!」
コナが声をあげると白ヘビはゆっくりとまぶたを開くと発光、変身し、白い衣装の魔法少女になっていた。
「エラいなら神の座」
「う〜ん、まぁ、神なら良いか」
コナが大人しく引き下がった!? 神って確か、そのトグロちゃんって子の飼い主さんだよね? そんなに上座に相応しい人なのだろうか? 神だけに?
「あれ? その神様って、どこ?」
上座にはトグロちゃん一人しか見当たらない。
「神は居ない」
と、トグロちゃん。どういう事? ニーチェ?
「あ〜、実はね〜、神、今日は居ないのよ。もう一匹の魔法少女ちゃんが脱走しちゃって、その捕獲を手伝って貰ってるのよ〜、だからほら、シノちゃんも大丈夫でしょ?」
そ、そうなのか。 男性が居なくてホッとしかけたけれども、脱走とは穏やかな話題では無い。
「脱走した子って、どんな動物なの?」
「⋯⋯早く見つかると良いわね〜」
「おい、こっちの目を見て言いなさいよ」
まさかヤバい動物じゃないでしょうね?
「まぁ、細かい事は良いじゃないの。 ソレよりも、みんなでの顔合わせよ。自己紹介でもしましょ!」
強引に話を終わらせやがって⋯⋯でも、これ以上問い詰めても無駄だろう。
気を取り直して、魔法少女集会をしていくしかない。
「それじゃあリーダーのシノちゃんから」
「えーっ! リーダーもう決まってんのかよ!?」
少年がコナの発言に文句をつけてきた。
「何よ小僧? まさか、アンタがリーダーにでもなるって言いたいの?」
「へっ! ど〜してもって言うなら俺がリーダーになってやっても良いぜ!!」
強気なガキンチョだが、この子にはリーダーをやらせたら駄目そうな予感をヒシヒシと感じる。
「お前もそう思うだろ? ブラックホールストーム!」
ネコ耳魔法少女を振り返り同意を求める少年。 ってか、スゴい名前だね、ブラックホールストームちゃん?
「にゃあ⋯⋯ウチの名前はおニャンだにゃん。 このブラックなんとかじゃ無いにゃん」
「え?ダメか? それじゃあ⋯⋯! ブラックホールグラントルネードが良いな!!」
「コイツは熱海ケットにゃん、ウチが居ないとダメにゃん」
なるほど、いろいろとアレで香ばしい少年だけれども、ペットのおニャンちゃんの方は結構しっかりとしていそうで良かった。
無鉄砲な男の子を支えるしっかり者の女の子。 結構良いカップルみたいな構図に、ちょっと胸がキュンとしちゃうぜ。
「この二人はまだ実戦経験が無いから、シノちゃんから後で教えてやってほしいわね。 という事で、改めてシノちゃんとキミコちゃんが自己紹介してね」
コナが仕切り直して、今度こそ私の自己紹介だ。
「私は魔法少女シノンよ、この中では一番のお姉ちゃんだから、二人には私がいろいろと教えてあげるからね」
「この中と言わず、魔法少女界でも相当なお姉ちゃんだわよ」
うるさい! 羽虫め、余計な事を言うんじゃあねえぞ!!
「それで、こっちの子がキミコよ」
キミコの背中を軽く叩いて自己紹介のバトンタッチ。
「ケットくん、おニャンちゃん初めまして! ハムスターのキミコです! お姉ちゃんと一緒に住んでます! トグロちゃんの予約があるので食べないで下さい! よろしくお願いします!!」
うん、立派な自己紹介が出来てエラいぞキミコ!
トグロちゃんの予約って何の事か分からないけれども、友だちとして何か約束でもしたのかな?
「それじゃあ最後はトグロちゃん、自己紹介をお願いね」
最後はトグロちゃん。この子はいったいどんな自己紹介をするのかな?
トグロちゃんは立ち上がり、大きく両手を広げ、そして顔は天を仰ぎ、厳かに言葉を放った。
「⋯⋯我は神の敬虔なる使徒、トグロちゃん。 今日は神の名代としてこの場に参った。 そして神から皆への神託がある、心して拝聴するが良い」
そして、私たちを順番に見渡し、鷹揚に頷く。
おおぅ⋯⋯神からのありがたいお言葉があるんですか?
ウチは宗教間に合っているんですが⋯⋯ やっぱり神ってヤバいヤツなのか?
「それでは、傾聴せよ⋯⋯ 『どうも初めまして、伝言で失礼しますが、トグロちゃんの飼い主です。 今日はコナの依頼で出席できませんが、皆さんうちのトグロちゃんをどうぞよろしくお願いします。 トグロちゃんに手土産を持たせましたので、つまらないものかも知れませんが、どうぞお受け取り頂ければ幸いです』 ⋯⋯以上、神託である」
⋯⋯マトモじゃん。 もっとこう、我に従えとか、世界をうんぬんかんぬんとか言うヤバい奴かと警戒していたわ。
なんだか神の言葉って、ちゃんと気遣いのできる社会人っぽいぞ?
「拝領するが良い」
トグロちゃんは背後に置いてた荷物を持って立ち上がり、私たちに順番に配って回る。
キレイにラッピングされた箱だ。
「え〜! 神の兄ちゃんが何かくれるのか! どれどれ〜?」
ケットくんがさっそくビリビリとラッピングを破り、箱の中身を暴く。
「あ、お菓子じゃん! やった!」
「スンスン、イケる匂いにゃん」
ほほう、お菓子ですか。
私も箱を開けてみると、中にはヘビやトカゲのデフォルメされた可愛いイラストで個包装されたお菓子の詰め合わせが入っていた。
なになに? 商品の説明を見てみると、無添加でヘルシーな自然派オヤツ、少量ならペットにもあげられる? 一緒に食べられる?
おお、スゴい! この集会にピッタリなチョイスじゃん!
ちなみにヘビの絵なのに、ヘビとか爬虫類には与えないでって書いてる。
「トグロちゃんからは、おわり」
「バリバリ、やっぱ出来るヤツだぜ神」
コナはさっそく食べてる。私もキミコと一緒に食べちゃおう。
サクサク、歯触り軽やかで素朴な味がする。たぶんカロリー控えめだから、体重が気になる女の子も遠慮なく食べれる良いオヤツだわ。
「もっ、もっ、もっ、美味しいね、お姉ちゃん!」
キミコの頬袋もあっという間にパンパンだ。
「ふふふ、キミコ、たくさん食べて大きくなるが良い⋯⋯」
キミコを見詰めるトグロちゃんの視線も、無表情ながら心なしか優しげだ。言動にヤバさを感じていたが、本当はこの子も優しい子なのかもしれないな。
「さぁて、良い感じに自己紹介も終わったから、次はみんなの縄張り、もとい、担当地区の調整をしていくのよ!」
神からの差し入れにより和やかな雰囲気になった中、コナの進行で魔法少女集会は続いたのであった。




