第14話『応援に行こう!』
「魔法少女や! 開けろコラ! ガサじゃ!!」
ドンドンドンドン!!
「はよ開けろや! 開けんかいボケが!!」
ガンガンガンガン!!
「さっさと出迎えんかいこのアクトゥーがッ!!」
ギュイーーーーン!!
閑静な郊外の一軒家を前に、フリフリの衣装を着た可憐な魔法少女たちの怒声が響き渡る。
魔法少女総勢11人による大捕物を前に、緊迫の瞬間である。
そこに居合わせる目と口の部分が薄く横に開いた白い仮面と、フード付きの白いローブを着た謎の人物は、現場の指揮官である魔法少女『おかっぴ☆』に額を寄せて尋ねた。
「横か後ろから突っつきますか?」
「もうちょい正面から突っついて、そんでも手応えが薄けりゃ⋯」
ドガアーーーーン!!!!!!
「どわぁ!?」
「畜生めぇッ!!?」
「ザッケンナコラー!!」
ドアどころではなくそれを支える壁ごと吹き飛ばす爆発が、押し寄せていた魔法少女達を弾き飛ばした。
そして、そこから巨大な姿を現したのはアクトゥーたちの集合体。
10体を越えるアクトゥーたちが身を寄せ合い、絡み合って一つの巨大な人型を成していた。
「ゴッドくん、下がっとき。 ここからはワシら魔法少女だけでヤらしてもらうで⋯⋯おう!お前ら! 気合入れてマジカルせんかいッ!!!!」
「うおおおッ!! アクトゥーがナンボのもんじゃい!!!!」
「おらッ、マジカル!! マァジカルッ!! シャらあッ!!!!」
「ケツから手ぇ突っ込んで奥歯ティンクルいわしたるわ!!」
おかっぴ☆の叱咤に呼応して立ち上がり、獰猛な雄叫びをあげる可憐な魔法少女たち。
どうしてこんな事になったんだろうか?
手持ち無沙汰な白装束の人物、ゴッドくんこと塚井は昨日からの事を思い出した。
「塚井さん、どうも初めまして。 魔法少女の岡部と申します」
魔守沢の町内会館にて、スーツを着た三十代半ばの女性が軽く頭を下げ、自己紹介をする。
「ヨロシクね〜」
その肩に座った妖精も軽く手を振って俺に挨拶をする。
この日、妖精コナの紹介でこの魔法少女という女性とその担当妖精に引き合わされていた。
それが目の前の妖精『ディカ』とベテラン魔法少女の『岡部かおり』さんだ。
「こちらこそよろしくお願いします。ペット魔法少女トグロちゃん、ケマリちゃんの飼い主の塚井宝馬です」
厳密に言うと俺はケマリちゃんの飼い主では無いが、第三者への紹介はこれでも良いだろう。
「⋯⋯その、上半身に巻き付いているヘビが、ですよね?」
「はい、魔法少女トグロちゃんです」
「いやあ〜、ウワサには聞いてたんですが、ホンマにペットが魔法少女になるんですよね?」
コナから聞いた事によると、動物魔法少女の例は全国的にもまだまだ珍しいそうだ。
だから岡部さんも半信半疑なんだろう。
「論より証拠という事で、トグロちゃん、変身してくれるかな?」
変身魔法の光を放ち、トグロちゃんは魔法少女モードへと姿を変える。
「我こそが蛇神トグロちゃん。 カンチョーババ公園にてハムスターを統べる者なり」
俺の上半身に絡み付いたままで自己紹介をするトグロちゃん。
最近、お気に入りの公園で野生のハムスター帝国を築いて遊んでいるらしい。楽しそうで何よりだ。
「おお〜。 本当に魔法少女になった⋯⋯ それじゃあ私も」
そう言って岡部さんも変身の光を放つ。
「おう! ワシは魔法少女おかっぴ☆や! お前、トグロ言うたな? よろしゅう頼むで!!」
先ほどまで薄々と感じていた関西成分が、コッテコテになったなぁ。
「アタシはディカ、担当地区は無くて〜、全国の助っ人をして回っているの〜」
「ワシと3人の子分、合わせて4人の精鋭部隊や!」
全国的に魔法少女が不足している中で、きっと大変な役割なんだろうなぁ。
「そんで、コナから聞いてると思うけどな、隣の市でアクトゥーがぎょうさん出入りしとる家にガサ入れする事になっとるんやけどな⋯」
隣のK市を担当する魔法少女が発見。 自分1人の手に負える数では無いと判断し、担当妖精を通じて彼女らに応援を頼んだらしいが⋯
「ワシら4人、K市の担当1人、そんで県の組合から出せる助っ人は今2人しかおらんから、合わせて7人。 対して家に出入りしとるアクトゥーは10を越えとるらしい⋯」
「戦力に不安が有る、という事ですか?」
「ワシらは数こそ少ないが百戦錬磨のベテランや! 正面から戦えばアクトゥーが倍や3倍居ったって遅れはとらん⋯が、頭数揃えて囲まんと、取り逃がす恐れがあるんや」
