第四十五章
「いったい何事です? そのお姿は?」
ウィルと馬車に到着すると、彼の護衛だろう若い男が、唖然として立ち上がった。
「気にするなマチアス、少し運動をしただけだ」
「しかし……」
じろっと友好とはほど遠い目が、ルナに向けられる。
彼女はいつもどおりの微笑で、迎え撃った。
マチアス……ルナは内心で測る。
手にしているのはロングソードであり、腰には拳銃がある。
確かに腕は立つのだろう、身のこなしが普通の人とは違った。
だからルナは敢えて体勢を崩し、何てことの無い娘のやぼったい、不安定な姿勢を演じた。
「さあ、ルナ」
ウィル場所の扉を開き、ルナはマチアスの視線に気づかないふりをしながら、馬車に乗り込む。
ウィルが彼女の対面に座り、扉を閉めた。
馬車が動き出す。
すぐにルナは居心地の悪さに、困惑する。
ウィルが縫いぐるみを膝に置き、真剣な目で彼女を見つめていた。
「何ですか? 私の顔に何か付いていますか?」
耐えられなくなり、ルナが尋ねると、ウィルは縫いぐるみを示す。
「これを探していたのか? ここ数日眠りもしないで、あんな危険なところで」
「はい。ですが危険ではありませんでした、皆さん実は優しい方です」
「ふー」とウィルが息を吐く。
「これは、君の物じゃないし、君が探す理由はない。これはアイリス姫のものだ」
ルナは驚く。
目の前の自称詩人が、そこまでアイリス姫に詳しいとは知らなかった。
「ご存じなのですか? それが何かを」
「ああ、これは……」
ウィルは何かに耐えるように、唇を噛んだ。
ごとごとと、しばらく馬車が揺れる音しかしない。
「アイリス姫はブッフバルト夫人にこれを捨てられ、参っていた……だからなのか? アイリス姫のために?」
またウィルの詰問が再会する。
「違います。私のためです。それがないとアイリス姫の機嫌が悪くなるので、私が叱られたくないだけです」
「そうか……」
ウィルは懐に手を入れて、革の包みを取り出す。
それを開くと、中には細い瓶と、やはり細いペンが入っていた。
珍しい、携帯用の筆記用具らしい。
「これを買わせてくれ」
「ダメです」即座にルナ断る。
「それはアイリス姫のものです」
「わかっている。だけでこれをこのまま渡すわけにはいかないだろ? こんなに汚れている」
確かに縫いぐるみはゴミ山にあったせいか、所々に染みがある。
「だから僕がこれを洗って、アイリス姫に渡そう」
「そうですか。ではお願いします」
元々、ルナは縫いぐるみをアイリス姫に手渡すつもりはなかった。
朝にでも、そっと置いてくるつもりでいた。
だが確かに、汚れていては台無しだ。
「私が探した、とは伝えないで下さい」
「何故だ」
ウィルが目を上げる。その視線は鋭い。
「……点数稼ぎをしたように、見られたくありません」
「ではなぜ、これを探したんだ。危険を冒してまで」
「先程言ったはずです。私のため、それだけです」




