EP 3
T-GS(魔導ガソリンスタンド)と、高速道路の無双
太郎城を出発した『T-ACE』は、サリーの土魔法と100均の『速乾セメント』で綺麗に舗装された『太郎ハイウェイ(第一京浜)』を滑るように走っていた。
「いやぁ、快適快適。馬車の揺れとは無縁だね」
僕は片手でハンドルを握りながら、100均の『フタ付きタンブラー』に入れたアイスコーヒーを啜った。
「本当に不思議な乗り物ね。魔獣に引かせているわけでもないのに、どうしてこんなに速く走れるの?」
助手席に座るライザが、流れる景色を見ながら感心したように呟く。
「T-ACEの動力は『魔導高効率モーター』さ。100均の電池ボックスの構造を魔導的に拡張して、微小な魔力を爆発的な回転力に変えてるんだ。おまけに100均の『粘着ラバーマット』の分子構造を応用したタイヤのおかげで、絶対にパンクしないしロードノイズも極小ってわけ」
「……相変わらず、言ってることの半分も分からないけど、とにかく凄い技術なのね」
ライザが苦笑いする。その後ろ、フルフラットになった後部座席では……。
「んんっ! この『豚神屋監修・ニンニクマシマシポテトチップス』、ストゼロにめっちゃ合うわぁ〜! サリーも食べる?」
「あ、はいっ! いただきます! ……わぁ、お口の中がニンニクですぅ!」
すっかりくつろいだルチアナとサリーが、女子会(?)を開いて盛り上がっていた。
まぁ、楽しそうだから良しとしよう。
『ピピッ。マスター、前方に給魔施設【T-GS】を捕捉しました。魔素残量50%。念のため補給を推奨します』
ダッシュボードの賢者君が電子音で知らせてくる。
「おお、ちょうどいい。トイレ休憩も兼ねて寄っていくか」
ハイウェイの脇に見えてきたのは、100均の『ネオン看板』を巨大化させたギラギラ光る【T-GS】のロゴマーク。太郎国が誇る、世界初の魔導ガソリンスタンドだ。
僕がT-ACEを敷地内に滑り込ませると、オイルでテカテカに光る屈強な男たちが、猛烈な勢いで駆け寄ってきた。
「「「いらっしゃいませぇぇっ!! 大胸筋、仕上がってますかぁぁっ!!」」」
彼らは太郎城の自警団『アルクス・ビルダーズ』の地方支部メンバーだ。T-GSは彼らの貴重なシノギ(職場)でもある。
「レギュラー・マナ(高純度液体魔素)、満タンでお願い。あと窓拭きも」
「喜んでぇぇっ!! おい野郎ども! タロウ様の愛車に『マッスル洗車』だァァッ!」
号令とともに、マッスル店員たちが100均の『マイクロファイバークロス』を手に取り、ポージングを決めながら一糸乱れぬ動きでT-ACEの魔法鋼ボディを磨き上げ始めた。
「シュッ! ハッ! このサイドミラーの曲線、俺の上腕二頭筋と完全にシンクロしてるぜぇぇっ!」
彼らの異常な熱気と洗車スピードに、ライザはドン引きし、サリーはパチパチと拍手をしている。
「よし、今のうちにコンビニ(併設店)で買い出ししてこよう」
T-GSに併設された『タローソン』に入ると、そこは完全に現代日本のオアシスだった。
僕はルチアナのリクエストであるストゼロの補充と、お目当ての品――『豚神屋・激辛豚骨カップラーメン』をカゴに放り込んだ。100均の『魔法瓶』に熱湯を入れておけば、車内でもあのジャンクな味が楽しめるという寸法だ。
「よし、魔素も満タン、食料も補充完了! 出発するぞ」
T-GSのマッスル店員たちに見送られ、僕たちは再びハイウェイ本線へと合流した。
* * *
ポポロ村に向けて順調に車を走らせていた、その時だった。
パカラッ! パカラッ! パカラッ!
後ろから、尋常ではない蹄の音と共に、金ピカの装飾が施されたド派手な六頭立ての馬車が猛スピードで接近してきた。
ご丁寧に、馬車の御者台に立つ男が、魔法の拡声器を使ってこちらに怒鳴り散らしている。
「おいそこの平民! そして得体の知れない黒い鉄の箱! さっさと道を譲らんか! この馬車には隣国の誇り高きザック王子様が乗っておられるのだぞ!!」
「うわぁ……なんか面倒くさそうなのに絡まれたわね」
助手席のライザが、ルームミラーを見ながら嫌そうな顔をする。
「隣国のザック王子って……確か、やたらと態度がデカくて、各国の美しい女性を強引に側室にしようとしてるって噂の……」
サリーが少し怯えたように身をすくめる。
「おい! 聞こえんのか鉄の箱! 我が国が誇る最高級サラブレッドの脚力で、そのガラクタごと轢き潰してやろうかァッ!!」
後ろの馬車は、危険なほど車間距離を詰めて(いわゆる煽り運転をして)くる。
「……せっかくのハネムーンを、騒音で邪魔されたくないな」
僕はため息を一つ吐くと、T-ACEのハンドルをしっかりと握り直した。
「ライザ、サリー。しっかり掴まっててくれ。……100均チートとドワーフの技術の結晶、ちょっとだけ本気を出してみるか」
僕は、アクセルペダルを床までグッと踏み込んだ。
キュイィィィィィィンッッ!!!
「「えっ!?」」
一瞬のラグもなく、魔導モーターの爆発的なトルク(回転力)が四輪にダイレクトに伝達された。
後ろにG(重力)を感じるほどの強烈な加速。時速80キロで巡航していたT-ACEは、わずか数秒で時速140キロの世界へと突入した。
「な、なにこれぇぇっ!? 風の魔法より速いわよ!?」
「ひゃあぁぁっ! 景色が、景色が線になってますぅっ!」
ライザとサリーがシートに押し付けられながら驚愕の声を上げる。
「フゥーッ! 最高じゃないのタロウ! もっと飛ばしなさい!!」
後ろのルチアナだけは、ストゼロをこぼさないように掲げながら大はしゃぎしている。
一方、後ろで煽り運転をしていたザック王子の馬車は。
「な、なんだあの加速は!? 消えたぞ!?」
御者は目を剥いて絶叫した。
最高級のサラブレッドが泡を吹いて全力疾走しているにも関わらず、黒い鉄の箱(T-ACE)は、文字通り「次元の違う静けさと速さ」で、あっという間に地平線の彼方へと点になって消えていったのだ。
「ゲホッ、ゴホォッ!! な、なんだあのふざけた乗り物は! 我々の顔に泥水と砂埃を浴びせおってぇぇっ!」
馬車の窓から顔を出したザック王子が、真っ黒になった顔で悔しげに喚き散らすが、その声は虚しく風に消えるだけだった。
「ふぅ。まぁ、こんなもんかな。……安全運転に戻るぞ」
僕はアクセルを緩め、再び快適なクルージング速度に戻した。
「タロウ……あなた、本当にすごい国を作っちゃったのね。馬も魔法も使わずに、あんな金ピカの馬車を置き去りにするなんて」
ライザが、呆れたような、しかし誇らしげな笑顔で僕を見る。
「タロウさん、かっこよかったです!」
サリーも尊敬の眼差しを向けてくる。
「まぁ、100均グッズの応用だけどね。……おっ、見えてきたぞ」
窓の向こう、広大な平原の先に、のどかな田園風景と小さな家々が立ち並ぶ集落が見えてきた。
狂気の野菜と、毒舌の守り神が待つ農村――『ポポロ村』に到着だ。