それは確かにそうだろう。玄関からこんにちは!している内に、裏口から逃げられる可能性は有る。 だからといって戦力を分散し過ぎたらそこからの一点突破を狙われかねない。
「そこで、や。今回は魔守沢の魔法少女達に協力して貰おうか、って事になったワケや」
「隣の市だし〜、逃げ込まれて悪さをされるのはヤ〜でしょ〜ぅ? コナ〜?」
「分かってるわよディカ〜。 別にコレを貸しにカウントするつもりは無いからね〜」
コナも同意する様だ。
「トグロちゃん、どうだい?」
「行けたら行く」
この様子だと自発的に行く気は無さそうだけれど、たぶん餌のグレードを上げて釣ればホイホイ付いてくるだろう。
ケマリちゃんはトグロちゃんで誘導すれば特に嫌がる事もないだろう。
「それで、どのくらいの戦力が欲しいのでしょうか?」
「ああ⋯⋯4人、貸してもらえへんか?」
トグロちゃん、ケマリちゃんは出れるとして⋯
「コナ、ウチの2匹は行けそうだけれども、他は?」
「誰が出るかはおニャンちゃん次第だけれども、ま〜、大丈夫でしょ」
「そうか! ホンマおおきにな、塚井くん! コナ!」
「それじゃあシノンちゃんとケットちゃんに連絡してくるね〜」
「それじゃあワシらで先に、明日の作戦詰めていくで〜」
「え? 明日なんですか? 急ですね、今から鳥居さんに軽トラ貸してもらえるかなぁ?」
「塚井くんは現場まで来るの〜?」
そうして、昨日は応援の約束を取り付けて、日が暮れるまで準備と作戦会議に追われたのだった。
そして、翌日。
作戦2時間前、朝8時。
「ひっさしぶりの大規模ガサ入れね! 稼ぎ時よ!!」
集合場所の町内会館の前でピンク色の髪と衣装の、初めて見る魔法少女が気炎を上げていた。
隣にキミコちゃんが居るところを見ると、我らが町内のリーダー、人間のベテラン魔法少女シノンちゃんさんだろう。
今から変身しているとは、ずいぶん気合を入れてらっしゃる様子だ。
俺は会館前に鳥居さんから借りた軽トラを停めて、彼女らへと挨拶をする為に車を降りた。
「おはようございます、いつもトグロちゃんがお世話になっております、『ゴッド』です」
「⋯⋯?」
「⋯⋯?⋯??⋯?」
「誰ぇーーーーッ!?!?!?」
なぜだか、シノンちゃんさんを驚かせてしまったらしい。 どうしたんだろうか?
「あ、あれ? その声、もしかして、神さまですか? トグロちゃんの飼い主さんの?」
声? 顔じゃなくて? ⋯⋯ああ、そうか。
「すみません。 今、変装させられていた事を失念しておりました。申し訳ございません」
そうだ、俺は今、白い仮面とローブを着て変装しているんだった。 着心地が自然ですっかり慣れてしまっていたよ。
「えぇ〜〜? ⋯⋯あ、ホントだ、軽トラにトグロちゃんが居る。 それじゃあ、アナタがあの神さま? あれ? でもさっきゴッドさんって? それに、変装? なんで変装してるんですか?」
「昨日ディカがアドバイスしてくれたんですが、魔法少女と違って変身しない俺が、不特定多数のアクトゥーに見られたら報復もあるのでは? と、心配してくれましてね⋯」
そう。 元から現役小学生魔法少女で無い者は、全て骨格から変身するから非常に匿名性が高いので、アクトゥー側から攻撃されるリスクが低い。
だが変身しない俺は、もしもアクトゥーに顔を覚えられたら高いリスクが発生するのだ。
「そこでコナとディカが俺の正体を隠蔽する魔法を用意してくれたんです」
それがこの仮面とローブなのだ。
「コレを装備していれば、この様に姿を隠せる他に、本名を名乗ったり呼べなくなる呪いがかかるんです。 なので、この姿の俺は『ゴッド』と名乗らせていただきました」
トグロちゃんに神って呼ばれているからね。
「呪いて⋯⋯まぁ、事情はわかりました。 それに、その変装って案外、悪く無いのかも。 私、本当は男の人が苦手なんですけれども、仮面のおかげか呪いのせいか、今、アナタに苦手な気持ちがあんまり沸かないんです」
「そうだったんですね。 それならこの変装もケガの功名と言えますね。 上手くお付き合いできそうなら、何よりです」
「ア〜ンタたち〜〜!」
一件落着の後、タイミング良くコナが現れた。
猫のおニャンちゃんを引き連れて。
「やあ、コナ。 おニャンちゃんはどうだったんだい?」
するとおニャンちゃんは魔法少女に変身し、
「お前神かにゃ?、何で変な格好してるにゃ? おニャンはケットが学校?ってのに行っててヒマだから狩りに行ってやるにゃ」
