EP 10
太郎国建国。俺たちのスローライフはこれからだ!
無音の世界の中。
僕の手から放たれた純白の光は、一筋の流星となって天を駆け上がった。
「行くぞ! 破邪の一矢!!」
アナステシア世界中の人々の『平和にダラダラ生きたい』『美味い飯をお腹いっぱい食いたい』という、泥臭くも圧倒的に純粋な祈りが込められた究極の矢。
それは、魔神王が撃ち下ろそうとしていた漆黒のエネルギー球と真っ向から激突――するかに見えた。
だが、次元が違った。
シュゥゥゥゥッ……!!
光の奔流は、魔神王の放った絶望の闇を紙クズのように一瞬で飲み込み、完全に蒸発させたのだ。
そのまま一切の勢いを落とすことなく、究極の光の矢は、山のように巨大な魔神王の胸元へと真っ直ぐに突き進む。
『ば、馬鹿なあああああ!!』
魔神王の三つの眼球が見開かれ、地獄の底から絞り出すような絶叫が響き渡る。
脆弱な人間どものちっぽけな感情(スローライフへの執着)が、己の絶対的な悪意を上回ったという事実が、理解できなかったのだろう。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!
光の矢は、魔神王の分厚い瘴気を、そして神話すら凌駕するはずの頑強な胴体をあっさりと食い破り、巨大な風穴を開けて完全に貫通した。
『グ、ガァァァァァ……ッ!! 忌まわしき、人間ども、め……!』
腹に巨大な光の穴を開けられた魔神王は、もがき苦しむように天に向かって三対の黒い翼を伸ばし――その直後、内側から溢れ出す純白の光に耐えきれず、パリンッ!とガラスが割れるような音を立てて粉々に砕け散った。
世界を覆い尽くそうとしていた漆黒の瘴気が、キラキラと輝く光の粒子となって、青空へと溶けていく。
「……終わった」
僕は『雷霆』を下ろし、深く、長く息を吐き出した。
空を覆っていた分厚い暗雲が晴れ、ルナミス帝都の崩壊した宮殿跡地に、暖かくて優しい太陽の光が差し込んでくる。
「タロウさんっ!!」
「タロウ!!」
真っ先に飛びついてきたのは、サリーとライザだった。
二人は僕の首に強く腕を回し、顔をグシャグシャにして泣きじゃくっている。
「タロウさん、すごいです……っ! 世界が、救われました……っ!」
「馬鹿、心配させすぎよ……! でも、最高にカッコよかったわ」
「ふぁぁぁ……やっと終わったわね。さ、祝勝会よ! ストゼロと柿ピーの準備はできてるわ!」
ルチアナが空気を読まずに宴会の準備を始めている。
その時、僕たちの足元――帝都の広場から、地鳴りのような歓声が湧き上がった。
魔神王の消滅を見届けた数万のアルクス・ビルダーズと、無血開城で寝返った市民たちだ。
「ヒャッハー!! 大胸筋の勝利だぁぁぁっ!!」
「タロウ様! タロウ様! タロウ様!!」
「タロウ様ぁぁぁーーーッ!!」
セバスが、鼻水と涙で顔をドロドロにしながら、崩れた階段を駆け上がってきた。彼は僕たちの前に恭しく跪き、天に向かって高らかに宣言した。
「暴君は討たれ、魔神は滅びました! 本日、この瞬間をもってルナミス帝国は解体され……タロウ様を絶対君主とする、真の平和国家『太郎国』の建国をここに宣言いたしますぞぉぉぉっ!!」
「「「「「ウオォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!」」」」」
帝都が、いや、大陸中が揺れるような大歓声。
誰も血を流さず(皇帝以外)、美味しいご飯と100均グッズで世界を征服してしまった。
「太郎国って……ネーミングセンス皆無かよ」
僕は苦笑いしながら、城のバルコニー(跡地)から、眼下で狂喜乱舞する民衆たちを見下ろした。
これから、この巨大な大陸全土を『リトル東京』みたいに整備して、全員が腹いっぱい飯を食えるようにしなきゃならない。
100均チートの出番は、むしろこれからが本番だ。政治闘争も、魔獣討伐も、もうお腹いっぱい。
「ライザ、サリー。……ちょっと忙しくなるけど、手伝ってくれるか?」
僕が振り返ると、二人は僕の腕にそれぞれ身を寄せ、満面の笑みで頷いた。
「ええ。あなたの歩く道が、私の騎士としての誇りよ、タロウ」
「はいっ! ずっとずっと、タロウさんのそばでお手伝いします!」
美味しいご飯と、気の置けない仲間たち。そして、僕を信じてくれる数え切れないほどの笑顔。
いろいろ遠回りしたけれど、僕がこの世界に降り立った時に望んだ景色が、確かにここには広がっていた。
俺たちの、本当に平和で、騒がしくて、最高に泥臭い『異世界スローライフ』は――ここから始まるのだ!
(完)




