EP 2
魔導ワゴン『T-ACE』納車! 100均車中泊の極意
「完成したぜ、タロウ! ドワーフの魂と、お前の不思議な素材が生み出した最高傑作だ!」
太郎城の巨大な中庭。
朝陽に照らされて黒光りする巨大な鉄の塊の前に立ち、ガンドフが自慢の髭を撫でながら豪快に笑った。
「おおお……! すげぇ! 完璧なフォルムじゃないか!」
僕の目の前にあるのは、地球の高級ミニバン(アルファードやハイエース)を彷彿とさせる、スクエアで重厚な8人乗り魔導ワゴン――その名も『T-ACE』だ。
ボディの装甲には、あのベヒーモスの鱗を100均の『金属磨き』で極限まで磨き上げ、サリーの魔法で定着させた『漆黒の魔法鋼』が惜しげもなく使われている。ちょっとやそっとの魔法や魔獣の突進など、傷一つ付かない完全防弾・防魔仕様だ。
「な、なんなのよこの鉄の箱は……。馬もいないのに、本当にこれが動くっていうの?」
ライザが、恐る恐るT-ACEの黒光りするボディを指でツンツンと突いている。
「タロウさん、この窓ガラス、向こう側が全然見えませんよ?」
サリーも不思議そうに窓を覗き込んでいるが、それもそのはず、100均の『カーフィルム(透過率5%)』を全面に貼りまくった、完全プライバシー保護仕様だからだ。
「ふふふ……ライザ、サリー、驚くのはまだ早いぞ。これを見てくれ!」
僕はT-ACEの側面に近づき、ドアノブの横に設置された小さな魔導石(100均の『非接触センサー』を組み込んだもの)に、スッと手をかざした。
『ピッ』
ウィィィィィィン……。
静かなモーター音と共に、重厚なスライドドアが自動で横に滑り開き、広々とした車内空間が姿を現した。
「「えええええええっ!?」」
ライザとサリーが、目ん玉が飛び出るかと思うほど驚いて後ずさった。
「ど、ドアが勝手に開いたわよ!? ゴースト!? ゴーストが取り憑いてるの!?」
「ひぃぃっ! タロウさん、逃げてくださいぃっ!」
「違う違う! これは『魔法式パワースライドドア』だ! ほら、中に入ってみてくれ」
恐る恐る車内に乗り込んだ二人は、再び驚愕の声を上げた。
2-3-3配列の8人乗りの広々とした空間。シートには、100均の『フェイクレザー・シートカバー』と『低反発クッション』を贅沢に敷き詰めている。
「わぁっ……ふわふわです! 馬車の木の座席みたいにお尻が痛くなりません!」
「本当ね……しかも、なんだか涼しい風が吹いてくるわ」
ライザが見上げた先には、氷の魔石と風の魔石を100均の『卓上扇風機』の構造で制御した『魔導エアコン』が、快適な冷風を送り出していた。
「運転席のダッシュボードには、賢者君のナビゲーション用クリスタルモニターも完備! 走行中の音楽は、僕のスマホからBluetooth(魔法通信)でスピーカーに飛ばすからな!」
『ピピッ。マスター、各種計器異常なし。いつでも発進可能です』
モニターに賢者君のウサギのアバターが映し出され、親指を立てる。
「よし! さらにここからが『車中泊仕様』の真骨頂だ!」
僕はスキル『100円ショップ』を起動し、後部座席を完全にフルフラット(平ら)に倒した。
そこに、100均の『車中泊用エアーマット』を敷き詰め、『LEDランタン』を天井からいくつか吊るす。
あっという間に、T-ACEの車内は、広くて快適な『動く寝室』へと早変わりした。
「これで、高い宿屋を探す必要もないし、野宿で魔獣に怯えることもない。夜は星空の下で、三人で川の字になって寝れるってわけさ」
僕がニヤリと笑うと、ライザとサリーは顔を見合わせ、パァッと頬を赤く染めた。
「さ、三人で……寝るのね。……べ、別にいいけど。夫婦なんだし」
「た、タロウさんと一緒に、ふわふわのベッドで……えへへ」
二人の可愛すぎる反応に、僕のテンションも爆上がりだ。最高のハネムーンになること間違いなしである。
「タロウ様! お弁当と旅の物資の積み込み、完了いたしましたぞ!」
そこへ、セバスがマッスル兵士たちを引き連れてやってきた。彼らは100均の『大型クーラーボックス』を、ラゲッジスペース(荷台)にドスンドスンと積み込んでいる。
「ありがとう、セバスさん。留守中のことは頼んだぞ。オルウェルやキュロスにもよろしく伝えてくれ」
「はっ! お任せください。このセバス、タロウ様が心置きなくお休みになれるよう、命に代えても国をお守りいたします!」
セバスが、涙ぐみながらピカピカの頭を下げた。
「じゃあ、出発するぞ! ライザ、サリー、シートベルト(100均の荷締めベルトを改造)を締めてくれ!」
「「はいっ!」」
僕は運転席に座り、魔導エンジンのスイッチを入れた。
キュイィィィン……! という、近未来的なモーター音が微かに鳴り響く。
「よし、第一回・太郎国お忍び視察&ハネムーン……出発進行!!」
僕がアクセルペダルを踏み込むと、T-ACEは滑らかに、そして圧倒的な加速力で、太郎城の中庭を飛び出していった。
* * *
太郎城から続く、綺麗に舗装された大街道。
T-ACEは、馬車なら数日かかる距離を、時速80キロの猛スピードで静かに駆け抜けていた。
「すごい……景色があっという間に後ろに飛んでいくわ!」
「全然揺れないし、とっても静かですぅ!」
後部座席で外の景色に釘付けになっている二人の笑顔をバックミラー越しに見ながら、僕は快適なドライブを満喫していた。
「いやー、最高だね。お弁当でも食べながらゆっくり行こうか。ちょっと後ろのクーラーボックスからジュース取ってくれない?」
「はーい」
サリーがフルフラットのマットの上をハイハイして後ろへ行き、大型クーラーボックスのフタをカパッと開けた。
その瞬間。
「……ぷはぁぁぁっ!! やっと開いたぁ! 酸欠で死ぬかと思ったわよ!!」
「「「えっ」」」
クーラーボックスの中から、氷と保冷剤にまみれた芋ジャージ姿の女神――ルチアナが、プシュッとストゼロの缶を開けながら飛び出してきたのだ。
「ル、ルチアナ様!? なんでこんな所に!?」
サリーが悲鳴を上げる。
「アンタねぇ……新婚旅行でイチャイチャするのは勝手だけど、アタシを置いていくなんて薄情じゃないの! 天界の執務なんてやってられないわよ、ヴァルキュリアの小言を聞くくらいなら、クーラーボックスで凍死した方がマシよ!!」
ルチアナは悪びれる様子もなく、保冷剤を抱きしめながらストゼロをグビグビと煽った。
「……新婚旅行の車内に、酔っぱらいの駄女神が密航……」
僕はハンドルを握りながら、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
「頼むから、僕たちのスローライフの邪魔だけはしないでくれよ……」
「任せなさい! アタシは後ろで大人しく飲んでるから! さぁタロウ、次のパーキングエリア(?)で柿ピー買ってきてちょうだい!」
こうして、甘い新婚旅行になるはずだったT-ACEの車中泊の旅は、一人の厄介な駄女神を乗せて、波乱の予感を孕んだまま進んでいくのだった。