なるほど? そうなると⋯軽トラに積んできたトグロちゃん、ケマリちゃん、シノンちゃんさんとキミコちゃん、そしておニャンちゃんを合わせると5人(内4匹)
「誰を連れて行くんだい?」
「そうね〜、ちょっと悩ましいけれども⋯⋯」
コナはグルっと集まった面々を見渡し、そして⋯
「シノンちゃん、お留守番よろしくね!」
「なんでよおぉぉぉぉッ!?!?」
シノンちゃんさんが絶叫してコナに詰め寄る。
「なんでだよコナ! 私この前、引っ越しして貯金無いんだからッ! 割の良い仕事振ってくれよ!!」
コナを両手で握り締めて振り回す。
コナの頭がブルンブルンと揺れている。
「まぁまぁシノンちゃん、話を聞いておくれよ」
穏やかにシノンちゃんさんをたしなめるコナ。
妖精って案外頑丈なんだなぁ。
「今日のガサ入れ、ウチの担当は建物の横と裏で、窓や2階からアクトゥーが逃げ出さないか見張るって役割なの〜。 だからアクトゥーの討伐報酬が貰えるかは分かんないのよ〜?」
「うっ、そうなんだ。 で、でも、出張手当てとか、作戦参加の報酬は出るんでしょうが!」
「それは出るけど〜、キミコちゃんには来て貰うから、その分はプラスの収入でしょ〜?」
「私も行けば倍じゃない!」
「でもね〜、そうなると誰を残すかが問題になってくるのよね〜」
「誰って、いっぱい居るじゃないの⋯」
「まずトグロちゃんはどっちでもイケるけれども、ケマリちゃんを運用出来るのはトグロちゃんだけなのよ〜」
そう、ケマリちゃんは非常に強力だけれども、トグロちゃんがコントロールしないと運用出来ないピーキーな兵科なのだ。
「気まぐれなおニャンちゃんは〜、今日はお外の狩りの気分なのにお留守番にさせられたら、もしかしてヘソを曲げちゃうかも知れないじゃな〜い?」
やる気を伸ばす教育って大事だよね。
「そうなるとキミコちゃんかシノンちゃんになるけど、2人は同じ家計だからどっちでも良いでしょ〜? そうなると〜、キミコちゃんに外の世界を経験させてあげようかな〜って思ったのよ〜」
これは俺の読みだけど⋯コナはペット魔法少女たちの運用実績を積み上げたい、そう画策している様に思う。
S県を統括する組合からも、緊急で来てくれる魔法少女は2人だけ。
どうやら魔守沢ほどの魔法少女人口を確保出来ている地域は無さそうだ。
だからコナは、俺たちを岡部さんの様に遊撃に出せる戦力として育てたいのだろう。
その目的はおそらく⋯⋯他の妖精への貸し。
そして、その先の出世。
コナからは時々、令和のビジネスマンから失われつつある、出世に対するギラギラとした貪欲さが垣間見える。
フフッ、正直、嫌いじゃあ無いよ、その野心。
まぁ、あくまでペットたちの安全と快適が第一として、この子たちを使い潰されない様に俺がコナをコントロールすれば大丈夫だろう。
だから今回はコナがシノンちゃんさんを言いくるめようとしていても止めない。
「それに1人で魔守沢を守るならシノンちゃんが実力、実績ともにナンバーワンじゃないの」
「う、う〜⋯⋯でも、臨時収入がぁ⋯⋯」
「うふふ⋯⋯モチロン、ただでお願いするワケじゃあ無いわよ〜、今日は単独警備特別報酬で、シノンちゃんに、なんと1万円をあげちゃうわよ!」
「い、1万円!?」
「更に、さ〜ら〜に! 今ならなんと! 今日のパトロール時間制限を5時間から10時間まで拡大! 1時間当たりの報酬も1000円から1100円に大幅ア〜ップ!!」
「お、おお!! あ、合わせるといくらよ? えっと、え〜っと?」
「10時間パトロールすれば合わせて21000円ですね」
やっぱり魔法少女のパトロール収入はワリが良くないね。
ちなみにトグロちゃんたちの出張、作戦参加の手当ても合わせて1万円と、同額だね。
「むむむ⋯⋯確実な2万円か、ギャンブルの討伐報酬か⋯⋯」
「お姉ちゃん! 私もガサ入れで頑張って来るから! チャンスがあったら、アクトゥーだって倒してくるよ!」
「キミコ⋯⋯そうね、私1人じゃあ無いもんね。 分かったわコナ! 魔守沢は私に任せなさい! ゴッドさん、キミコの事をよろしくね」
「承りました。 それじゃあみんな、動物モードで軽トラに乗って⋯⋯キミコちゃんは俺の胸ポケットに入ろうか」
「よ〜し! それじゃあ、行くわよ〜! 出っぱ〜つ!!」
こうして俺たちは隣の市へとガサ入れのお手伝いに行ったのだった。




