第六十三章
ダンスパーティを今夜に控えているアイリス姫は、春に相応しい薄い黄色のドレスを選んだ。
ルナはアイリス姫のコルセットの紐を、順に結んでいく。
「……ルナ」
背中を向けたまま、アイリス姫が呟いた。
「ブッフバルト夫人は辞めさせられたわ……あなたのお陰よ」
「私は何もしていません」
「でもウィルフレッド兄様の心を動かしたのは、あなたよ。ブッフバルト夫人はウィルフレッド兄様直々に、宮殿から追い出された……面目丸つぶれよ」
ルナは密かに呼吸を忘れる。
──やはり王太子ウィルフレッドがどこかにいる!
その気配を感じようと感覚を研ぎ澄ませるが、今はアイリス姫の健康的な肢体の体温しか、感じない。
「あなたには世話になったわ」
「何のことです?」
感づいて、静かに憤慨する。
やはりあのトルヴァドール、ウィルは全てを打ち明けたのだ。
──ウサギの縫いぐるみ、黙っていてと約束してのに……嘘つき……嘘つき!。
彼女が回収した縫いぐるみは、アイリス姫の寝室のベッドの枕の下に隠されている。
また奪われないよう、用心しているのだ。
「はい、終わりました」
全ての紐を結び終わったルナは、次にアイリス姫のドレスを手に持ち、彼女に渡そうとした。
だがコルセットと下着姿のアイリス姫は振り向いて、手を伸ばし、何かを彼女に差し出した。
「これ、あげるわ」
ガラス製の丸い物入れに、砂糖を煮出して作るあめ玉が、幾つか入っている。
「……ありがとうございます」
ルナは首を少し傾げたが、すぐに甘いもの入手にうれしくなる。
「……だから私の側にずっといてね」
マリアがドレスと共に選ばれた靴を持ってくるから、アイリス姫はルナから離れる。




